コミュニケーション

大学の最新の研究成果・知見をまちづくりに

――3月25、26日、京都大学の若手研究者が北海道倶知安町で、

市民参加型の「ビジョナリーワークショップ 2050年の倶知安町

—町民と若手研究者で描くビジョン—」を主催

北海道倶知安町は北海道の南西部に位置する町で、ニセコ連峰や羊蹄山などの自然景観が美しいことで知られる。近年は、外国人観光客の増加に伴い多言語対応の観光施設やサービスが充実し、日本にいながら国際的な環境を味わうことのできるユニークな町。一方、過疎化や高齢化、若者や労働力の流出、観光客の季節的な変動によってオフシーズンへの対応をどうするかなどの課題も抱える。このワークショップは、そんな倶知安町の持続的な発展を見据え、将来の町の方向性や目標を考える機会にしようと開催された。倶知安町からは農業従事者、商業関係者、スキー場・開発事業者、役場職員、病院関係者、中学生・高校生など、京都大学からはL-INSIGHT※フェローおよび大学生・大学院生が参加し総勢は46名となった。 ※京都大学L-INSIGHTは、2019年11月に文部科学省による令和元年度科学技術人材育成費補助事業の「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」の採択を受け開始されたプログラムで、2030年代に世界一級の研究者と成り得る、世界視力を備えた次世代トップ研究者を育成することを目的としている。


集合写真

「研究成果を社会実装したい」(研究者)、「研究者の技術やアイディアを

まちづくりに取り入れたい」(町民のみなさん)との想いが形に

 主催者の一人である京都大学大学院農学研究科助教の白石晃將さんは、「2022年7月、倶知安町で農林水産業を中心にフィールドワークを行った際、たくさんの魅力を発見するとともに町が抱える諸課題を知った。町のビジョンや長期的な戦略に研究者の視点を加えることで、何かしらの貢献ができるのではと感じた」とワークショップ開催の発端を語る。そこで他のフェローとともに計画、今回の運びとなったという。「研究者としては専門的な知見をまちづくりに活かすための実践的な学びの場となり、町民のみなさんには大学の最新の研究成果を取り入れ、新しい町づくりや将来へ向けてのアイディアに活かすきっかけになるのでは」とその意義についても語ってくれた。

 ワークショップは、自分たちの価値観や町の魅力を参加者で共有することからはじまり、「観光と開発と自然環境共生」、「教育やコミュニティ発展と公衆衛生」、「気候変動と一次産業」、そして「中高校生」の4つの視点から2050年の町の未来を語り合い、最後にそこに至るビジョンを描いた。その際「目の前の課題ばかりに目が向き過ぎないよう、バックキャスティング(未来思考)で議論が進むことにも注力した」とフェローの一人として会を主催した京都大学医学部附属病院助教の磯部昌憲さん。

文字町長による開会挨拶

「おいしさ シンカ 羊蹄山

〜NOW WE SEE, NOW WE CHANGE, FUN NISEKO〜」

 ワークショップの最後に考案されたのがこのキャッチコピー。「シンカ」は、進化、深化、真価などを表し、技術の進歩と、コミュニティが深まることによって、町の精神的支えとなっている羊蹄山の麓で育まれる美味しい作物の価値がいつまでも保たれて欲しいという願いを込めた。また「おいしさ」をひらがな、「シンカ」をカタカナ、「羊蹄山」を漢字にすることで多様性を、サブタイトルを英語表記にすることで国際性も表現した。

 「町の将来を考える会議は倶知安だけでなく全国各地で行われていますが、若手研究者の知見が得られ、地元の10代の中高生も参加し、意見が反映される会合は、今まで私は聞いたことがありません」と倶知安観光協会理事の早川貴士さん。参加した中高生も、「大学生や大学院生、若手研究者と意見交換でき、とても有意義だった」と語る。大学生として参加した京都大学農学部2回生の土田美咲さんは「唯一無二の自然、地元をこよなく愛する町の人々、一方で複雑な利害関係…全てが自分の想像を超えていてとても驚きました。大学での研究を通じて、このような町の課題を解決できるような人物になるため、さらに学業に励もうと思いました」、京都大学大学院総合生存学館博士一貫課程2回生の光部雅俊さんは「研究者でもまちづくりに貢献できることが実感できた。専門知識を身につけ、それを実践する場をたくさん作り出せる研究者になりたい」と語ってくれた。「研究成果として得られた知見や技術には学術的価値があるのはもちろん、それが社会で有効活用されると、新たな社会システムの創出や、製品・サービスの開発などにつながり、経済や社会に多くの恩恵をもたらす。そのためにも研究者と市民との対話は欠かせないことから、これからもこのような機会をできるだけ多く設けていきたい。また、ビジョンを打ち出した倶知安町とは今後とも連携を続けたい」と白石さんは今後の抱負を語ってくれた。

グル-プワークの様子

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