トピックスⅡ 超少子社会へ向けて大学連携が加速
近畿大学 × iU 情報経営イノベーション専門職大学
私立大学の統廃合時代が幕を開けるか?
伝統の総合大学と先進の専門職大学が歴史的な戦略的連携協定を締結!
調印は、7月1日に行われた。協定要旨は下記の通りだが、これに先立って、両大学の連携にかける意気込み、狙い、展望などについて、近畿大学の世耕石弘経営戦略本部長と、iU情報経営イノベーション専門職大学の中村伊知哉学長に、それぞれの抱負と、目指すところをお聞きした。
情報経営イノベーション専門職大学と近畿大学が戦略的連携協定を締結
~起業支援・eスポーツ広域連携・広報活動を通じて、私学の未来を共創~
1. 目的
- 起業支援に係る協業体制
- eスポーツにおける広域連携
- 共同広報活動
2. 具体的な展開
起業支援に係る協業体制
- 共同で起業支援プログラムの開発と実施に注力し、学生・教職員等の起業家育成を支援します。
- それぞれが所有する人的資本の互換性確保・補完に向け、協力し合います。
- 両大学の協力関係にある企業群に対し、双方の学生からのアプローチを可能とするよう努めます。
2大学で大学間共創モデルを先導
![]() iU 情報経営イノベーション専門職大学 学長
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多様性の交差点から予測不能な未来に強い人材を育成したい
このたび、近畿大学とiUが戦略的連携協定を締結したことは、今後の大学教育の在り方に対して大きな一石を投じるものと確信しています。超少子化、技術革新の加速度化、そして地政学的リスクが増大する現在、大学が単独で理想的な教育を実現することはますます困難になっています。そのような中で、東西の特色ある大学が自らの強みを生かしつつ連携し、新たな価値を創出しようとする今回の取り組みは、まさにこれからの「大学間共創モデル」の先駆けといえるでしょう。
とりわけ、近畿大学という一世紀の歴史を持つ日本屈指の総合大学と、iUという起業家精神を中核に据えた新しいベンチャー大学との連携は、分野の垣根や規模の違いを越えてイノベーションを生み出そうとする挑戦です。こうした多様性の交差点でこそ、予測不能な未来に強い人材が育まれると考えています。従来の「教育の標準化」ではなく、「個性と共創」が問われる時代にあって、両校の連携は新たな大学像を提示するものです。
あらためてiUとは
iUは2020年の開学以来、ICT×ビジネス×グローバルを軸にイノベーターの育成に取り組んできました。全員起業への挑戦や、さまざまな産学プロジェクトを通じ、フロンティア・クリエイティブ・ソーシャルの3領域でイノベーションを起こすことを目指しています。
産学プロジェクトを通じて学ぶスタイルから生まれるものはAIからメタバースまで、宇宙から量子まで、医療からアートまで、セキュリティからモビリティまで。そしてウェルビーイングにニューロダイバーシティまでと、これまでの大学の学びでは手の届かなかったものばかりです。
また本学では、産業界のトップリーダーが教員の多数を占めますが、その指導の下、数十のプロジェクトが走っています。そして3年次には全員が4ヶ月の企業実習インターンが必修として課せられます。
最大の特徴は全員起業、学生全員が4年間に1度は起業に挑戦する仕組みです。全員が起業に成功すれば、就職率はゼロですから、「目標就職率」はゼロです。その結果、iUは起業率(起業数÷学生数)で2年連続日本一を達成しており、年間の起業数でも8位にランクインするなど、小規模な新興大学ながらも目覚ましい実績を上げています。
大学発ベンチャー起業率ランキング(2024年度調査速報より)
順位 | 大学名 | 起業率 (%) | 2024年度起業 (社) | 学生数 |
1 | iU | 5.59% | 85 | 698 |
2 | 東京科学大学 | 1.39% | 187 | 13358 |
3 | 京都大学 | 1.16% | 422 | 12837 |
4 | 神戸大学 | 0.51% | 113 | 11460 |
5 | 北海道大学 | 0.39% | 147 | 11384 |
