電磁誘導を得点へ翻訳する
科学の甲子園・実技競技③「目指せ! 電磁力でカップイン」を、電磁気学・回路論・最適化から読む
概要
第15回科学の甲子園全国大会の実技競技③「目指せ! 電磁力でカップイン」は、トムソンリング装置を自作し、アルミニウム製リングを得点エリアへ射出する競技である。見た目は派手で、観客には「リングが飛ぶ」場面が強く印象に残る。しかし、その本質は単なる演示実験ではない。
コイル、鉄心、発射台を会場で製作し、事前製作のTR電気回路とジャンプリングを組み合わせ、60秒という短いチャレンジ時間の中で期待得点を最大化する、制約付きの工学的最適化問題である。
本稿では、まず競技ルールがどのような目的関数を定めていたかを整理し、次にトムソンリングを可動変圧器として捉える理論、交流型jumping ringで知られる位相差の議論、そして今回の競技をコンデンサ放電型パルス駆動として読む視点をまとめる。さらに、コイル巻数、リング寸法、鉄心構成、発射角、充電電圧、機械的固定などの設計変数が、どのように飛距離・再現性・発射回数・着地分布へ効くかを考察する。
1 はじめに
科学の甲子園の実技競技は、しばしば「高校の知識を使った工作競技」と受け取られる。しかし今回の実技競技③は、それよりはるかに豊かな内容を含んでいた。公開競技問題冊子によれば、競技時間は160分で、そのうち製作・試行・調整に使えるのは65分である。予選ではカップ中心が発射エリア境界ラインから400cmの位置に置かれ、得点はカップ100点、グリーン45点、ラフ20点、範囲外0点で計算される。1回の予選チャレンジは60秒であり、その時間内なら検査に合格したジャンプリングを何個発射してもよい。予選上位8チームが決勝に進み、決勝では中心距離が300cmから500cmの範囲で改めて指定される。
このルールだけでも、競技の本質が「どれだけ高く、どれだけ遠くへ一発飛ばせるか」ではないことがわかる。実際に最大化すべき量は、最高到達高度でも最大飛距離でもなく、60秒内に打てる発射回数と、各発射の最終静止位置に応じた得点の総和の期待値である。つまりこの競技は、電磁誘導の演示実験をそのまま競技化したものではなく、電磁気学・回路論・機械的損失・得点規則を一つの目的関数へまとめた設計問題として読むべきである。
本稿の基本的立場は明快である。すなわち、この競技は「トムソンリングを作る競技」ではなく、「トムソンリングを得点装置へ翻訳する競技」だったということである。そのため以下では、まず競技の骨格と設計変数を整理し、そのうえでトムソンリングの理論を交流型とパルス放電型の両面から読み直し、最後に上位校の戦略を物理的に解釈する。
2 競技の骨格:何を設計し、何が制約されていたのか
公開競技問題冊子によれば、会場で新たに製作するのはコイル、鉄心、発射台であり、ジャンプリングとTR電気回路は事前製作物を持ち込む形式であった。使用材料としては、手巻き用のポリエステル銅線(1.6mmおよび1.2mm)、直線なまし鉄線(直径約2mm、長さ約1000mm)25本、各種テープ、輪ゴム、紙、木材、ねじ類などが与えられる。工具類をTR装置の材料として流用してはならないこと、材料の弾性などを利用したばね仕掛けを備えてはならないこと、発射台は指定木板上の固定面にのみ設置することなども明示されている。
この制約は教育的に非常に重要である。競技者が成功するには、単なる器用さではなく、どの変数が本当に効くのかを見抜かなければならないからである。競技で実質的に可変だったものを整理すると、概ね次の四群に分けられる。
| 設計変数 | 主な物理量への影響 | 競技上の意味 |
|---|---|---|
| コイル巻数・線径 | 抵抗R、インダクタンスL、磁場強度、電流立ち上がり dI/dt | 一発の強さと再現性の両立 |
| アルミリング寸法・形状 | 質量m、抵抗Rr、離脱挙動、姿勢安定性、着地時の接触挙動 | 飛距離だけでなく着地点分布にも影響 |
| 鉄心本数・束ね方・長さ | 磁束集中、渦電流損失、飽和、位置依存磁場 | 初期加速と有効作用距離を左右 |
| 充電電圧・発射角・固定法 | 投入エネルギー、摩擦損失、振動損失、再充電待機時間、発射回数 | 期待得点の最大化に直結 |
ここで特に重要なのは、競技冊子そのものが「求められる性能」として、(i) 床上のTR装置から射出したリングが300cm〜500cmの範囲の指定位置に再現性よく到達できること、(ii) 限られた時間により多くのリングを発射できる操作性を持つこと、の二つを挙げている点である。後者は、物理的な「一発の強さ」に加えて、競技工学としての手数が明示的に問われていることを意味する。
