コミュニケーション

自由の校風・学風で育てる女子学生・女性研究者

京都からの発信

京都大学女性副学長と首都圏女子進学校校長は語る

出席者:桜蔭中学校高等学校 理事・教務主任井上 瑞穂 先生、女子学院中学校高等学校校長鵜﨑 創 先生、フェリス女学院中学校・高等学校校長阿部 素子 先生、豊島岡女子学園中学校・高等学校校長竹鼻 志乃 先生
京都大学男女共同参画担当理事・副学長稲垣 恭子 先生

【2024年8月27@京都大学東京オフィス】

長年この時期に行われてきた京都大学総長と首都圏進学校校長座談会企画。コロナ禍での中断以降途切れていたが、この度、女性副学長・理事と、首都圏女子進学校校長・理事との座談会が実現した。テーマはダイバーシティ推進の一環である、大学の学生および教員の女性比率向上とその支援の在り方。前段では中等教育における女子伝統校の教育の一部も紹介する。

女子枠、女性枠を超えて。
京都大学理事・副学長と、首都圏有名女子校校長らが語る
中高大における女子の育て方と女性活躍支援

森上(森上教育研究所所長)
近年、旧帝国大学から続く国立大学においても、学生・教員の女性比率を高めようという動きが目立つ。入学者選抜でも、東京大学の推薦入試での男女別定員や、一般入試における女子枠新設などが始まっている。京都大学も2026年度入学者のための特色入試で、理学部、工学部が女性枠の設置に踏みきるようだ。 本日は、大学につながる中学・高校教育の中で、長年、質の高い女子教育で定評のある首都圏私学4校のみなさんにお集まりいただき、京都大学理事・副学長との座談会を開催させていただきます。各校それぞれ、設立母体は異なるものの、《自由》や《自主》、自立(自律)の校風や教育理念には相通じるものがあると感じています。まずはお集まりの高校の先生方から、ご自身の学校の特徴と、中学校の段階で選ばれた生徒さんを、どのように教育されているのか、その一端についてお聞かせ下さい。

森上(森上教育研究所所長)

Ⅰ 首都圏女子校の今

鵜﨑(女子学院中学校・高等学校校長)
本校は、今年で創立154年を迎えます。生徒の自主性を重んじ自由な校風の中で、聖書の教えの下、自立した女性の育成を目指してきました。校則はなく、多くのことは自分で決めるというのが基本方針。好奇心の強い生徒が多いため、知識の詰込みではなく、様々な体験による教育を重視し、文系・理系を意識せずに自分の将来を思い描き、大学で学ぶべきことを見つけてもらっています。個を大切にする教育を徹底しているから、校内では競争よりも協働、互いに助け合い補い合うことを大切にし、競い合うのではなく、個々の特性を認めあって学んでいく姿勢を育んでいます。

女子学院中学校高等学校校長 鵜﨑 創 先生

井上(桜蔭中学校高等学校理事)
本校は、今年で創立100周年を迎えたが、創立以来、時代に適応した学習と道徳の指導を通して「礼と学び」の心を養い、品性と学識を備えた人間形成を教育理念としています。「理想の女子教育を実現し、社会に恩返ししよう」という創立時の情熱を忘れずに、中・高六年の一貫教育で、人を思いやる心を大切に博(ひろ)く学び、自律する女性を育成したい。これからも自らの主体的な活動を通して自己を確立し、多方面で活躍できる女性を社会に送り届けていきたいと考えています。

 ちなみに個々の成長を促すという意味から通知表は出しますが、他人と比べるという意味での順位は出していません。

桜蔭中学校高等学校 理事・教務主任 井上 瑞穂 先生

竹鼻(豊島岡女子学園中学校・高等学校校長)
女子裁縫専門学校からスタートして132年目。現在も毎朝8時15分から5分間、全校生徒が運針をしている。第一志望で入学する生徒ばかりではないので、豊島岡で良かったかもと、自分に自信を持ってもらうところから始めている。自信がなければチャレンジできず、ひいては女性が輝く社会の実現も遠い。社会へ出れば様々な試練が待っているだろうから、高校、大学の間は自信を持って自分の可能性を広げるためにチャレンジしてほしいと思っている。

