高大接続改革による最初の入試となった2021年度入試。 実施面では新型コロナ感染症対策に追われ、受験生にはもちろん、試験を実施する大学にとっても 厳しい入試だったと言えるが、多くの私立大学は従来通りの枠組みで入試を行った。 高大接続の理念に沿って果敢に入試改革を行った代表格は、早稲田大学、上智大学、青山学院大学、立教大学だろう。 これら入試改革を先導した大学の入試はどのような結果だったのか。 早稲田大学の事例を参考に、上智大学、青山学院大学、立教大学の入試結果を振り返った。 なお、青山学院大学は阪本浩学長に、立教大学は石川淳統括副総長に総括していただいた。
早稲田大学は複数学部で改革
早稲田大学は政治経済学部の入試改革が注目されるが、ほぼ全ての学部が何らかの入試制度改革を行っている。国際教養学部、スポーツ科学部も一般選抜では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が全員必須だ。それでも、政治経済学部が注目されるのは、一般選抜で数学(数学Ⅰ・数学A)を必須受験としたからである。入試方式は、共通テスト5教科6科目(数学Ⅰ・数学A、数学Ⅱ・数学B必須)の成績で合否判定する共通テスト利用入試と、共通テストで4科目(数学Ⅰ・数学A必須)を受験した上で大学が独自に実施する総合問題が課される一般選抜の2方式である。総合問題は日英両言語の長文読解で一部は論述式、英作文もある。
従来の私大文系入試は英・国・地歴公民もしくは数学の3教科型が基本である。そして、多くの受験生は数学を選択受験しない。大学入学後の学修に数学の素養が必要だとしても、である。これは長らく大学と受験生との間にあった暗黙のルールでもあった。政治経済学部の入試改革はここに一石を投じた。経済学を学ぶ上で数学が必要なことは自明であり、また現代の政治学を学ぶ上で数的データ活用は必須である。新しい入試制度は、入学後の学修に必要な素養を入試で問うという当然のことを行ったのだが、志願者減が話題にされることもあった。ただ定員も減っているため(一般選抜:450名→300名、共通テスト利用入試:75名→50名)、一概には言えないというのが大筋の見方だ。
上智大学
上智大学は初めて共通テストを導入
上智大学の入試改革のポイントは共通テストの導入である。上智大学は主要な私立大学としては、大学入試センター試験を利用していない大学の一つだった。しかし、2021年度入試の一般選抜では、①TEAPスコア利用型(TEAPスコアと学部学科試験の合計点で合否判定、一部の学科は面接も課す)、②共通テスト併用型(共通テストと学部学科試験の合計点で合否判定)、③共通テスト利用型(共通テストの成績のみで合否判定)の3方式で実施され、ほぼ全面的に共通テストを導入した。なお、②、③の方式は外国語の検定試験結果を任意提出でき、加点あるいはみなし得点化の措置もある。
こうした入試改革に踏み切った背景には、グローバル化する社会の変化とそこで求められる人材像の変化がある。また、初中等学校における教育も変わりつつあり、探究的な学びを実践する高校も増えている。こうした状況に対して、大学としてどう対応するか、議論を重ねた末、学力の3要素を適切に評価する入試制度改革に至った。また、そこでの考え方は文部科学省が進める高大接続改革の理念とも符合した。この他、共通テストを導入することで問題作成など実務面での効率化、合理化も期待されていた。上智大学入学センター事務長飯塚淳氏は「共通テストを初めて実施する負担は大きな課題でした。しかし、共通テスト導入によって得られる成果がそれを上回るという結論になりました」と導入の経緯を語る。
3方式の入試が持つそれぞれの特徴
新しい3つの入試方式には、それぞれ異なる特徴がある。①TEAPスコア利用型は、共通テストは課されないが、事前にTEAPの受験が必要だ。試験当日は1〜2教科を受験する。この方式は従来型の教科・科目型の試験のため、受験生にとっては対策が立てやすかったと思われる。
②共通テスト併用型は、基礎学力を共通テストの3教科で確認し、学部学科独自の試験で適性を見る方式で、記述式の問題も含まれている。独自試験の問題は、高校での探究活動等で培った思考力を問うことに加え、各学部学科への適性を問う役割もある。また、試験当日に受験する教科数が少ないことから、午前と午後で別々に行われる他学部の併願が1日で可能なシステムになっていることも特徴の一つだ。「試験日が午前に総合グローバル学部、午後に外国語学部の日は、3割ぐらいは続けて受験していました」(飯塚氏)と従来よりも併願がし易かったようだ。ただ、感染症対策のため「午前で使用した教室は、午後は使用しないように教室を配当しています」(飯塚氏)と実施面では苦労も多かったと見られる。
この共通テスト併用型は、志願者数の面から見ると受験生からは敬遠されたようだ。「各学問分野に意欲ある受験生にチャレンジしていただく意図でしたが、出題内容に不安を感じた受験生が多かったようです」(飯塚氏)とのことだ。なお、午前・午後入試は中高受験では一般的な試験日程だが、今後は試験日が重複することを避けるために、他大学でも取り入れられる可能性もあるだろう。