本競技で最適化すべき対象は「最大飛距離」ではない。「1射あたりの期待得点」×「60秒での発射回数」に近い量である。
3 トムソンリングとは何か:可動変圧器として見る基礎理論
トムソンリング(jumping ring)は、交流コイルあるいは急峻なパルス磁場によって金属リングに誘導電流を流し、そのリングを飛び上がらせる実験として古くから知られている。直感的説明では「レンツの法則により反発するから飛ぶ」と言われることが多いが、それだけでは不十分である。
より体系的には、コイルを一次側、リングを短絡二次側とする可動変圧器として見るのがよい。一次側電流を Ip(t)、リング電流を Ir(t)、相互インダクタンスを M(z) とすると、リングに誘起される起電力は
Er(t) = −M(z) dIp/dt
と書ける。リング自身のインダクタンスと抵抗をそれぞれ Lr(z), Rr とすれば、リング電流は
Lr(z) dIr/dt + RrIr = −M(z) dIp/dt
に従う。ここで重要なのは、MとLrがリング位置zに依存しうることである。すなわちこの系は、飛びながら結合が変わる非線形系である。
LaderaとDonosoは、リングに働く瞬間力を
F(t) = Ir(t) · 2πa · Bρ(z, t)
と整理している。ここで a はリング平均半径、Bρ はコイル・鉄心系が作る磁場の半径方向成分である。リング内を貫く軸方向磁束の変化が誘導電流を生み、その誘導電流が半径方向磁場と相互作用して軸方向のローレンツ力へ変換される。したがってジャンプリングの原理は、
という三段階で理解するのが適切である。
この見方の利点は、競技上の工作の意味が見えやすくなることにある。たとえば、リングと鉄心の距離を詰める工夫は、単に「近い方が強そう」という曖昧な話ではない。M(z)を大きくし、初期の誘導起電力を増やし、大きな力が生じる領域を、リングがまだ十分に遅い位置で使うための工夫なのである。
4 交流型の古典理論:位相差が平均上向き力をつくる
古典的なトムソンリング装置は、商用交流でコイルを励磁する形が多い。このとき「レンツの法則で常に反発する」と考えると、各半周期で引力と斥力が相殺しそうに見える。ここで本質的なのが、リング電流の位相遅れである。
一次側が角周波数ωの正弦波で駆動され、リングの実効インダクタンスと抵抗をL, Rとすると、リング電流の位相遅れφは
tan φ = ωL / R
で与えられる。TjossemとBrostは、平均上向き力が
⟨F⟩ ∝ S(z) sin²φ
の形で整理できることを示した。ここでS(z)は高さによる形状関数であり、リングがコア先端に近いほど大きい。
式の意味は大きい。φ = 0、すなわち純抵抗的で位相差がなければ、上向き平均力は出ない。逆に位相差が十分にあると、瞬間力は時間的に完全には打ち消されず、周期平均として上向き成分が残る。JefferyとAmiriは、トムソンリングを単純な「一象限だけのレンツの法則説明」では理解できないことを明示的に論じ、位相差の実測も報告している。
さらにTjossemとBrostは、リング長さを変える典型設定では、コア上に置かれたリングの実効インダクタンスが大きくは変わらず、主として抵抗だけが変わるため、最適リング条件がR ≈ ωL、すなわちφ ≈ 45°の近傍に現れることを示した。ここから、「軽いリングほどよい」「導電率が高いほどよい」といった単純化が危険であることがわかる。質量を下げると抵抗が増え、位相差や電流振幅が変わるからである。
ただしここで重要な注意がある。今回の科学の甲子園の装置は、交流定常駆動そのものではなくコンデンサ放電型のパルス駆動である。したがって、これらの式をそのまま数値最適化の公式として使うことはできない。それでも交流型理論は、リングの抵抗・インダクタンス・位置依存結合が本質であることを明瞭に示しており、競技を読むための重要な土台になる。
5 今回の競技をパルス放電型として読む
配信中に示されたTR電気回路の説明と装置写真から、今回の競技の回路は、乾電池とDC-DC昇圧部でコンデンサを充電し、サイリスタを介してコイルへ瞬間放電する構成であった。コンデンサ容量は0.1F、コンデンサの定格充電電圧は35V、昇圧部の設定は30V程度までと示されていた。したがって一発あたりの蓄積エネルギーは
EC = 1/2 CV²
C = 0.1F, V = 30V とすると EC ≈ 45J
となる。これは高校生向け競技としては十分に大きく、しかも「数十ジュール級の短時間パルス」を扱っていたことを意味する。
