第12回科学の甲子園全国大会(科学技術振興機構主催、茨城県など共催)が、3月17~19日の3日間、つくば市のつくば国際会議場およびつくばカピオで開催されました。昨年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止を考慮し、各都道府県会場をオンラインでつなぎ筆記競技のみを行う分散開催でした。今年度は通常開催となり、予選を勝ち抜いた全国47都道府県代表校は、1・2年生の6~8人から成るチームで科学に関する知識とその活用能力を駆使してさまざまな課題に挑戦し、総合点を競い合いました。筆記競技と実技競技3種目の得点を合計した総合成績により、神奈川県代表の栄光学園高校が第7回大会以来5年ぶり2度目の総合優勝を果たしました。2位は奈良県代表東大寺学園高校、3位は愛知県代表海陽中等教育学校でした。
優勝するという情熱がチームの強み
栄光学園高等学校は、1947年にカトリック教会の修道会の1つであるイエズス会によって設立された私立中高一貫校です。「科学の甲子園」には、第7回大会で初優勝を果たし、今回2度目の総合優勝の栄冠に輝きました。筆記競技、実技競技3種目がいずれも2位以内に入らないでの総合優勝は、史上初となりました。
今年のメンバーは武田恭平(キャプテン)君、中村陽斗君、山口敦史君、成山優佑君、加藤奏君、山中秀仁君、真野恵多君、金是佑君の8人。表彰式では、チーム全員で登壇し優勝旗・トロフィー・金メダルを授与されました。優勝校インタビューではキャプテンの武田君が「各競技項目で何も表彰されず、今大会はダメだったか…と落ち込んでいたところ、最後に校名を呼ばれ驚きました。優勝できたことはいまだに信じられずものすごく嬉しいです」と優勝の喜びを語りました。チームの強さや優勝できた要因などについては、「みんな優勝に向けてすごく勉強した。毎日放課後に残ったり休日でも学校や公民館などを借りて集まったり。実技競技の練習量も多かったですが、やっぱり優勝する! という情熱がチームの一番の強さだと思います」と成山君。
また、中村君は、「科学の甲子園は科学好きな人なら貴重で楽しい経験になるのでぜひ出場してほしい」と科学の甲子園を目指す後輩たちにメッセージをおくりました。
2年ぶりに会場に集結! 668校7870人がエントリー
科学の甲子園は、全国の科学好きな生徒らが集い、競い合い、活躍できる場を構築し、提供することで、科学好きの裾野を広げるとともに、トップ層の能力伸長を目的としています。今年の大会には、668校から7870人のエントリーがありました。
開会式では、司会者から47都道府県の代表校の紹介が行われ、各校が学校名の書かれている横断幕を掲げ、決めのポーズを披露してくれました。大会は初日に科学に関する知識とその応用力を競う筆記競技を、2日目に実技競技を行い、最終日に表彰式が行われました。
「第13回科学の甲子園全国大会」は令和6年3月中旬に茨城県つくば市で開催される予定です。
筆記:チームで協力して習得した知識をもとに融合的な問題に挑む
筆記競技は各チーム6人を選出して行われました。競技時間は120分。それぞれの得意分野を活かして協力しながら、理科、数学、情報の中から習得した知識をもとにその活用について問うもので、教科・科目の枠を超えた融合的な問題など計12問に挑みました。例えば第2問は、ハンドスピナーで遊んでいるうちにどれくらい回り続けるのか調べてみたくなり、回転する様子をスマートフォンで動画撮影したという身近にありそうな設問。肉眼ではしっかり回っているように見えるのにスマートフォン上の画面ではほぼ静止しているように見える時間帯があったのはなぜか。回転しているハンドスピナーが動画上では静止しているように見えるとき、ハンドスピナーの「回転数」について、少なくともどのようなことがいえるのか。関係する数値を含んだ形で答えるなど、数学と物理の融合問題でした。
筆記競技では久留米大学附設高校(福岡県)が最高得点をあげ、第1位のスカパーJSAT賞に輝きました。
実技❶:にほんの振り子 振動現象の奥深さを感じる