競争というか、運針の時間を使った全校一斉の英単語や漢字の月例テストなど、課題はたくさん与えています。受からないと追試があり、朝7時45分から来ないといけないからみな必死です。

鵜﨑
本校も、中学生にはかなり手厚く指導しています。

阿部
(フェリス女学院中学校・高等学校校長)本校は、アメリカ人女性宣教師によって154年前に建てられた学校です。以来ずっと大切にされてきた教育理念は、「For Others」。六年一貫で自由と自律を尊重する教育を通して、「他人のために」自らの力を用いることのできる人を世に送りだすことを使命としています。個性や才能といった賜物を、自分のためだけでなく、他人のために役立てる。そのための学びには限界がなく、分野・領域を越えて学び続け、自己を磨き続けることが必要です。自ら学ぶ意欲を育てる工夫や、視野を広げ、学びを広げ、深めるための機会を、今後ますます増やしていこうとしているところです。

フェリス女学院中学校・高等学校校長 阿部 素子 先生

各校が育てたい女性像とは

森上
ありがとうございました。ここで少しテーマを絞らせていただき、有名校のミッションともいえる社会を牽引できる人材育成についてお聞きしたいと思います。井上先生からは、桜蔭は理想の女子教育を実現し、社会に、多方面で活躍できる女性を送り届けていきたい旨、お聞きしました。阿部先生からは「For Others」ですね。これは男子校や共学校の掲げるリーダーシップ像、リーダー育成の理念に読み替えることができそうですが、どのような違いがあるのでしょうか。

井上
女性ばかりですべての仕事をこなさなければならないという環境で、自然に統率力を身につけているという感じで、リーダー育成という概念にはつながってこなかったと思います。

鵜﨑
本校にも特別にリーダー育成という概念はありません。社会に出たら自分に与えられた仕事を探してそこにしっかりと携わりなさいとは言いますが、あえてトップに、リーダーになれと言っているわけではない。もちろんそうなるなとも言っていません。求められるなら、誰かがやらなければいけないのならそれは引き受けるべきだ、と。

竹鼻
「私はリーダーを支える役のほうが合っています」と言う生徒も結構います。鵜﨑 それぞれの適性によって働く場面が違ってくる。同じ生徒が必ずしも全てのリーダーではない。体育祭や文化祭、修養会や修学旅行などの運営では、それぞれ担う生徒が違う。自分にはこれが向いている、私はこれがやりたいなど力の入れ方が違うため、同じ生徒が何事においてもリーダーになりたいと考えているわけではない。

豊島岡女子学園中学校・高等学校校長 竹鼻 志乃 先生

阿部
居心地がいいというか、やはり女子だけの中でお互い受け入れて受け入れられて育っていくから、いかにもリーダー的な生徒、例えばすごく活発で大きな声が出せるようなタイプでなくても、「ここは私がやります」みたいなことがよくあります。日ごろ本当におとなしい生徒でも。

鵜﨑
中学時代から、やりたい実行委員を決めていて、早い段階からその委員会に入るようなこともありますね。

竹鼻
そうですね。先輩を見て憧れ、「何年後かにはあそこに」みたいな。

井上
本校も個性的な生徒がたくさんいて、それぞれが個性にあわせて各種行事の係などを選んでいるようです。みんな同じというより、それぞれをそのままに受け入れるという傾向がとても強い。だから弾かれる人もいません。

鵜﨑
女子には特に、働きの場とは目立つところだけではないという認識がちゃんとあるように思う。草の根運動もそうだし、目立たないところでも人を支える仕事があるというように、それぞれが大切だということをよく理解している。だから、いわゆるリーダーになることにこだわりを持つ必要がないのかもしれない。

