実技競技① – 生物
「世界最大のウイルスを探せ!」というキャッチーなタイトルで行われたこの実技競技は、水を沸騰させて3つの異なる温度(98℃、55℃、72℃)のお湯を用意することからスタートした。競技説明の後、1分間の作戦タイムを経て、100分間の競技が始まった。
この競技では、次の4つのミッションが課されました。
ミッション1:フィールドの選定とDNA回収
5つのフィールドのうち、パンドラウイルスがいると思われる場所を最大3つまで選び、そこからDNAの入っているチューブを回収するというもの。この時点でパンドラウイルスのいるフィールドを正しく選択できないと、手動PCRや電気泳動をしてもパンドラウイルスのDNAを検出することはできない。ただし、配布された「実験の手引き」を手がかりにすれば、どこにパンドラウイルスが生息しているのか検討をつけるのは難しくないだろう。
ミッション2:手動PCRによるDNA増幅
次は、パンドラウイルスのDNAを手動で増幅するステージ。PCRの原理については省略するが、このときのポイントは、グリル鍋のお湯の量と沸騰の持続である。この3種のお湯が適切な温度に保たれないと、パンドラウイルスのDNAを増幅することができなくなってしまう。
ミッション3:電気泳動によるDNA断片の解析
増幅したDNA断片の大きさを確認するために、電気泳動を行う。電気泳動では、DNA断片の大きさによってDNA断片の移動距離が変わってくるため、パンドラウイルスのDNA断片が増幅されたかどうかを視覚的に判断することができる。電気泳動のウェルに試料を注入する作業にはコツが必要で、初めての操作で必ず成功するとは限らない。しかし、競技開始前に動画で丁寧に解説されているため、慎重に操作が行えたのではないかと思われる。また、電気泳動後のゲルの撮影装置も手作りしなければならず、「見やすく撮影できる装置」を作ることが鍵となる。
ミッション4:筆記問題と考察
最後のステージでは関連する筆記問題に解答する。PCRの原理やウイルスの生態系での役割などに関する問題が出題された。筆記問題の最後には、今回の実験結果をもとに考察する問題があり、手動PCRと電気泳動で得られたミミウイルスのDNAの結果をパンドラウイルスの結果と比較することにより、考察がしやすくなっている。
総じて、この競技には繊細な作業を手際良くやることや、チームワークが求められた。ところで、100分という短い制限時間の中で、20-30分ほどを手動PCRに費やさなければならず、そのポイントが「いかに温度を保つか」という現在の研究室では全く必要のないスキルであるという点で、この競技を不満に思った生徒もいたかもしれない。確かに現在の一般的な研究室では、PCRをサーマルサイクラーと呼ばれる機械を用いて行うからだ。
しかし今回の競技のように苦労して手作業でPCRを行うことは、その原理を改めて実感するのには欠かせない。最近は機器や試薬が便利なものになり、原理を知らなくても実験を進められる時代になりつつあるが、。出題者の意図は、現代のそうした潮流に対して、「科学を志す生徒には土台となる知識を学び続けることを怠らないでほしい」というメッセージが込められているのかもしれない。いずれにしても、あえて一回でも、手を動かしてその原理を体感することは、研究のアイディアを出したり、実験のトラブルシューティングをしたりする際にも役立つはずだ。
この競技は生徒たちにとって、単なる競技を越えた「学びの糧」になったに違いない。
京都大学農学部4年 土田美咲
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