「にほんの振り子︱連成振り子の物理」(競技時間100分・配点240点)は、各チームにハンガーラックで作られた実験用スタンドとゼムクリップや水平器、スケール付きマスキングテープ等が配られ、それらを使用して行う競技。実験1では振り子の周期を指定された秒数以内に調整。実験2‐1は連成振り子の設定と観察、実験2‐2は連成振り子の実験・計測・動画撮影、実験3は連成振り子の設定と測定、実験4では斜め45度方向の観察を行いました。振り子のように固有振動を持つものには共振(共鳴)と呼ばれる現象が見られます。高等学校までの物理では振り子や共振現象については簡単にしか扱われませんが理工系大学ではより深く、関連づけて扱います。少し背伸びをして、振動現象の奥深さを感じてもらおうという競技でした。
今年度は白陵高校(兵庫県)が1位となりトヨタ賞を獲得しました。
実技❶:にほんの振り子 詳細解説
振動は日常よく見られる現象である。代表例として振り子の運動があげられるが、ひとつの振り子の場合、振動の振幅が大きくないときには、その周期は重力加速度と振り子の糸の長さだけに依存する。ふたつの振り子を互いに力を及ぼすようにバネなどで連結した場合(連成振り子)、その運動は複雑になる。しかし、この連成振り子の運動は、それぞれ固有の周期(糸の長さや連結するバネのばね定数などに依存)を持つふたつの基準振動(normal mode)の重ね合わせで表されることがわかっている。
実技競技①では、糸の長さlとおもりの重さが同じであるふたつの振り子を、支点からl0の位置に軽くて硬い( 重さ0で伸び縮みしないと見なせる)ストローを使って連結した連成振動を扱う。この場合のふたつの基準振動は、周期がそれぞれ長さlと(l – l0)の振り子の振動となることが運動方程式を用いて示すことができる(大学の物理で学ぶ)。
実際に、【実験2−2 ( 1 )、( 2 ) 】と【実験3( 1 )、( 2 ) 】で、このふたつの基準振動を観測させている。実験2ではl0 = 10 cm、実験3ではl0 = 20 cmとした場合である。<同方向条件>と<逆方向条件>で測定した振り子1(振り子2でも同じ)の周期が、それぞれ糸の長さl と(l – l0)に対応する基準振動の周期である。<同方向条件>の場合は、【実験1】で観測した同じ振動であり、<逆方向条件>の場合は、結果的に動かないストローの端を支点にした(糸の長さが短くなった)振動である。
【実験2−2 ( 3 ) 】と【実験3 ( 3 ) 】では、振り子1と振り子2の振れ幅が交互に入れ替わる連成振り子の現象をタブレットを用いて動画撮影し、それを解析する。この現象もふたつの基準振動の重ね合わせで表される。個々の振り子の運動を詳しく見ると、振れ幅がゆっくりとした一定の周期tで大小を繰り返し(うなりの現象)、その振れ幅の間を短い周期Tで振動していることがわかる。問4では、撮影動画の解析から、tとTを求めさせている。ふたつの基準振動の振動数(周期の逆数)をf1s, f2s( f1s > f2s )と書くと、1 / t = f1s – f2s、1 / T = (f1s + f2s) / 2と表せることが解説に述べてある。これをもとに、問4で得られたtとTの値からf1sとf2sを計算し、その逆数をとって、ふたつの基準振動の周期T1sとT2sを求めるのが問5 ( 1 )である。果たして、T1sとT2sの値が、【実験2−2】と【実験3】で計測した<同方向条件>と<逆方向条件>の場合の周期とよい一致をみるであろうか、それを検討し考察するのが問5( 2 )である。
連結部分に(重さ0で伸び縮みしないと見なせる)ストローを使ったこの連成振り子の実験は、関連するふたつの基準振動を直接目で見ることができる(従ってその周期を簡単に測定できる)点で、たいへん興味深いものである。
最後に、問題の中で使われていた用語についてひとこと:問題及び実験の手引きに、振り子1と振り子2の振れ幅が交互に入れ替わる現象で<共振>という用語が使われていた。
ふたつの振り子が共に動くという意味で<共振>と記されたと思うが、違和感がある。系(あるいは物体)にその固有振動数に近い振動数で振動する外力を加えると、系は外からのエネルギーをもらって大きく振動するようになる。一般に、この現象を共振と呼ぶ。上記の連成振り子の場合は、全体で一つの閉じた系とみなされ、そのエネルギーは保存し、ただ、系の中のふたつの振り子の間でエネルギー(従って振れ幅)が交互に入れ替わる現象である。
横浜国立大学名誉教授 佐々木 賢
実技❷:顕微鏡、自分で作れるってよ 自作顕微鏡で細胞を観察