このとき一次側電流は、理想化すればRLC過渡現象として理解できる。コイルのインダクタンスをLp、主回路抵抗をRp、コンデンサ容量をCとすれば、電流Ipは
Lp dIp/dt + RpIp + (1/C) ∫Ip dt = 0
で記述され、固有角周波数は ω0 ≈ 1/√(LpC)、減衰率は α ≈ Rp/(2Lp) で与えられる。Waschkeらは、パルス駆動型トムソンリング装置において、与えられたコンデンサに対してコイルのインダクタンスが小さいほど共振周波数が上がり、電流および磁場の時間変化が大きくなり、加速に有利であると論じている。
ここから、今回の競技で「巻数を増やせばよい」とは限らない理由が見えてくる。巻数を増やせばNIの意味では磁気モーメントは増えやすいが、同時に抵抗とインダクタンスも増える。すると電流立ち上がり dI/dt が鈍り、リングに誘起される起電力も小さくなりうる。逆に巻数を減らしすぎれば磁束そのものが不足するかもしれない。したがって、今回の最適設計は「強い磁場」だけでなく、短時間でどれだけ大きい磁束変化を与えられるかに依存する。
また、今回の回路にサイリスタが使われていた点も重要である。サイリスタは、一度ゲート信号で導通すると、電流が保持電流を下回るまでオン状態を保つ素子であり、大きな突入電流を機械接点なしで扱える。短時間に大電流を流したい本競技では理にかなっている。教育的にも、これは「電磁誘導実験」に回路工学が本格的に入り込んでいることを示す。つまりこの競技は、磁場を作る工作ではなく、時定数とスイッチングを含む電力パルスの設計でもあった。
6 設計変数を物理で読む
6.1 コイル:巻数は磁場だけでなく時定数を決める
コイルの巻数・線径は、磁場強度、抵抗、インダクタンスを同時に変える。交流理論ではリングの位相差を通じて平均力に効き、パルス理論では一次電流波形と dI/dt に効く。今回の競技では1.6mmと1.2mmの指定線材を使えたので、太線を少巻きにして低抵抗・低インダクタンス・大電流立ち上がりを狙う設計も、細線を増巻きして磁束を稼ぐ設計も考え得た。どちらが勝つかは一義的ではなく、リング質量、鉄心形状、目標距離、そして操作性まで含めた系全体で決まる。
6.2 リング:質量と抵抗の両方を背負う
リングはアルミパイプから切り出して作る。長さや加工法によって質量mと抵抗Rrが同時に変わるため、「軽いほどよい」とは言えない。交流型文献で最適抵抗が現れることはすでに述べたが、パルス型でも事情は似ている。軽すぎれば電流は流れにくくなり、重すぎれば加速しにくい。さらに実際の競技では、飛翔中の空気抵抗、着地時の回転、カップ縁や保護マットとの接触もあり、リングは単なる「質点」ではない。
リング形状の工夫については、上位校のコメントとして「ジャンプリングを27個用意し、飛ばしやすいように斜めにカットした」という趣旨の情報が伝えられている。ここで斜め切りの効果を断定するのは慎重であるべきだが、少なくとも、切断面の対称性を崩すことで離脱時の姿勢、回転開始、着地時の接触挙動に影響を与えた可能性はある。つまりリング形状は、電気的パラメータだけでなく、射出後の幾何学的安定性にも関わる。
6.3 鉄心:磁束集中だけではなく損失も考える
競技冊子では鉄心を2mm径程度の直線なまし鉄線から製作するとされている。これは偶然ではない。鉄心を細線束で構成すると、単一の太い導体に比べて渦電流ループを作りにくく、損失が抑えられる。MITの講義ノートでも、軟磁性材料における渦電流損失の低減には薄片化・細分化が重要であることが強調される。競技スライドに「鉄心の本数 → 渦電流の抑制」とあったのは、厳密には「細い鉄線を束ねることにより渦電流損失を抑えうる」という意味に読むのが自然である。
ただし、鉄心は単に細ければよいわけではない。本数を増やせば断面積が増え、飽和しにくくなって磁束を稼げる一方、質量や機械的干渉の問題も出る。さらに長さも重要で、コイル上方にどこまで鉄心を伸ばすかは、磁場が有効に作用する高さ範囲と関係する。Waschkeらは、低電圧で大きく飛ばす装置において、鉄心上部の磁場分布が加速位相に重要であり、最適長さは単純計算では決まらず経験的最適化が必要だと述べている。本競技でも、鉄心長さは「とりあえず長い方がよい」ではなく、コイル近傍の強い場をどの範囲まで使いたいかという設計問題だったと考えられる。
6.4 摩擦・固定・角度:損失の工学
競技スライドは、工作上のエネルギー損失として、鉄心との摩擦、鉄心長さによる回転損失、発射台やコイルの固定不足による振動損失を挙げていた。これは非常に本質的である。力学教科書の問題では、入力エネルギーはそのまま飛翔エネルギーへ変わるように書かれがちだが、現実の装置では、