6 | デジタルハリウッド大学 | 0.37% | 117 | 1341 |
7 | 会津大学 | 0.35% | 44 | 1134 |
8 | 東京大学 | 0.34% | 468 | 14074 |
9 | 大阪大学 | 0.30% | 298 | 15111 |
10 | 慶應義塾大学 | 0.30% | 377 | 28789 |
(出典)経済産業省「令和6年度産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書」より
しかし、起業を目的としているわけではありません。目標はイノベーションであり、起業はそれに挑戦する学習、経験という位置づけです。起業はたいていは失敗します。iUは、その失敗から得られる学びをこそ重視します。だから「失敗大学」なのです。ICT+ビジネス+グローバル・コミュニケーションという「知識」を身につけるとともに、プロジェクト+インターン+起業の「実践」で力をつける、これがイノベーターの基礎を作るスタイルです。
これまでiUは産業界との結びつきを重視し、約800社の連携企業、1000人の客員教員からなるコミュニティを築いてきました。今後は第2ステージとして、内外の教育研究機関との連携も深めたいと考えています。今回の近畿大学との連携は戦略的な意味を持ちます。単なる共同研究や学生交流にとどまらず、「東西の実践型教育機関が手を組み、日本の高等教育のイノベーションをリードする」ことを目指しています。

※これらの具現化、拡大を目指すイベントが「ちょもろー」。「ちょっと先のおもしろい未来の略で、先進的なテクノロジーに彩られた少し 未来の社会や生活、新しい取り組みのポップカルチャーが体験できる大人も子どもも楽しめるイベント。
起業家育成とeスポーツの2 軸でスタート
具体的な連携テーマの第一弾として、「起業家育成」と「eスポーツ」の2軸に着目しています。
まず「起業家育成」に関しては、iUがこれまで培ってきた起業支援プログラムに、近畿大学のネットワークやOB経営者の知見を掛け合わせることで、全国規模でのイノベーション・エコシステムの構築を目指します。学内ピッチコンテストの共催や、外部VCや企業との接点を増やす場の創出を進めていく予定です。
eスポーツ分野においては、教育・研究・地域連携の各側面で多層的な連携を計画しています。まず学生間の活動連携として、近畿大学とiUのeスポーツサークルによる交流イベントの企画を進めており、単なる競技の枠を超えた「学び合い」「協働型成長」の場を創出していきます。iUのeスポーツチーム「INSOMNIA」が1月に大阪で実施予定のファンミーティングにおいては、近畿大学が告知や集客面でサポートを行う予定であり、東西の学生コミュニティが互いの活動を補完し合う体制が動き始めています。

中長期的には「ダブルディグリー制度の導入」「グローバル展開での共同キャンパス構想」「地域課題解決型プロジェクトの展開」など、連携の幅を拡張していければと期待しています。iUの機動力と、近畿大学の規模・総合力が融合することで、日本の高等教育の未来に新しい解を提示していきたいと考えています。
次世代型キャンパスの構築も視野に
iUは今後、京都や名古屋のインキュベーション拠点とも連携して起業支援ネットワークを広げるとともに、AI・データサイエンス・クリエイティブ産業といった領域へも展開を進める計画です。欧米MBAの誘致やアジアの提携校との交換プログラムの拡充、XRやAIを活用した次世代型キャンパスの構築にも着手する予定です。
今回の連携は、そうした未来を共に創っていける重要なステップであり、これまでの大学教育にない“可能性”を広げる挑戦であると捉えています。近畿大学との連携が、多くの学生・高校生・教育関係者にとって希望ある道標となることを願っています。
ベンチャースピリットに満ちた大学とのコラボで改革を加速、革新に挑み続ける姿勢をアピールしたい
![]() 近畿大学 経営戦略本部長
