コミュニケーション

もっとリアルにオンラインで

「効き目アリ!」から10年

6Gで巻き返そう

宮田 清蔵 先生 元東京農工大学学長
宮田 清蔵 先生

~Profile~
1969年東京工業大学大学院博士課程修了(工学博士)後、東京農工大学助教授、カリフォルニヤ工科大学客員教授、ベル研究所客員研究員を経て、86年より東京農工大学教授。2001年には同大学学長。05年より独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)シニアプログラムマネージャー等を務めてこられた。

「効き目アリ!」は、東京農工大元学長で、国の科学技術推進において目利き役を果たしてこられた宮田清蔵先生監修の元に、2012年まで続けられた企画です。その第1回【2010年5月25日 vol.87】では、CO2削減等の時代の要請に応える究極の切り札としてホログラム※1技術を使ったテレビ会議システムをご紹介しました。

 新年度に入って、みなさんの多くは、突然のオンライン授業に戸惑っておられるかもしれません。あるいは、来る日も来る日もオンライン授業で、画面に映る先生や仲間、教材にはもう飽きてきたという人もいるでしょう。中には、もっと授業や仲間とのコミュニケ―ションがリアルに近い形になればいいのにと考えている人もいるかもしれません。
 そんな期待に応えられるのが上のマンガでご紹介したホログラムによるテレビ会議です。
 ただ、その実現に必要な情報量を試算すると、たとえば3D画素で4K映像を作るとして、横3,840×縦2,160の平面に、奥行きも横幅と同じ3,840とすると、31,850,496,000=316G画素。1画素につき24bit(RGB8bitずつ)で765Gbit。それを1秒間に30フレーム送るとするとさらに30をかけて22932Gbit/sec=22Tbpsというものすごい通信量になります。かりにこれを1000分の1ぐらいまで圧縮できたとしても22Gbpsとなり、今話題の5G※2でも実現できそうにありません。
 ちなみにこの5G。アメリカと中国の熾烈な主導権争いの中で、日本の存在感は薄く、今からはもう、追いつけないかもしれないとの声も聞かれます。
 「だからこそ6G※3だ」と、宮田先生はおっしゃいます。先生がプロジェクトマネージャーをされてきた国のプロジェクト※4からは、6G時代を支える技術が数多く生まれ、次なる展開に備えています。ホログラム技術の確立もその一つ。これまで経験したことのない危機の中で、次世代科学技術にイノベーションを起こしたいと考える人が現れてくれれば、ピンチもチャンスに変わる。直近では10年後、日本の情報通信産業が6Gで復活するのも夢ではないかもしれません。

※1 平面では紙幣の偽造防止用に使われている。現在開発されている裸眼立体視テレビなど、多くのホログラムと呼ばれるものとは別の技術。
※2 80年代から90年代にかけての「アナログ無線技術のモバイルネットワーク」(第1世代:1G)。90年代のデジタル無線による携帯電話システム(第2世代:2G)。国際連合の専門機関であるITU(国際電気通信連合)によって標準化が進められた3G。「スマートフォンのためのモバイルネットワーク技術」と言われる4Gを経て、5Gでは超高速、多数接続。超低遅延をうたう。
※3 第6世代移動通信システムと言われる。大手キャリアによれば速度、容量とも5Gの10倍を目指すとされ、宇宙旅行や空飛ぶクルマの実用化などに対応して、現在はカバーしきれていない海、空、宇宙での通信を視野に入れる。他に、これまでの携帯電話通信、ロボット、ドローン、ウェアラブルコンピュータ、遠隔医療、拡張現実、仮想現実、複合現実、セキュリティシステム、治安維持機能などのさらなる進化、強化に加え、触覚、嗅覚、味覚などを用いた感覚通信や遠隔ホログラフィックプレゼンスの実現を目指すとする。
※4 JST(日本科学技術振興機構)による10年にわたる(2009~2019)プロジェクト「S-イノベ」。宮田先生はその中の『フォトニックポリマーによる先進情報通信技術の開発』のプログラムオフィサーを務められた。
そこで思いつくのがホログラムです。レーザ光で撮影して画像に情報を盛り込んでおき、 同じレーザ光で再生して、画像を空間に立体的に浮かび上がらせる技術です。

ホログラムによる画像は、被写体から出る光そのもので、立体的に見えるだけでなく普通に見えるものと同じで見る位置によって見え方も変わります。

現在のところは静止画しか作れませんが、膨大な情報を乗せられるようにすれば、動画を作ることも十分可能です。私がホログラムに一番期待を寄せるのは…

テレビ会議のシステムです。ホログラムでは相手の等身大の画像を空間に浮かび上がらせることができますから、情報通信技術と組み合わせれば面と向かって膝を交えて会話しているような状態が作り出せます。
イノベーションを起こそうと思えば、これぐらい大胆な発想も必要だと思います。

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