「顕微鏡、自分で作れるってよ」(競技者3人・競技時間100分)は別冊「顕微鏡製作と実験の手引き」を読み、顕微鏡を製作し、その顕微鏡を用いて与えられた標本や、作成したネギ根端組織のプレパラートを観察し、問題を解き進める実技競技。標本を用いた観察を正確に行うため、まず優れた顕微鏡をチーム内で創意工夫をして製作すること。十分な実験計画をたてることや実験技術の高さや正確さ、豊富な知識や思考力、発想力、チームワークなど複合的な要素が求められました。
最高得点を獲得した久留米大学附設高校が1位に輝き、学研賞受賞しました。
実技❷:顕微鏡、自分で作れるってよ 詳細解説
「【問題と手順】概要」にそって、高校時代に全国大会に参加した大学生が説明します。
1 別冊「顕微鏡製作と実験の手引き」を読み、顕微鏡を製作する。
製作にあたっての重要なポイントは、2つのレンズを結ぶ光軸に光源と観察する標本があることを確認しながら実験を進めること。そして振動を避けるために滑り止めシートを敷き、机の振動などが顕微鏡装置になるべく伝わらないように工夫することである。接眼レンズと対物レンズを接近させているチームもあったが、接眼レンズと対物レンズの距離は「およそ160 mm 」というヒントが与えられているので、それをベースに調節していく必要がある。
2 顕微鏡に関する文章1と文章2を読んで、問1と問2に答える。
問1はレーウェンフックの単式顕微鏡の構造に関する問題。光学顕微鏡の種類、歴史、仕組みについて十分な知識があれば解答できるが、なくても問題文を丁寧に読み構造を分析すれば正解へ辿り着けたはず。問2は複式顕微鏡のレンズに関する問題。顕微鏡の倍率や鏡筒部の長さを求め、分解能や開口数について考察するなど、物理の素養も求められる。生物と物理を同時に学んでいる高校生は少ないかもしれないが、こういう横断的な知識を見るのも科学の甲子園の特徴だ。
3 製作した顕微鏡を用いて、標本A・標本Bの観察を行い、問4に答える。
問4は生物の各組織の特徴を知り、顕微鏡の製作とそれを用いた撮影を適切に行うことができれば解答できる。実際の撮影では、標本を適度な明るさで撮影するために、偏光フィルターで光度を調節する必要がある。標本Aは維管束が散在していることから、単子葉茎横断だとわかる。また、標本Bは髄質の中に糸球体が散在していることから、腎臓だとわかる。
4 「ネギ根端組織の写真」を使って細胞周期に関する問5に答える。
問5は細胞周期に関する典型的な問題。体細胞分裂中期と後期の細胞数を数え、そこからそれぞれの期の時間を計算すれば良い。ただし、実際の写真を使っているため、移行状態にある細胞や、通常習う角度とは異なる角度から見た細胞についての判定が難しく、難易度を上げている。
5 体細胞分裂が盛んなネギ根端組織のプレパラートを製作し、問3と問6に答える。
問3はステージの微動装置の製作に関して、留意するべきことを穴埋めする問題。微量なステージの動きを実現するために小さいシリンジで大きいシリンジを動かすこと、空気よりも水の方が圧力による体積変化が少ないので、水で注射筒と連結チューブの中を満たすこと、圧力により伸縮しにくい固いチューブを使用すること、チューブが曲がることによる内容積の変化を防ぐために、チューブと制御用注射筒は架台に固定しておくこと、といった具合。「【問題と手順】概要」には最後に答えることになっているが「1~ 5は並行して行うことも可能である。チームで相談のうえ,役割を分担するなどして効率よく進めること」ともあるように、最初に軽く目を通していれば、顕微鏡製作の強力なヒントになるはずである。問6はこの競技でやってきたことが全て試される、最終問題に相応しい問題。求められる知識は問5と同様だが、制作した顕微鏡やプレパラートの精度の高さが求められる。400 倍で観察するには、ピント合わせのためにステージの移動装置も作る必要がある。100倍で観察した画像より、400倍で観察した画像の方が高得点になるため、各チームの戦略が問われた。プレパラートの作成では、日頃の実験の積み重ねが所要時間や完成度の差になって表れたと思われる。また、細胞同士が同期しておらず、細胞周期のさまざまな段階にある根端分裂組織を選択的に取り出してプレパラートにすることが重要であり、それができないと間期の細胞しか観察できない。