EC = E電磁加速 + Eジュール損 + E摩擦 + E振動 + E回転 + …
であり、欲しいのは E電磁加速 の比率を上げることである。Waschkeらも、コイルを強固に固定するだけで跳躍高さが30%以上改善し、リングがゆるく乗っていると摩擦で運動量を失うと報告している。今回の競技で発射台の固定、リングと鉄心の位置合わせ、木板全体の一体化が重視されたであろうことは、物理的に十分納得できる。
また、発射角も戦略変数である。射出後を単純な斜方投射とみなせば、空気抵抗や跳ね返りを無視した到達距離は
R ≈ (v0² / g) sin 2θ
で与えられる。しかし実際には、初速v0自体が電磁力の作用時間、摩擦、装置内接触に依存し、着地後はカップ縁やグリーン外周で反射しうる。したがって角度調整は単なる射程調整ではなく、着地の入り方と跳ね返り方の制御でもあった。
7 この競技の本当の最適化:最高到達高度ではなく期待得点
ルール面に戻ろう。得点エリアは外側200cm四方、その内側にグリーン約120cm四方、中心に直径30cmのカップがあり、得点はそれぞれ100点、45点、20点、0点である。さらに、チャレンジ終了の合図後に発射されたリング、分裂したリング、選手に当たったリング、許可されない操作をしたリングは無効となる。よって競技者の評価関数は、単に「よく飛ぶほどよい」ではなく、
E[score per shot] = 100pcup + 45pgreen + 20prough + 0pout
これを1射あたりで考え、さらに60秒内の発射回数Nで重みづけする。
つまり、
max E[N] ・ E[s(X)]
に近い形の設計問題になっている。ただし実際にはNと着地分布Xは独立ではない。電圧を上げて一発を強くすると飛距離は伸びるかもしれないが、再充電時間が延び、着地の散らばりも大きくなりうる。
この見方に立つと、上位校の戦略コメントは非常に示唆的である。岡山朝日高校について伝えられたコメントでは、おおむね「リングを27個用意し、形状にも工夫を加えた。カップ周りではアルミの枠に弾かれてグリーンから外れやすいと判断し、電圧を下げて手数を重視した。さらにリングと鉄心をできるだけ密着させた」という内容になっていた。ここで最も重要なのは、電圧を下げたという判断である。
これは一見すると保守的戦略に見えるが、むしろ本質的である。電圧を下げれば投入エネルギーは二乗で減る。しかしその代わり、(i) 充電時間が短くなりやすい、(ii) 跳ね返りや飛びすぎによる0点が減りやすい、(iii) 装置やリングの挙動が安定しやすい、という利点がある。もしカップ付近の着地が強すぎて反射し、0点域まで出やすいのであれば、1発の威力を下げてグリーン滞在確率を上げた方が、期待得点はむしろ増える。これは、最大飛距離問題を得点分布問題へ読み替えたという意味で、非常に成熟した戦略である。
また「リングと鉄心をできるだけ密着させた」という判断は、相互インダクタンスM(z)を増やすという意味で理論と整合的である。初期位置での相互インダクタンスが大きければ、同じ一次電流波形でもリングに誘起される起電力が大きくなり、短い作用時間の中で必要なインパルスを得やすい。したがってこの戦略は、交流型の位相差議論よりむしろ、パルス放電下でいかに大きな初期インパルスを得るかという視点に沿っている。
8 交流理論と競技現場の橋渡し
ここまでの議論をまとめると、今回の競技は「交流型トムソンリングの理論」と「コンデンサ放電型パルス装置の現場設計」が重なり合う位置にあったと言える。理論面で押さえるべきことは次の三点である。
1. トムソンリングは、一次側コイルと二次側リングからなる可動変圧器として見ると理解しやすい。リング位置によって相互インダクタンスと磁場が変わるため、これは位置依存結合をもつ非線形系である。
2. 交流型では、位相差が平均上向き力の本質であり、リング抵抗と実効インダクタンスの兼ね合いで最適条件が現れる。
3. 本競技のようなパルス型では、位相差の考え方をそのまま数式適用するのではなく、投入エネルギー、電流立ち上がり、位置依存結合、損失、再充電時間へ読み替える必要がある。
教育的に面白いのは、この三点が高校範囲をわずかに越えながらも、決して専門家だけの話ではないことである。理数系高校生なら、電磁誘導、オームの法則、エネルギー保存、斜方投射といった既知の要素を足場にしながら、相互インダクタンス、RLC過渡応答、磁気損失、最適化という大学的概念へ自然に進める。つまりこの競技は、高校の公式をそのまま当てはめる問題ではなく、高校の知識を組み合わせて大学の見方へ踏み出す問題なのである。
9 理数教育として見たときの豊かさ