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近畿大学は今年で、創立100周年という大きな節目を迎えます。「100年大学」といっても、大規模私立大学の中ではまだまだ若い存在であり、新しいものにチャレンジする役割を担っていると認識しています。しかし一方で、本来の目的が忘れられてしまい形骸化してきた業務なども目につくようになってきました。そんな中で、専門職大学という全く新しいカテゴリーで設立され、既存の大学の価値観にはとらわれないiUさんとの連携は、改めて現状を見直すいいきっかけにもなると判断しました。
iUさんは、2023年に学生の起業率で日本一、その増加率では2年連続日本一※となるなど、大学界のベンチャーとも言うべき存在であり、その取組、実績からは学ぶべきところがたくさんあると考えています。また歴史や規模、スタイルも全く違う大学との交流自体にも大きな意味があります。例えば持っているネットワーク。本学は病院、研究所、中学・高校といった附属施設・学校やOB組織に加えて、コンソーシアムや大学間連携事業に参画することで、関西でもトップクラスの学外ネットワークを持っていますが、iUさんは、歴史的な大学が持てないような新しいネットワークを多数お持ちです。連携が深まり、人事交流なども進めば、本学の改革のヒントがいくつも見つかるのではないかと期待しています。iUさんとの連携は、本学も改革に挑み続ける大学であるとのアピールにつながるのではないでしょうか。
東西間の距離は、ICT教育で埋める
昨今、東西の大学間連携は珍しいことではありません。しかし多くは、同じような歴史を持ち、規模的にも同程度の大学同士によるものが多いのも確かです。その点、このたびの連携は、専門職大学と総合大学という極めて珍しい組み合わせであり、超少子社会へ向けての私学共生の一つの在り方として注目されると思います。
学生同士の交流という観点からは、東西を行き来するにはコスト面の負担が大きいというハンデは確かにあります。しかし本学、iUさんともに教育ICTでは先進的な取組をしていますから、かなりの部分はカバーできるのではないかと考えています。
日本のeスポーツと、eスポーツ教育をともに盛り上げたい
連携の目的のもう一方の柱がeスポーツに関するものです。eスポーツについては両大学ともに、その教育面の価値に注目し、それぞれ独自に活用を図ってきました。
本学は日本国内でも屈指の規模を誇るesports Arenaを有し、利用する学生も多く、またiUさんは、起業やイノベーション創出といった経済活動も視野に入れたeスポーツ教育に力を入れておられます。eスポーツを通じて、両校の学生がコミュニティを広げ、eスポーツ教育の新たな展開につなげていきたいと考えています。
近大が目指す起業家育成教育とは。
本学は、「創立100周年に向けて大学発ベンチャーを100社輩出」の目標をすでに達成し、現在は西日本の私立総合大学で一番多くの大学発ベンチャーを創出することを目指し、「関西で起業といえば近大」というブランドを作り上げていきたいと考えています。

ただ、本学の学部段階での起業家育成教育では、多くの大学と異なり、正課で講義を開講しカリキュラムを整備するのではなく、部活やサークル活動のように、課外での展開に力を入れています。というのも、大学では学生同士のつながりが強い影響力を持つため、その力を活かしたいと考えたからです。身近な同級生、あるいは先輩・後輩が起業していると聞けば、学生の意識は一気に変わり、意欲に火が付きやすい。そこで、起業家精神を持っている、あるいは少しでも、“たとえ1ミリでも”、起業に興味をもつ学生のために、互いに刺激しあうための場を提供しようと、2022年10月に24時間365日開放のインキュベーション施設「KINCUBA Basecamp」を開設しました。

そもそも本学のメインキャンパスが立地する東大阪市は、モノづくりのまち、中小企業の集積する町として全国的に知られています。ここに集う企業の多くは、事業計画をきっちりと立て、綿密な構想の基に創業されてきたわけではなく、むしろ「夢をもって行動したい」というマインドをモチベーションの根っこにしてきたのではないか、このような地域の伝統や風土こそ、学生が起業を学ぶには最適な環境ではないかと私は考えています。