選手たちは、最初の方は特に、なかなか上手く撮影できていない様子だった。頭であれこれ考えていても、実際にやってみると上手くいかないのが実験では当たり前。100 分という短い制限時間の中で、試行錯誤を繰り返し、どれだけPDCAサイクルを回せたかが勝利の分かれ目だったに違いない。
実技❸:おかえりフックン船長 マイコン制御でカートを自律航行
事前に公開されていた実技競技の「おかえりフックン船長 マイコン制御によるサンプルリターンカート」(競技者3人・競技時間150分)は、小惑星探査機「はやぶさ」になぞらえて、マイコンボードを搭載した競技用車両(以下、カートという)を用いて小惑星(サンプル採取場所)のサンプルを地球(スタート・ゴールエリア)に持ち帰る競技。実際の「はやぶさ」は主に地球からの通信データで航行ルートを制御したが、この競技では、マイコンボードに書き込まれたプログラムに基づいて、設定されたコースをすべて自律的に航行させる。
事前に配付された部品・材料を用いて、規定に則ったカートを製作して大会当日に持参し、実際のコースでの試走状況等に応じてカートやプログラムを調整し、各校が競技課題にチャレンジした。
海陽中等教育学校(愛知県)がチームポイント120 ポイント、航行時間1分54秒の成績で1位となり、アジレント・テクノロジー賞に輝きました。
【第12回 科学の甲子園全国大会】 成績一覧
総合優勝(文部科学大臣賞・ETS Japan 賞) 神奈川:栄光学園高校
総合2位( 科学技術振興機構理事長賞・日本理科教育振興協会賞) 奈良:東大寺学園高校
総合3位(茨城県知事賞・SHIMADZU 賞) 愛知:海陽中等教育学校
総合4位(つくば市長賞・旭化成賞) 北海道: 札幌市立札幌開成中等教育学校
総合5位栃木:県立宇都宮高校
総合6位千葉:県立東葛飾高校
総合7位大分:大分東明高校
総合8位兵庫:白陵高校
総合9位岐阜:県立岐阜高校
総合10位鹿児島:ラ・サール高校
筆記競技1位(スカパーJSAT 賞) 福岡:久留米大学附設高校
筆記競技2位(内田洋行賞) 奈良:東大寺学園高校
実技競技① 1位(トヨタ賞) 兵庫:白陵高校
実技競技① 2位(ケニス賞) 北海道: 札幌市立札幌開成中等教育学校
実技競技② 1位(学研賞) 福岡:久留米大学附設高校
実技競技② 2位(テクノプロ賞) 群馬:県立前橋女子高校
実技競技③ 1位(アジレント・テクノロジー賞) 愛知:海陽中等教育学校
実技競技③ 2位(ナリカ賞) 山梨:県立甲府南高校
企業特別賞(帝人賞)(女子生徒応援賞) 女子生徒3名以上を含むチームの中の最優秀校 岩手:県立盛岡第一高校
学校名(カッコ内は出場回数)
県立開邦高校(5)
ラ・サール高校(12)
県立宮崎西高校(12)
大分東明高校(3)
真和高校(5)
県立長崎西高校(6)
県立唐津東高校(5)
久留米大学附設高校(11)
高知学芸高校(8)
愛光高校(5)
県立丸亀高校(6)
徳島市立高校(9)
県立山口高校(4)
県立広島叡智学園高校(初)
県立倉敷天城高校(4)
県立松江北高校(6)
県立米子東高校(2)
智辯学園和歌山高校(9)
東大寺学園高校(4)
白陵高校(2)
府立北野高校(4)
京都市立西京高校(初)
県立膳所高校(12)
県立四日市高校(4)
海陽中等教育学校(7)
県立浜松北高校(2)
県立岐阜高校(12)
長野県屋代高校(2)
県立甲府南高校(6)
県立高志高校(初)
県立金沢二水高校(2)
県立富山中部高校(10)
県立新潟高校(10)
栄光学園高校(11)
都立武蔵高校(2)
県立東葛飾高校(3)
県立大宮高校(4)
県立前橋女子高校(3)
県立宇都宮高校(9)
県立並木中等教育学校(6)
県立福島高校(5)
県立酒田東高校(2)
県立秋田高校(10)
聖ウルスラ学院英智高校(初)
県立盛岡第一高校(10)
県立弘前高校(5)
札幌市立札幌開成中等教育学校(2)
「第12回 科学の甲子園全国大会」協働パートナー一覧(50音順)
●旭化成株式会社
●アジレント・テクノロジー株式会社
●ETS Japan
●株式会社内田洋行
●株式会社学研ホールディングス
●ケニス株式会社
●株式会社島津製作所/株式会社島津理化
●スカパーJSAT株式会社
●帝人株式会社
●テクノプロ・グループ
●トヨタ自動車株式会社
●株式会社ナリカ
●公益社団法人日本理科教育振興協会
応援企業・団体一覧
●サントリーホールディングス
株式会社
●公益財団法人日本発明振興協会