第14回 科学の甲子園全国大会
実技競技①(物理分野)「スマホのセンサー」・観戦記
今回の物理分野の実技競技は、私たちが日常的に使っているスマートフォンに搭載されている加速度センサーについて学習することである。この種のセンサーは歩数の計測などに使われている。
物体の加速度とは単位時間当たりの速度の変化量である。鉛直落下では速さが刻々増し、それが重力加速度である。一方、速さが一定でも速度の向きが変われば加速度は 0 ではない。等速円運動が典型例で、半径 \(r\)、速さ \(v\) のとき、加速度は円の中心方向を向き、大きさ \(a\) は
a = \frac{v^{2}}{r}\tag{①}
\]
で与えられる。
問1
半径 \(r = 10.0\,\mathrm{cm}\)、周期 \(T = 2.00\,\mathrm{s}\) の等速円運動について速さ \(v\) と加速度の大きさ \(a\) を求めよ。
v = \frac{2\pi r}{T},\qquad
a = \frac{(2\pi)^{2}\,r}{T^{2}}
\]
<実験1>
加速度センサー付きマイコンボードと PC(アプリ Appin.exe
)で \(X,Y,Z\) 軸の加速度をリアルタイム計測する。
問2
水平面に静置したとき 0 にならない軸とその値(有効数字 2 桁)を答えよ。
推定解:鉛直(\(Z\) 軸)で \(9.8\,\mathrm{m/s^{2}}\)。
問3
マイコンボードを前後左右上下に動かし、写真1の各方向が何軸に対応するか答えよ(水平面は \(X,Y\) 軸)。
問4
空欄補充 — 「センサー自身が運動する時の加速度に( )を加えたものを測っている」
答:重力加速度
<実験2>
ロクロ上に回転板(6 パターンの縞模様)と測定板を取り付け、円運動の加速度と周期の関係を検証する。
ストロボ効果
iPad(30 fps)で縞模様を撮影し、逆回転が始まる直前を周期測定の指標とする。
問5
逆回転直前の加速度を計測し、加速度ベクトルの向きが物体と中心を結ぶ線(向心方向)であることを確かめよ。
問6
センサーを中心から \(r = 15.0\,\mathrm{cm}\) に固定し、5 パターンそれぞれで周期 \(T\) と加速度 \(a\) を測定せよ。合成は
a = \sqrt{a_x^{2}+a_y^{2}}
\]
問7
縦軸 \(a\)、横軸 \(\dfrac{r}{T^{2}}\) (今回 \(r = 0.15\,\mathrm{m}\))としてプロットし、データが傾き \((2\pi)^{2}\) の直線に乗ることを示せ。
問8
半径を変えた 2 条件についても同様に測定し、同じグラフ上で直線性を確認せよ。
<実験3> ブラックボックス内センサー位置推定
ブラックボックス内の加速度センサー位置 \(C(x,y)\) を決定するため、測定板中心 \(O\) から距離 \(r_0\) の点 \(A\) を利用して 2 つの独立測定を行う。
\begin{aligned}
&\text{(a) } r_a^{2} = x^{2} + (r_{0}+y)^{2},\\
&\text{(b) } r_b^{2} = y^{2} + (r_{0}+x)^{2}.
\end{aligned}
\]
連立して解くと
\begin{aligned}
x &= \frac{\,r_b^{2}-r_a^{2}-2r_{0}^{2}\,}{4r_{0}}
+\frac{\sqrt{\,4r_{0}^{2}\!\bigl(r_a^{2}+r_b^{2}-r_{0}^{2}\bigr)-(r_a^{2}-r_b^{2})^{2}}}{4r_{0}},\\[6pt]
y &= \frac{\,r_a^{2}-r_b^{2}-2r_{0}^{2}\,}{4r_{0}}
+\frac{\sqrt{\,4r_{0}^{2}\!\bigl(r_a^{2}+r_b^{2}-r_{0}^{2}\bigr)-(r_a^{2}-r_b^{2})^{2}}}{4r_{0}}.
\end{aligned}
\]
ここに測定値 \(r_0,r_a,r_b\) を代入して \(C\) を求める。
実技競技①は競技者 3 名、競技時間 100 分。短時間で装置に習熟し、チームワークで課題に挑む姿は観客席から見ても頼もしく、楽しげであった。実験も学習も、何事も「楽しく取り組む」ことの大切さを感じさせる競技であった。
横浜国立大学名誉教授 佐々木賢
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