第13 回 科学の甲子園全国大会
――チームの団結力で通算3度目の総合優勝
第13回科学の甲子園全国大会(科学技術振興機構主催、茨城県など共催)が、3月15 ~18日の4日間、つくば市のつくば国際会議場およびつくばカピオで開催されました。昨年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、無観客での開催となりましたが、今年度は通常開催となりました。予選を勝ち抜いた全国47都道府県代表校は、1・2年生の6~8人から成るチームで科学に関する知識とその活用能力を駆使してさまざまな課題に挑戦し、総合点を競い合いました。
筆記競技と3種目の実技競技の得点を合計した総合成績により、神奈川県代表の栄光学高校が大会史上初の連覇を達成し3度目の総合優勝を果たしました。2位は東京都代表筑波大学附属駒場高校、3位は岐阜県代表県立岐阜高校でした。
優勝の喜び 連覇の秘訣は事前練習の積み重ね
栄光学園高等学校は、神奈川県横須賀市にあるイエズス会によって設立された私立中高一貫校です。「科学の甲子園」全国大会には12回出場しており、第7回大会で初優勝。今回3度目の総合優勝を大会史上初の連覇で飾りました。
今年のメンバーは金是佑君、加藤奏君、山中秀仁君、大沼拓実君、稗田和希君、中川柊哉君、永田駿平君、藤井悠貴君の8人。表彰式では、他の大会に出場している永田君を除く7人で登壇し優勝旗・トロフィー・金メダルが授与されました。優勝校インタビューでは2大会連続出場の加藤君が「この日の為に県大会の準備も含めて、長い間努力をしてきましたので、それが優勝という一番いい形で報われて本当に嬉しいです」と喜びを表し、連覇できた秘訣をキャプテンの金君が「優勝できた理由として筆記競技で1位となったこと。今回のチームはある一科目に凄く力のある人がいて、そういったメンバーに相談したりして事前に練習を重ねたことが本番で生きたのではないか」と教えてくれました。今夏開催の第56回国際化学オリンピックに出場が決定した大沼君がチームとしての強みを、「個人大会の時は自分一人で処理しなければならないが、実験や筆記競技で自分の知らない知識が問われたりしたときに、その知識を知っていたり処理能力が高い人に任すことができるのはチーム競技として本当に良い面だと思います」と語ってくれました。
704校、8042人がエントリー
科学の甲子園は、全国の科学好きな生徒らが集い、競い合い、活躍できる場を構築し、提供することで、科学好きの裾野を広げるとともに、トップ層の学力伸長を目的としています。第13回大会には、704校から8042人のエントリーがありました。
開会式では、司会者から47都道府県の代表校の紹介が行われ、各校が学校名の書かれているフラッグを掲げ、決めのポーズを披露してくれました。また、選手宣誓は1月1日に発生した能登半島地震の被災地である石川県代表・金沢大学人間社会学域学校教育学類附属高校の武川桜太朗君と川原紗和さんが務めました。大会初日は開会式、オリエンテーション、科学に関する知識とその応用力を競う筆記競技を、2日目に実技競技を行い、3日目に表彰式やフェアウェルパーティーなどが行われました。
「第14回科学の甲子園全国大会」は令和7年3月下旬に茨城県つくば市で開催される予定です。
筆記 教科・科目の枠を超えた融合的な問題にチームで挑む
筆記競技は各チーム6人を選出して行われました。競技時間は120分。メンバーそれぞれの得意分野を活かしてチームで協力しながら、理科、数学、情報の中から習得した知識をもとにその活用について問う問題で、教科・科目の枠を超えた融合的な問題など計12問に挑みました。例えば第1問、空気鉄砲は昔、竹で作った筒の中に水で濡らして丸めた紙を2つ入れ、竹の棒で押して発射させていました。今は小学校の理科の教材としてプラスチック製のものが販売され、目盛りがついた半透明の筒と、少し柔らかい円筒形の弾が2つ、弾を筒の中に押し込むための持ち手のついた棒という構成となっています。この装置で弾Aを発射できる仕組みについて説明する設問。昭和の時代は、細くて柔らかいタイプの竹で、水鉄砲や空気鉄砲を作った子供がたくさんいました。今も各地の自然教室などで竹の空気鉄砲を作る機会がありますが、最も簡単な原理の説明は、気体の圧力と体積の関係を示したボイル・シャルルの法則です。空気の体積と圧力の関係は小学校4年生の理科で学習しますが、ここでは高校生向けに棒を押し込むときの速さも考慮し、気体の状態変化を断熱変化と考えさせています。
