コミュニケーション

2025へ向けて

高校eポートフォリオの
構築、導入が進む
その①

高大接続ポータルサイト
JAPAN e-PortFolioが始動、
新たな入試モデルの実証事業が始まる

学制改革以来と言われる教育の大改革が始まろうとしている。大学教育改革、高校教育改革、大学入試改革を三位一体で行う高大接続改革だ。当面は2020年度に新高1生が受験する大学入学共通テストに関心が集まるが、次期学習指導要領で学んだ(2022年の)生徒が受験する2025年度入試(2024年度に実施)へも、中学受験などをきっかけに、小学生を持つ保護者の熱い視線が注がれる。
今回の改革の発端の一つは、これからの少子化、グローバル化、AIの深化などに対応できる「生涯学び続ける力」をもった人材の養成にある。新たな高等学校学習指導要領は先生側の「何を教えるか」の視点から、生徒側に立った「何を学ぶか」「何を身につけるか」「どのように学ぶか」という視点に変わり、「どのように学ぶか」というテーマでは「主体的、対話的かつ深い学び」(いわゆるアクティブラーニング)や「探究」を採り入れる。
こうした学びの変化に対応して、大学入試は、知識に偏った一点刻みの学力試験から、知識や技能をどのように使うか(思考力・判断力・表現力等)や、主体的に学びに取り組む態度や、多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして共同する力など(学びに向かう力・人間性)を含め、新たな高等学校の学びで育む学力の三要素を多面的、総合的に評価する入試に転換することが求められている。
なかでも学力の三要素のうちの学びに向かう力・人間性を評価するためには、面接、グループディスカッション、プレゼンテーションを活用することが考えられるが、高等学校段階での新たな学びのプロセスや成果が蓄積されたeポートフォリオを活用したプロセス評価型の大学入試が注目されている。
また、高校で始まる新しい学びである「主体的、対話的かつ深い学び」や「探究」の成果を何で評価するのかは課題である。成果や日頃の態度の観察だけではなく、eポートフォリオに蓄積された生徒の気づきから評価することも考えられる。さらに、こうしたプロセスの蓄積は高等学校での学びの可視化につながり、学習評価やカリキュラムマネジメントなど高等学校教育改革にもつながるのではとの期待の声があがっている。
このeポートフォリオの構築が官民挙げて推進されているが、今号ではその一つ、昨秋スタートした高大接続ポータルサイトJAPAN e PortFolio(JeP)について、その仕組み、目的や狙いなどを紹介する。

JAPAN e-PortFolio(JeP)とは

取組のベースになっているのは、2016年から始まった文部科学省による「大学入学者選抜改革推進委託事業5分野」のうちの主体性等分野※1、事業名「《主体性等》をより適切に評価する面接や書類審査等、教科・科目によらない評価手法の調査研究」。その概要については、「学力の3要素※2の《主体性等》をより適切に評価するために、教育委員会、高等学校等と連携し、調査書、提出書類や面接等を実践的に活用する方法、高校段階でのeポートフォリオとインターネットによる出願のシステムの構築、《主体性等》の評価尺度・基準の開発等を行う」とされ、JePはその中で、ICTを活用した入試モデルのプラットフォームと位置付けられる。
《高校生活の活動をeポートフォリオとして記録、振り返りができるポータルサイト》とされるように、生徒が直接アクセスし、個々のポートフォリオが作成できる(※ただしIDとPWは個人情報管理の観点等から学校単位で発行される)。記録できるのは、主体性等の評価に欠かせない探究活動の記録―課題設定の経緯に始まり、参考文献、実験、調査、論文、フィールドスタディ、プレゼンデータ、場合によっては大学研究室訪問の記録、各種コンテストへの参加記録や結果など―や、特別活動や部活動をはじめ、ボランティアなどの学校内外の諸活動、海外留学経験、資格・検定試験の結果などだ。ここで重要なことは、生徒が「気づき」を入力することにある。例えば、実験での失敗から、生徒は何に気づきをもち、次の実験に向けてどのように取り組んだかという学びのプロセスが重視される(決して成功した成果だけが評価されるのではない)。
このように探究活動の記録を蓄積することから、総合型選抜(これまでのAO入試)や学校推薦型選抜(これまでの推薦)でのプロセス評価での活用が期待される。また様々な活動を教員が承認する機能も付き、これまでの成果を評価する選抜にもおおいに活用でき、将来的には導入が検討されているデジタル調査書との連携も視野に入れられているほか、統一書式による大学入学者受け入れシステムへの進化も視野に入れる。また高校教員の評価が活かせるだけでなく、ビッグデータを活用することにより、高校教育改革の成果が可視化され、データに基づく改革が可能になると考えられている。

今なぜ、ポートフォリオ、
eポートフォリオ?