森上
そのための意図的な教育というのはされていますか。

竹鼻
リーダーシップという意味で言えば、それは、教育というよりも、実践の中で学ぶものだと思います。本校では、リーダーを経験する場は多い方がいいとの考えから、学校行事を大事にするだけでなく、クラブには全員参加としています。クラブの中には少人数のものもありますが、メンバー構成は中1から高3までと学年差がありますからいい経験になる。失敗して保護者から 怒られるような経験もできますし。

阿部
たしかに部活の役割は大きいです。本校では、高2が引退する頃にリーダーズキャンプというものを実施し、高1の次期部長を集めて、どういうリーダーを目指すのか、生徒支援部長が話をします。中1と高2では体の大きさもスピードも違う。他者への配慮や目配りが必要であることを伝えます。実際、生徒は部活を通して「For Others」を考え、身につけていくことが多いです。リーダーシップには様々な形がありますが、生徒を見ていると、よく話し合い、支え合うところに特徴があります。部長のリーダーシップだけでなく、役職を持たない幹部学年の生徒たちも、自分がどうサポートできるかを考えるのです。女性的なリーダーシップというものがあるとしたら、それは「連帯的」というか、「協力しながら」「相談しながら」進めていくものではないでしょうか。本校の生徒たちは話し合いが大好きだから、そのようなリーダーシップは身に付けているのではないかと思います。

森上
先生方ありがとうございました。男子や共学の進学校からはあまりお聞きできない示唆的なお話をお聞きできました。先ほど来お聞きになられていて、稲垣先生いかがだったでしょうか。ちなみに稲垣先生のご専門は教育社会学。ご著書もあるように、私立学校の歴史研究などの一環で、女子校の研究もされておられます。

Ⅱ 京都大学の女子学生・女性研究者支援

稲垣
ご紹介いただきましたように、私は女学校研究をしたこともあって、神戸女学院など関西の伝統校とはお付き合いもあり、女子校にはとても親近感があります。先程も、皆さまがおっしゃっていたように、女子校育ちの学生さんには伸びやかで、自分に自信がある方が多い。かといって背伸びをしすぎたりもしない。ナチュラルな感じと言うんでしょうか。歴史のある女子校の校風や伝統には、代えがたい独自の良さがあると感じています。

京都大学男女共同参画担当理事・副学長 稲垣 恭子 先生

一方で近年は、共学化が進む中で、新たな方向性を模索されている面もあるのではないでしょうか。《女性の力をサイエンスに》とか《女性の視点に立ったイノベーションを》など、女性の人材育成機関としての女子校が改めて注目されています。それと同時に、やはりそれぞれ培ってこられた伝統文化、その厚みも、これまで同様、大事にしていただきたいと思っています。また皆さま方の学校にも訪問させていただき、それぞれの教育方針などについて意見交換させていただければと思っています。

 ところで本日は、京都大学の女子学生や女性研究者の支援について、ぜひお話しさせていただきたいと思っております。

 その前に、まずは本学の校風である自由の学風についてご紹介させてください。京都大学はノーベル賞受賞者を日本で一番輩出している大学であることは知られていますが、たとえばそうした世界的な賞を受賞された先生方と学生が、直接にディスカッションできる雰囲気があります。また、そうした自由な校風が生まれる背景には、京都大学の立地もあります。街の中心部から鴨川、京都御所、下賀茂神社などの、自然や歴史、風土が感じられる場所に自転車ですぐ行くことができ、学生の多くも大学の近くに住んでいます。

 先生方の生徒さんには、小中高と進み、そのまま首都圏の大学に進んで、就職も首都圏でという方も多いかもしれませんが、人生の多感な時期を京都で過ごすと、時間の流れや生活環境も違うことから、その後の人生にとって大切な経験になるのではないかと感じています。実際に、首都圏に就職した多くの本学卒業生が、多方面に尖った優れた先生から学問を尊重することを学んだだけでなく、歴史、文化、自然あふれる京都という街で過ごしたことがその後の人生の糧になったと言ってくれています。