また本学の強みは、キャンパスやその周辺を訪れていただくとわかりますが、「多様な人々の集まり」です。経営学部、理工学部、薬学部、国際学部などといった異分野の教員・学生、あるいは周辺の商店街などで学生を温かく見つめる大人たちが集い、ある種カオスのような環境を生みだしています。学生たちは、その中に飛び込み、リアルな接触を通じて、自分たちのコミュニティを形づくっていくわけですが、そこから、互いの知を持ち寄って日々新たな試みに挑むまでの距離や時間は、極めて短いと考えています。
通信制・共通教育のオンデマンド化をさらに進めたい
私が部長を務める通信教育部は、創設者世耕弘一が、経済的な理由で27歳まで大学に行えなかった経験から、「学びたい者に学ばせたい」「すべての人が大学教育を受けられるようにしたい」との理念に基づき昭和32年に開設されました。その後、安価な授業料と原則無試験での入学をうたって発展してきましたが、コロナ禍には、それまでに体制を整えてきたオンライン教育が、全学的な展開の支えとなりました。
このような経緯もあり、本学では対面授業が再開されてからも、通信教育および共通教育のICT化を推進してきました。そしてその結果、今では語学科目を除く共通教養科目〔一般教育科目〕は、基本的には全てオンデマンドでも受講できるようになっています。それもあって、今春、開設された建築学部の通信教育課程の滑り出しも極めて順調です。
オンデマンド化の良さは、「何度でも視聴でき、理解度に応じて学修ペースを調整できる」など、個別最適な学びが可能なことに加えて、提供する側にとっては学修に関するデータが取れることにあります。一般的には、早送り視聴や成績低下の懸念を指摘する声もないわけではありませんが、本学では現在まで、こうした弊害は確認されていません。
ちなみに情報学部では、語学教育においても、専用アプリを開発しオンデマンド化を拡充しつつあります。これが整備されれば、英語・ドイツ語・フランス語・中国語にとどまらず、海外の若者の多様な学習ニーズに応えることができるようになりますから、日本の大学がもっと「世界を相手に」展開することも可能になるのではないでしょうか。
《脱偏差値》、グローバルスタンダードに目を向けてほしい
日本の大学がさらなる飛躍を遂げるには、関西で言えば、いわゆる「関関同立」「産近甲龍」といった偏差値で大学をランク付けするような価値観から自由になることが不可欠だと思っています。偏差値は入試の合格可能性の単なる指標にすぎず、入学者の潜在能力や、入学後に学生がどれだけ成長したかを評価するものではありません。ましてや大学自体を評価するものではないはずです。
大学のグローバル化が喫緊の課題であるなら、高校生には国内でしか通用しない偏差値ではなく、世界で通用する、まさにグローバルスタンダードを基準に大学を選んでほしいと思います。
さいわい本学は、THEなどによる世界大学ランキングにおいて、関西の私立総合大学中では常に最上位に位置付けられています。もちろん順位がそれほど高いわけではありませんが、すでに《京大・阪大・神大・近大》という評価は定着しつつあります。中でも医学部は2つの附属病院を有し、国立大学にも引けを取りません。今年、医学部、近畿大学病院が移転予定の新キャンパス「おおさかメディカルキャンパス」には、最新の設備機器が備えられ、来春には看護学部も設置されますから、優秀な研究者が集まれば世界的な評価はさらに高まることでしょう。
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高校生のみなさんがドメスティックな価値観から離れ、グローバルな価値観で大学を選択する時代が訪れた時こそ、日本の大学全体がさらに発展する時ではないか。本学はその時のために、国立大学にも伍していける大学を目指して改革を続けていきたいと考えています。
※ 経済産業省による大学発ベンチャー実態等調査による。2024年度調査(10月末時点での、2023年度との比較による)「大学発ベンチャー企業数」 (2025年6月6日の中間発表)では、iUは4位、近畿大学は12位に入っている。