Kyoto Sangyo University
京都産業大学 生命科学部
産業生命科学科 研究者クローズアップ
「なぜ植物は、水中で葉の形をガラリと変えるのか?」
— 植物が持つ驚異の環境応答力「表現型可塑性」の謎を解く —
木村 成介 教授
京都産業大学 生命科学部 環境生命科学科
(※名称変更構想中)
移動できない植物は、周囲の環境の変化に対応するため自らの形を柔軟に変えます。木村教授は、この「表現型可塑性」と呼ばれる能力に着目し、特に水陸両生植物「ロリッパ」を研究しています。
ロリッパは、陸上では光合成効率の良い丸い葉をつけますが、水中に沈むと、水の抵抗を受け流すための針状の葉をつけるようになります。この「異形葉性」と呼ばれる現象は、植物がどうやって環境を「認識」しているかを知る絶好のモデルです。

研究室では、かつて10年以上かかったDNA解析を数日で終えることができる「次世代シーケンサー」を駆使しています。研究の結果、水没すると植物内でガスのホルモン「エチレン」が蓄積し、これが光や温度の信号と組み合わさって、葉の形を変える遺伝子のスイッチを入れることを突き止めました。
こうした植物の「しなやかな強さ」の解明は、作物の品種改良や進化発生学の発展に貢献します。研究室では他にも、京野菜(水菜と壬生菜)の形の違いや、昆虫が植物を操って作る「虫こぶ」の謎など、植物の「形」の多様性に迫っています。
「なぜ藻は光に向かって泳ぐのか?」
— ミクロな『繊毛』を使った、驚くべき生存戦略の謎を解く —
若林 憲一 教授
京都産業大学 生命科学部 環境生命科学科
(※名称変更構想中)
クラミドモナスなどの遊泳性緑藻類は、光を感知して泳ぐ方向を変える「走光性」を示します。この運動を担うのが、「繊毛(せんもう)」という微小な器官です。
若林教授の研究室では、これらの藻類が「どのように(How)」光を認識し、繊毛の動きを調節しているのか、そして「なぜ(Why)」そうした行動が生存に必要なのか、という根本的な原理の解明に取り組んでいます。
繊毛を持つクラミドモナス
4細胞の多細胞藻類「シアワセモ」
例えば、クラミドモナスには光を感じる「眼(眼点)」があります。若林教授は、この眼の赤い色素を失った藻類は、光の方向を「勘違い」して逆方向に泳いでしまうことを発見しました。細胞には「凸レンズ」のように光を集める性質があり、色素がその光を反射することで、光の方向を正しく認識するしくみがあったのです。
さらに、4細胞だけの多細胞藻類「シアワセモ」の研究では、害になるほど強い光から泳いで逃げる能力が低い代わりに、光エネルギーを熱に変えて捨てる能力が非常に高いという、陸上植物にも似た生存戦略を発見しました。
こうしたHowとWhyの解明は、有用物質産生藻類の濃縮や赤潮対策、さらにはヒトの難病「原発性不動繊毛症候群」の理解にも繋がると期待されています。
「そのマダニが、未知の感染症を持っているかもしれない」
— 人と動物を行き来する『人獣共通感染症』から、私たちの暮らしを守る —
染谷 梓 准教授
京都産業大学 生命科学部 環境生命科学科
(※名称変更構想中)
食中毒を引き起こすO-157は、健康なウシにも見つかる大腸菌の一種です。このように、動物には無害でも人に感染すると病気を引き起こすことがあるのが「人獣共通感染症」の恐ろしさです。マダニが媒介する「日本紅斑熱」もその一つです。
安全に暮らすには、「身近な自然に、どんな病原体がいるか」を正確に知ることが不可欠です。

染谷准教授は、獣医微生物学の専門家として、2つの軸でこの問題に取り組んでいます。一つは、マダニが媒介する細菌の研究。もう一つは、食肉などにも見つかっている「薬剤耐性菌」(薬が効かない菌)の研究です。
研究は地道なフィールドワークから始まります。白い布でマダニを採集し、種類を判別。研究室でDNAを検査し、どんな病原体を持っているかを調査・記録します。さらに、京都のハクビシンから「猫ひっかき病」の菌に似た菌を発見するなど、野生動物の調査も行っています。

染谷准教授のゴールは、危険を煽ることではなく、「予防と注意喚起」を行うこと。リスクを正しく理解し、自然や動物と「うまく折り合いをつけて付き合っていく」方法を探っています。
「なぜ今、自然の力が防災に役立つのか?」
— 「グリーンインフラ」で、災害に強く豊かな社会を設計する —
西田 貴明 教授
京都産業大学 生命科学部 環境生命科学科
(※名称変更構想中)
近年、ゲリラ豪雨による水害が頻発しています。こうした社会課題に対し、コンクリートで固める対策だけでなく、自然の機能をインフラとして活用する「グリーンインフラ」が注目されています。
西田教授は、このグリーンインフラを環境政策学の視点から研究しています。グリーンインフラとは、公園や緑地、森林が持つ「雨水を貯める」「気温上昇を抑える」「生物の生息地となる」といった多様な機能を、社会基盤として積極的に活用する考え方です。

例えば、地方自治体と連携し、さまざまな公園や緑地において、雨水を貯留・浸透させる「雨庭(あめにわ)」の設計・調査をおこない、その防災・減災、暑熱緩和、生物多様性保全、レクリエーション等の効果を実証する社会実験を行っています。また、本学の情報理工学部の研究室とも協働して、市民がゲーム感覚で参加しながらグリーンインフラへの理解や参画を促すモバイルアプリの開発も推進しています。
このように生態学・土木学・情報科学(理系)と政策学(文系)を融合させ、産官学連携のフィールドワークを通じて、生物多様性の保全と災害に強い地域づくりを両立させる、持続可能な社会の実現を目指しています。
「『自然保護』だけで、地域は守れるのか?」
— 科学データと“地域の視点”で、持続可能な社会システムを設計する —
三瓶 由紀 准教授
京都産業大学 生命科学部 環境生命科学科
(※名称変更構想中)
里山の保全や伝統野菜の継承など、多くの地域が課題に直面しています。しかし、単に「自然を保護すべきだ」と主張するだけでは、そこで暮らす人々の生活や利害と対立しかねません。
三瓶准教授の研究は、「持続可能な社会システムづくり」がテーマです。大切なのは、地域の人たちが「これなら取り組めそうだ」と心から思える、無理なく続けられる仕組みを見つけ出すこと。
例えば、世界農業遺産を事例に、地域の人々のつながりや、それが地域の農業に与える影響を把握し、景観・文化を守りつつ現代に即してどのように変化を受け入れていくか考える試みでは、アプローチは二刀流です。一つはGIS(地理情報システム)やドローンを使う「自然科学」。もう一つはアンケートやインタビューで“人の思い”を調査する「社会科学」です。
三瓶准教授の役割は、二つの側面の科学的データを「議論の素材」として提供すること。これにより、地域の皆さんが自分たちで最適な答えを見つけ出せるよう手助けしています。