 ただこれまでは、伝統的な国立大学の例にもれず、女性研究者の比率は極めて低かった。その危機感から、2014年に男女共同参画推進センターが設置されました。これをベースに「ダイバーシティ推進室」ができ、女子学生、女性研究者への幅広いサポートを充実させてきました。その中でも、今日いらっしゃる女子校の先生方にご興味があると思われるのが、2年目に入った『女子学生チャレンジプロジェクト』です。先ほどのお話の中でも、リーダーシップを育てることに力を入れておられるという話題がありました。このプロジェクトは、学部生、大学院生が、リーダーとなり、男子学生も含めてチームをつくって、自分の専門の研究に限らず、広く興味のあることや社会的課題をテーマに設定して1年間取り組む研究プロジェクトです。多くの中から採択されたチームには活動補助金が支給されます。初年度は5件の採択予定に55件と10倍以上の応募があり、発表会もとてもレベルの高いものになりました※。なかには地域などから連携の問い合わせもあるようです。今年度もたくさんの応募があって、選ぶのに本当に苦労しました。採択されたチームは、フィールド調査に出かけたり、学部生でも研究科のラボで実験したり、また学生自身の発案で中間報告会を開催するなど、チーム同士の横のつながりもできてきています。自分たちがやりたいことや楽しいと思うことをどんどん提案して、まさにリーダーシップを発揮しているので、大学側も最大限それに応えています。

 他にも、女子学生に母校に帰って京大での生活や魅力を語ってもらう『女子高生応援大使』も実施しています。また年に1回、『女子高生車座フォーラム』というイベントを開催しています。これは、志望学部別に京都大学の教員・学生と女子高生が学生生活や入試、研究などについて、ざっくばらんに話し合うというものです。

 このような活動を支えるのが「京都大学ここのえ会」という同窓会組織。京都大学の女性の卒業生によって、女子学生や研究者への支援を目的につくられたものです。このほか、オープンキャンパスに合わせて、女子高生向けに、女子学生と一緒にキャリアについて、また悩みなどの相談をできるようなイベントも行っています。

 もう一つ、2023年12月に、学童保育施設『京都大学キッズコミュニティkusuku』を開設しました。実験ができる土間キッチン、レクチャールーム、天井までのライブラリーホール、吹き抜けの遊戯空間など、充実した空間で、子供たちに本学の研究者や京都の文化関係の方によるアカデミックプログラムを提供していて、女子学生チャレンジプロジェクトに採択された学生たちにも担当してもらっています。小学生と触れ合うことは学生さんにとっても新鮮な感動があるようで、プログラムを実施する方も受ける方も、学問の面白さに触れる良い機会になっているようです。そこから将来の研究者が育ってくれればと思います。

 このような幅広い支援を積極的に行なってきた成果もあって、女性教員比率が2018年には国立大学で最下位の12%だったのが、今年は18.4%まで上昇し、2022年度~2023年度の1年間の女性教員増加数では国立大学で最高となりました。京都大学の学生は卒業後、多様な道に進んでいますが、女子学生と年齢の近い若手の女性教員が増えれば、身近なロールモデルも広がります。研究者の道も含めて広い分野で活躍を志す女子学生が増えていくことが、大学にとっても社会全体にとっても大きなパワーになると思っています。  これからは、男性研究者、男子学生に負けずに張り合っていこうというのではなく、性別に関係なく、多様な背景をもつ人たちがインクルーシブな雰囲気の中で、互いを認め合い、能力が発揮できるような環境になることが、自由な学風の京大の理想だと思っています。

※第一回の受賞例:薬用作物栽培と地域共生研究というテーマで、フィールドに出て調査、分析を行った。

森上
今日はみなさま、どうもありがとうございました。

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