コミュニケーション

学び、考え、触れ合い、はじけた。
気づきと発見、自分を変えた5日間

学長は語る

畑山 浩昭 桜美林大学 学長 畑山 浩昭 先生

大学入試改革に続いて高大接続に注目が集まる中、オープンキャンパスなどの機会を捉えて、高校生の主体的な活動や取組を応援しようという大学も表れ始めた。私立大学では珍しい学群制で、リベラルアーツ教育と専門教育を柔軟に学べることを特長とする桜美林大学。3年前に始めた「AO・推薦準備セミナー」が多くの高校生や高校教員に支持されていることを受けて、この春から「“ジブン”探究プログラム」を始めた。この春から学長になられた畑山浩昭先生にその主旨や目的についてお聞きするとともに、その様子を取材した。

桜美林大学の求める学生とは

この春から学長に就任し、学群の拠点化、グローバル化の一層の進展を改革の柱にすえていますが、国外からの学生募集も含め、アドミッション(入試)の改革も大きな課題です。
現在、文部科学省主導で進められている改革のひとつの柱は、従来一般的だった一回の学力試験の結果だけで入学者を選抜するのでなく、受験生の意欲や適性、また高校時代の教科外の活動なども含めて選考する方法へ転換するというものです。入学者を選抜するという発想から、入学許可を与えるという発想への転換と言い換えてもいいかもしれません。
私は高校教育の現場経験もありますが、高校の進路指導では、大学進学実績を重視し、学力試験の成績を少しでも上げることに力を入れるところが少なくありません。生徒を少しでも偏差値の高い大学へ送りだす。その先にあるのは、公務員や大企業、ブランド企業への就職です。これはこれで否定すべきことではありませんが、私は高校のすべてがそうする必要はないと考えています。
大学においても同様で、本学のような独自の教育目標を持つ私立大学では、国の改革を待つまでもなく、18歳段階での教科の学力の完成度だけで選考する必要はないと考えます。むしろ、アドミッションポリシーを理解していることが確認できれば、あとは高校で取り組んだ学習、部活動や文化活動、本人の価値観などに目を向けることで、入学後の成長が期待できそうな生徒を入学させたい。さいわい本学には、入学から卒業までの4年間で大きく変わり成長する学生が少なくありませんが、彼らの多くは、高校時代、様々な活動に積極的にかかわり、偏差値とは異なる自分なりの価値観を育んできた学生だからです。「受験、受験」で過ごしてきたわけではない。彼らは教員との出会いなどから新たな気づきを得ると、急に変わります。もちろん私たちは、一般的な意味で言うところの学力、勉強を軽視しているわけではありません。それどころか、入学してきた学生には、「学而事人」という、建学の時から大切にしてきた考え、つまり学んだことを人々や社会に役立てなければいけないことを語り、自らの学びを社会に還元するにあたっては、できるだけ高いレベルの知識、技能を身に付けた方が与えるインパクトは大きいと、学ぶことの大切さを熱く説きもしています。

「“ジブン”探究プログラム」とは

子どもたちが気づきを得て、変わり、成長するのは必ずしも中学や高校、大学への入学といった、大きなターニングポイントにおいてだけではないでしょう。それはどこで訪れるかわからない。そこでこの春から、高校生に様々な学びや体験を通して新たな気づきを得るとともに、これまで気づかなかった新しい自分を発見してもらおうという試みを始めました。名付けて「“ジブン”探究プログラム」です。
本学ではすでに3年前から、自らの高校時代を振り返るワークショップを通して、これまでの学びや経験を整理し、次の進路先を選択する意味や理由を改めて自問しアウトプットする機会の提供を始めました。この取り組みはこれまでに4千人以上が受講、大きな反響を呼びました。今回はそれを一歩進め、日常とは異なる環境下で、他校の生徒と学びや体験を共にする中で、自らの将来を考えるためのインプットの機会を用意しようと考えたのです。それは自分の生きる道を見つけるきっかけとなるかもしれませんし、もしかすると、学力の高さだけを競うのとは違う生き方の発見につながるかもしれません。
一連の大学入試改革の動きは、今や高大接続、高校教育改革へとステージを移しつつあります。そうした中で、いわば「学力の高大接続」とでもいうべきものの他に、「人間の成長の高大接続」というものもあっていいし、本学としてはそこにも力を入れていくべきだと考えています。

“ジブン”探究プログラムを見学

「“ジブン”探究プログラム」は、春のオープンキャンパスたけなわの3月下旬、3月25日(日)~29日(木)まで、町田キャンパスとプラネット淵野辺キャンパスで、のべ5日間かけて開催された。3年前から始めた「高校生応援プロジェクト」の一環で、グローバル・コミュニケーション、ビジネスマネジメント、健康福祉、芸術文化の4つの学群がそれぞれ外部講師を招くなどして5つの体験プログラムを実施した。対象は高1、高2生。全国でもユニークな試みということで、神奈川や東京からだけでなく、静岡や長野、さらには広島などからも約150人が集まった。