ポートフォリオを使って学びや様々な活動を記録し、本人の振り返りや、評価・指導に活かそうという動きは、平成10年改定の《生きる力》を盛り込んだ学習指導要領にあわせて本格化し、これまで小・中学校では数多くの実践を見てきた。しかし高等学校では、大学の入学者選抜の多くが学力試験の成績を中心に評価してきたこともあり、ほとんど普及してこなかった。ところが新入試では、難関国立大学の中にも学校推薦型選抜や総合型選抜の定員を増やすとするところが現れ、しかも受験生の多い一般選抜(これまでの一般入試)でも学力試験だけでは測れない主体性なども評価するようになるとされたため、調査書のウェートが高まるとともに、ポートフォリオへの期待が急速に高まった。ただ、新入試では大学側の選考に人手や時間がかかること、大学入試改革と連動した次期学習指導要領では調査書の記載内容が膨らみ高校現場の負担が増えるなどが予想されるため、ICT化への流れもあり、eポートフォリオ構築への動きが加速している。

※1 ほかに、人文社会分野(国語科)、同(地理歴史科、公民科)、情報分野、理数分野がある。
※2 知識・技能、思考力・判断力・表現力等、主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度(学習指導要領では「学びに向かう力、人間性等」)。

コラム

eポートフォリオについての関心が高まる中、高校教員向けのセミナーも盛んに行われている。その一つ、2月27日に行われたNPO学校支援協議会(東京都)による「課題研究とeポートフォリオ研究会」(於:大妻女子大学)には、都内中心に私立高校の校長や進路指導担当者ら100名が集まった。講師は一般社団法人 Glocal Academy理事長の岡本尚也、グローバル・リンク・シンガポール日本事務局長の植木和司郎、東京学芸大学教授 森本康彦、関西学院大学高大接続センター次長 尾木義久の4名の諸氏。
岡本氏は『課題研究の学習意義とその効果的学習方法』と題して、次期学習指導要領の目指すところやその下での評価の在り方について、目玉とされる課題研究を中心に語った。その上で、新入試とeポートフォリオの関連にも触れ、「探求は20年前から重視されてきたが、今回は入試改革と結びついた点に注目したい。一般選抜においても調査書の重みが増し、志望理由書、活動報告書などが求められるようになる。探究はその結果よりも過程が重要であるため、その記録をポートフォリオ等にしっかりと残し,積み重ねることが重要」と付け加えた。
JTB植木氏は、課題研究、探求学習の国際的な発表の場であるグローバル・リンク・シンガポールの取組を紹介。英語による研究発表を通じ、ツールとして英語を使うことでの英語力の向上効果に言及。7月に開催される第5回目は前年の199名を大きく超える約400名の参加希望があり、申し込みを調整中。課外活動、体験型の活動に対する生徒・保護者の関心の高まりを感じるとコメント。
『高等学校の教育に求められるeポートフォリオとは』と題して講演した学芸大学の森本教授は、「21世紀型スキルなどに象徴されるように、主体性を前提とした教育観へのパラダイムシフトの中で、ポートフォリオ、中でもeポートフォリオは、日頃の学びを貯め込むだけでなく家庭学習も取り込めるなど、継続的なパフォーマンス評価に欠かせない。学習成果を引証づけるエビデンスとしてだけでなく、貯めること自体が自己評価やメタ認知につながるから、学習とその評価を促進させるツールとしても重要」。その上で、「出願書類とは一線を画すべきだともしながらも、受験生の学びのプロセスを見たい大学の立場からすれば、入試にも十分活用できる」と語った。
「主体性等分野」の代表大学の関西学院大学の尾木氏は、学力の三要素の評価が難しいとされる一般選抜においても、eポートフォリオに蓄積された情報を、各大学がアドミッションポリシーに沿って重み付け、点数化することで採点作業の時間短縮、負担軽減は可能なはず。JePは、民間事業者の各種eポートフォリオやSNSと連携し、「各大学が一人ひとりの生徒を見つめる入試」「公平性・客観性から多元的な評価に対する≪妥当性・信頼性≫(を重視する)入試」への転換をサポートしていきたいと語った。
なお2018年度に、「評価に利用」「参考、参照に利用」「情報収集のために利用」のいずれかの目的で実証事業に参加予定の大学は、4月17日時点で80大学にのぼる。また、JePは2018年度に委託事業が終了した後には、事業と連続性のある形で大学が主体となって運営する公益性のある法人への移行が想定されている。

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