科学の甲子園全国大会 実技競技②「イオン交換エクスプレス」
競技概要
硫酸銅(Ⅱ)水溶液を陽イオン交換樹脂カラムに通して硫酸とし、その硫酸のモル濃度を水酸化ナトリウム水溶液による中和滴定で測定する。
あわせて、8種の白色粉末について、提示された陽イオン(3種)・陰イオン(4種)の候補から、イオン交換後の水溶液のモル濃度や式量の違いを手がかりに組成式を推定する内容であった。
本課題は、高校生にとって取り組みやすいテーマ設定であり、中和滴定という高校化学でなじみ深い実験を軸に構成されていた。
一方で、中和滴定は基本的な実験であるがゆえに、操作や器具の扱いに関するマナー、安全管理が重要となる。
中和は酸と塩基の反応であり、とくに塩基はタンパク質を加水分解して変性させるため、皮膚・目・口に触れないよう十分な注意が必要である。
その意味で、保護めがねやゴム手袋の着用、そして実験を立って行うという基本は、二次的危険の回避という観点からも妥当であり、会場ではこれらがよく守られ、全体として事故なくスムーズに実施されていた。
ただし、長年にわたり中学・高校・大学、さらに実験教室などで幅広い年齢層への実験指導に携わってきた立場から見ると、細部にはいくつか改善の余地も感じられた。
以下、その点を整理して述べたい。
器具類に関する気づき
まず気になったのは、手袋の色が青と白で統一されていなかった点である。青色の手袋は硫酸銅(Ⅱ)水溶液と同系色であり、付着の確認がしづらい可能性がある。
また、廃液用バケツが黒色で、外側から内容物の状態が確認しにくいように見えた。
さらに、想定される滴定回数に対してコニカルビーカーなどの器具数が十分だったかも気になった。1試料につき3回滴定を行うとすると、全体では相当数の滴定操作が必要となる。予備実験において、時間内に全工程を無理なく終えられるか十分に検証されていたかは、確認したい点である。
実験方法に関する課題
滴定操作については、誤差要因となりうる点がいくつか見受けられた。とくに次の2点は基本事項として重要である。
- 滴定時にロートを外していない学校がかなり見られたこと
- ホールピペットおよびビュレットの共液洗浄が十分に徹底されていなかったこと
これらはいずれも、中和滴定の精度に影響しうる基本操作である。とくにロートをつけたままの滴定は、操作上の不適切さとして明確に扱ってよい内容であり、採点上の減点対象とするか、あるいは周囲のスタッフがその場で指摘し是正を促してもよかったのではないかと思われる。
また、滴定用の水酸化ナトリウム水溶液をビュレットへ注入する方法についても、実施側で十分に議論されていたか気になった。
会場では、ビュレット台を床に置いて注液する場面も見られたが、ガラス器具を床に置いて操作することの妥当性には疑問が残る。
「目より下にして強塩基を注ぐほうが安全である」という趣旨の注意には一理あるものの、その結果として床に膝まずいて操作することになれば、かえって危険性や不衛生さが増す可能性もある。
保護めがねとゴム手袋を着用させているのであれば、器具を安定した作業台上で適切に扱う方法との整合性も含め、より合理的な説明と運用が求められるように感じた。
追加実験で示された反応について
追加実験では、硫酸銅(Ⅱ)水溶液にヨウ化カリウムを加える反応が示されていた。会場のモニター映像では、褐色の沈殿のようにも見える映像が映し出されていたが、この反応そのものは高校化学では一般的に扱われない内容である。
反応機構としては、銅(Ⅱ)イオンが還元されて銅(Ⅰ)イオンとなり、同時にヨウ化物イオンが酸化されてヨウ素を生じ、その後、銅(Ⅰ)イオンがヨウ化物イオンと反応してヨウ化銅(Ⅰ)の白色沈殿を生じると考えられる。
想定される反応式
Cu2+ + e– → Cu+
2I– → I2 + 2e–
2Cu2+ + 2I– → 2Cu+ + I2
2Cu+ + 2I– → 2CuI↓
∴ 2Cu2+ + 4I– → 2CuI↓(白色)+ I2(ヨウ素溶液:褐色)
総括
今回の実技競技は、会場に流し台など水を扱う設備が利用できないという制約の中で実施されたものであり、その条件を考えれば全体として大きな問題はなかったといえる。
ただし、そのような制約下だからこそ、器具の選定や配置、操作方法の統一、安全指導の説明の仕方には、より丁寧な配慮が必要である。
中和滴定は高校化学における最も基本的な定量実験のひとつである。だからこそ、単に手順をなぞるだけでなく、実験方法や器具の扱いに伴うマナーを、どこまできちんと伝えられているかが問われる。
そうした基本が少しずつ曖昧になっているのではないかという懸念を抱かせる実技でもあった。
日本化学会フェロー、元東洋大学教授
柄山 正樹