大学ジャーナルの読者を念頭に置くと、この競技が持つ教育的価値は少なくとも四つある。
第一に、現象の背後に一般理論があることを学べる。トムソンリングは演示実験としては古典的だが、本競技ではそれを製作・最適化・得点化まで含む形に拡張している。そのため、ファラデーの法則、レンツの法則、交流回路、磁性体、スイッチング素子、射出運動が一つの文脈に統合される。
第二に、「よく飛ぶ」と「勝てる」が一致しないことを学べる。これは理科オリンピック型の問題でも重要な感覚である。物理量の極大化と競技目的関数の極大化が別であるという事実は、実験計画や工学設計の核心に近い。
第三に、モデルの適用範囲を考える訓練になる。交流型文献の式を見つけたからといって、そのまま今回のパルス型装置へ代入してはいけない。逆に、パルス型だからといって交流型理論が無意味になるわけでもない。この「似ているが同じではない」という感覚は、学部以降の科学で極めて大切である。
第四に、工作が単なる手作業ではなく理論の延長であることを体験できる。リングの切り方、鉄心の束ね方、コイルの固定、電圧設定、角度調整は、すべて理論の物理量に対応している。工作の上手さと物理の理解が分離していないことを、競技が可視化していた点は大きい。
10 おわりに
実技競技③「目指せ! 電磁力でカップイン」は、派手にリングが飛ぶこと自体が魅力的な競技である。しかし本当に見るべきなのは、その一瞬の背後にある設計思想である。コイルをどう巻くか、鉄心をどう作るか、リングをどう切るか、どの電圧で何発打つか、どの角度で着地させるか。そこでは、電磁気学、回路論、材料、機械的損失、確率、競技ルールがすべて一つの最適化問題に畳み込まれている。
そして何より重要なのは、この競技が「現象を理解し、制約を読み、一般理論を現場の判断へ翻訳する力」を問うていたことである。大学以上の学びにつながる理数教育とは何かを考えるうえでも、この競技は非常に優れた題材だったと言ってよい。演示実験に見えるものの背後に変圧器理論、位相差、相互インダクタンス、RLC過渡応答、渦電流損失、最適化が潜んでいることを、高校生の競技という形で可視化した点に、この課題の真価があった。
参考文献
1. 第15回科学の甲子園全国大会 実技競技③「目指せ! 電磁力でカップイン」公開競技問題冊子.
2. 科学の甲子園全国大会 配信映像(YouTube Live アーカイブ).
3. R. N. Jeffery and F. Amiri, “The Phase Shift in the Jumping Ring,” The Physics Teacher, 46 (2008), 350–357.
4. P. J. H. Tjossem and E. C. Brost, “Optimizing Thomson’s jumping ring,” American Journal of Physics, 79 (2011), 353–358.
5. F. Waschke, A. Strunz, and J.-P. Meyn, “A safe and effective modification of Thomson’s jumping ring experiment,” European Journal of Physics, 33 (2012), 1625–1634.
6. C. L. Ladera and G. Donoso, “Unveiling the physics of the Thomson jumping ring,” American Journal of Physics, 83 (2015), 341–348.
7. D. V. Langley and R. Arieli, “The Jumping Ring as an inquiry project: A learning-opportunities perspective,” Journal of Physics: Conference Series, 1929 (2021), 012070.
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9. D. J. Griffiths, Introduction to Electrodynamics. Pearson.
10. F. W. Grover, Inductance Calculations: Working Formulas and Tables. Dover.
11. MIT OpenCourseWare, “Chapter 11: Inductance and Magnetic Energy.”