筆記競技では栄光学園高校(神奈川県)が最高得点をあげ、第1位のスカパーJAST賞を受賞しました。
実技① 地質ワールドフェア・互譲の精神で競技に臨む
「アッピン地質ワールド」(競技時間100分・配点240点)課題1「海岸に露出している地層の走向・傾斜を測定し、地質構造を明らかにせよ」ではビデオ視聴後にローテーション表の時間内(10分間)に各チームで譲り合って計測などを行い解答しました。課題2「トンネルをAR『Augmented Reality(拡張現実)』で調査し、地質構造の模型をつくれ」も指定の時間内(10分間)に各チームで会場中央の指定場所で観察を行い、粘土模型を製作し、スケッチを行いました。課題3「地質ワールドで採取できる岩石の標本を製作せよ」では岩石標本採取場所で標本を採取し、実技卓で解答しました。課題1の出題意図は「走向・傾斜の測定から大まかな断面図を書く」ことにあり、露頭をつなぎ合わせてできる地層の立体構造が理解できているかが問われました。課題2の模型製作は粘土で単斜構造を製作、その後トンネル部分を地層の重なりが乱れないように慎重に掘れば完成。課題3は標本箱に記された岩石名に従って、採取・鑑定・確認したすべての岩石が、正しい場所に収まっていればよく、「地学」という時間と空間の連なりを視野に入れた、幅広い総合的な学びを大切にしながらフェア・互譲の精神で競技に臨み3つの課題に挑戦して欲しい狙いがありました。県立宮崎西高校(宮崎県)が1位のトヨタ賞に輝きました。
実技② 手のひらの金属鉱山未知化合物や金属板を特定せよ
「手のひらの金属鉱山」(競技時間100分・配点240点)は与えられた①~⑭のラベルの付いた点眼ビンおよび⑮~⑳の6種類の金属板を用いて点眼ビンの水溶液に含まれている未知化合物や6種類の金属板を特定し、それぞれのイオン化学式や化学式で解答を行う競技。無機化合物の定性分析といえば、陽イオンである金属イオンのみを追いかけて沈殿や水溶液の色を手がかりに特定していくことが多いですが、本競技では水溶液中の陰イオンが沈殿などに関わってきます。混合させる水溶液の双方に陽イオンと陰イオンがそれぞれ1種類ずつ入っているため、それらのイオンのどの組み合わせで反応が起こったのかを見つけ出すことが本競技の難しい点です。水溶液中の陽イオンのみに注意を払うのではなく、水溶液中のあらゆるイオンについて考える点が、より実際の定性分析の実験に近いものとなっています。
この競技は、未知の水溶液同士や金属板との反応から、その変化に気付き、何も反応が起きないことも判断材料としてこの水溶液や金属板は何であるかを仲間と協議し、判断していくものであり、複数の試薬を混合して行う実験のため高い推理能力が求められます。最高得点を獲得した神戸大学附属中等教育学校(兵庫県)が1位に輝き、UBE三菱セメント賞を受賞しました。
実技③ バルーンフェスタ㏌つくば熱気球の昇降運動を科学せよ!
事前に公開されていた実技競技の「バルーンフェスタ㏌つくば」(競技者4人・競技時間170分)は、指定の材料で3つの要素―ⅰ指定された時間(一定の範囲)で上昇および下降(以下、滞空という)できる。ⅱできるだけ重いおもりを積載して滞空できる。ⅲ滞空後、スタート地点からできるだけ近い場所に着地できる。―を併せ持つ熱気球(以下、気体という)を製作し、限られた時間内で製作された機体に定められた方法で熱風を入れて滞空させ、滞空した時間と積載した重量に基づいて算出される得点を競う競技。全チームが2回の予選チャレンジを行い、上位15チームで決勝チャレンジを行いました。 各チームの順位および競技得点は、決勝チャレンジを行ったチームはその結果で、それ以外のチームは予選チャレンジの得点に基づいて決定されました。県立藤島高校(福井県)が1位となり、学研賞に輝きました。