グローバル・イングリッシュ・プログラム[英語プログラム]
3日間開催

グローバル・コミュニケーション学群が、教育・研究における包括的な連携協定を結ぶベルリッツ・ジャパン(株)の協力で行われたプログラムには、3クラス(1クラス約12~20人)40人の生徒が参加。3日間とも午前2時間、午後3時間の時間割で、グローバル社会で欠かせないクリティカルシンキングや、プレゼンテーション技術を中心に学んだ。最終日にはポスターを制作、プログラムの最後には、3日間の集大成としてポスター発表を行った。

グローバルキャンプ[中国語プログラム]
3日間開催

グローバル・コミュニケーション学群と、中国孔子学院本部と提携して設立した桜美林大学孔子学院が提供するもので、英語プログラム同様3日間開催で、時間割もほぼ同じで行われた。参加者は約25人。孔子学院の講師を中心に、中国に留学経験のある学生や中国人留学生も協力して、中国語のレッスンに加えて中国の切り紙を体験するワークショップや、中国からの留学生とタピオカミルクティなどを作るといった異文化交流を行った。ちなみに桜美林大学では18の外国語が学べるが、中国語はその中でも一番人気という。

ミュージカルワークショップ
3日間開催

芸術文化学群の音楽専修が担当し、3日間に亘って朝から夕方まで行われた。教員に加えて、田尾下哲(オペラや舞台の演出家、4月からは桜美林大学芸術文化学群准教授)、塚田良平(声楽指導・ヴォーカルトレーニング)、RYOJI(ダンス・振付指導・演劇指導)といった実力派タレントが監修やコーディネーターとして加わった。オリエンテーションの後は「ショービジネスの可能性」についての講演。その後は、ヴォーカルとダンスの基礎練習に力を入れた。最終日にはこのプログラムのためのオリジナル作品「ゼミ物語プロット」を、50人の参加者全員が2班に別れて発表。踊り終わった高校生たちの顔には、仲間とともに一つのことをやり遂げた達成感が溢れていた。

スポーツビジネスの世界を考える[トレーナー編]
1日開催

健康福祉学群の提供で、特別講師にはロンドンとリオのパラリンピック日本代表トレーナーで、東京大会でも活躍が期待されている菊地孝明さんが招かれた。集まったのは、日頃部活動などでスポーツに取り組む18人。午前は、トレーナーとしてスポーツビジネス界で活躍するために必要な知識やスキルについての「スポーツビジネスの世界(トレーナーとしての活躍)」を聴講。午後は「明日からできる毎日の身体のメンテナンス術」と題して、部活動などですぐ使えるスポーツマッサージやリラクゼーションマッサージ、ストレッチを二人一組のペアで行った。
コーディネーターの健康福祉学群の若松健太講師は、「大学の授業の中で最もインパクトのあるものからヒントを得た。大学の次のステージである社会で求められる人間力や、人と協調する力を養うのに最適」と振り返る。

高校生チャレンジキャンプ
1日開催

ビジネスマネジメント学群が提供するワークショップ。高校生にも身近なカフェについて、そのメニューや価格がどのように決められているかについて学んだ後、1チーム4,5人で4つのチームを編成。各チームで自分たちの店の経営についてアイデアを出し合った。その後、各店の売りやオリジナルメニュー、価格などをポスター発表。最後は各店の利益をコーディネーターの先生が発表、各チームの取り組みについても公表した。「情報をもとによく考えたか」「自ら動いたか」「話を聞き考えを伝えることができたか」の3つのキーワードを手掛かりに振り返りが行われた。

コーディネーターをした(株)採用と育成研究社の鈴木洋平さんは「グループワークにしたのは、仕事の多くは共同作業で、大学でも今後は増えていくと予想されるから。ここで大事なのはグループに貢献すること。チームが勝っても自分が貢献していなければ嬉しくない。苦手と思う人は、授業や部活、課外活動などを通じて日頃からそのことを意識すること。そうすれば社会で活躍できる人になる」。またビジネスマネジメント学群の教員からは「相手のあるビジネスには正解がない。そこがまた面白いところ。本学群に≪経営≫という名前をいれていない理由もここにある。来年からは新宿の新しいキャンパスでさらに刺激的な学びが経験できるだろう」と結んだ。

この「“ジブン”探究プログラム」、来年度はリベラルアーツ学群からもプログラム提供が予定されているとのこと。桜美林大学では近い将来、オープンキャンパスそのものを従来型のものから、今回のような、学びや体験の場を通して主体性や思考力、判断力を養うようなプログラムに移行するとともに、これまで2回に亘って多数の参加者を集めた「AO・推薦準備セミナー」のさらなる充実を図っていきたいとしています。

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