③共通テスト利用型は4教科受験のため、文系でも数学が、理系でも国語が課されている。主に国公立大学志望で各教科を幅広く学んでいるオールラウンダーの受験生向けの方式だ。「文系でも数学を課すことは、志願者数の減少につながりますが、今後全学でデータサイエンスの授業が必須となりますので、カリキュラムポリシーとは整合します」(飯塚氏)。また、上智大学は学外会場を設けていないこともあり、首都圏以外の地域からの志願者が多いことを想定していたが、「他の2方式の志願者は1都3県が8割を超えているのですが、共通テスト利用型は3割以上が首都圏以外の地域からです。学生の多様性を図る意味でも全国から出願いただいて良かったと思います。コロナ禍で大学に受験に来る必要がなかったことも影響したかも知れません」(飯塚氏)と想定通りだったようだ。
タイプの異なる3方式からどれを選ぶか
入試改革を行った初年度の入試としては、大きな混乱もなく終えたことから、一先ずは成功だった言って良いだろう。ただ、延べ志願者数は増加したものの実志願者数は減少したことに加え、入試方式の変更により合格者の入学手続率も従来とは大きく変わってしまったため、補欠合格者の繰り上げ人数も例年以上だった。さらに、一部の方式で記述式が導入されたため、採点の負荷と公平な採点という課題があり、今後も向き合い続ける必要がある。このように一部に課題は残るが、飯塚氏は「基礎的な学力は共通テストで見る方式がメインですので特別な勉強は必要ありません。大学で目的を持って学ぶ志の高い受験生を歓迎する方式を用意して待っています」と話し、タイプの異なる3方式から選べることをポイントとしてあげる。受験生は、それぞれの準備状況に合わせてどのタイプを選ぶのか、今後、公開される合格最低点、倍率などの情報も確認しながら対策を練ることになるだろう。
青山学院大学
阪本浩学長に聞く2021年度入試結果
志願者数は減少したが学部独自試験を軸にした入試改革には手応えも 改革のポイントは学部独自試験
青山学院大学は2021年度入試の一般選抜で「個別学部日程」、「全学部日程」、「大学入学共通テスト利用入学者選抜」の3方式で選抜を実施しました。中でもポイントとなるのは「個別学部日程」です。多くの学部では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)と各学部の独自試験の組み合わせによって選抜する方式を導入しました。
また、独自試験は特定の教科・科目に依らない複数の教科で構成された「総合問題」や「論述」で実施され、解答方法も記述・論述式が中心です。特定の教科・科目の試験を行う学部もありますが、解答方法は記述・論述式が含まれています。独自問題の出題方針は、各学部のアドミッションポリシー(AP)に基づいているため、学部によっては英語・資格検定試験のスコアを活用するなど、まさにそれぞれのAPに基づいた入学者選抜です。なお、記述・論述式にしているのは、受験生一人ひとりの確かな知識・技能に基づく思考力・判断力・表現力を丁寧に評価すべきだと考えているからです。
初中等教育の改革とも連動
今回の改革の背景には、文部科学省が進める高大接続システム改革があります。2025年度入試からは新学習指導要領で学習した高校生が大学入試に挑みます。初中等教育が、思考力・判断力・表現力を重視した教育に転換し、これからの日本を担う若者たちを育てていこうという改革の理念に共感し、改革を決意しました。
一方で、こうした改革に対して、中央教育審議会答申 注)でも、現在の知識偏重の大学入試が阻害要因になっているのではないかとの指摘がありました。高校以下の学校教育とともに大学入試も変わらなければなりません。現に国立大学は、共通テストと個別試験を組み合わせた入学者選抜を行っており、国立大学の個別試験は90%近くが記述・論述式問題を出題しているという調査結果もあります。
ただ、全てを一気に変えるのは、受験生の準備状況なども含め、難しい課題もあります。そのため、改革初年度は移行期間と考え、従来型のいわゆる私大3教科型方式も併用しています。
注)平成26年12月22日中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」
志願者の減少はある程度想定
初年度は結果として「個別学部日程」の志願者数が減少しましたが、改革を決めた時からある程度の減少は覚悟していました。その理由として、一つは共通テストと組み合わせた方式であることです。初めて実施される共通テストは受験生にとって未知のテストです。受験生が不安に思うのは当然です。さらにもう一つは、学部独自試験として記述・論述式問題を出題したことです。私立大学で、従来型の試験とは異なる試験をここまで大規模に展開している大学は他に例を見ません。
予想外だったのは新型コロナ感染症の拡大です。これによって受験生はさらに慎重な出願行動を取り、特に首都圏以外の地域からの出願が減少しました。そのため予想を上回る志願者数減少となったと考えています。ただ、私立大学全体の志願者数が減少しているにも関わらず、「全学部日程」では前年比107%と増加しています。
各学部がより主体的に選抜に関わる
改革を実施して良かったことは、高校によっては記述・論述式問題を高く評価してくれたことです。従来から主体的・対話的・深い学びを実践している高校からは、修得した力をそのまま発揮すれば良いので特別な対策が不要な出題形式だと受け止めていただきました。また、学内では学部独自問題としたことで、各学部の先生方がこれまで以上に入学者選抜に深く関わることとなりました。総合問題、記述・論述式問題は従来よりも多くの作問者、採点者が必要です。これまで以上に多くの先生方が入学者選抜に深く関わり、自分たちが求める受験生像について、これまで以上に真剣に議論しました。記述・論述式ですので、採点の際には公平公正な採点ができているか厳重にチェックをしています。学部によっては採点作業がこれまで以上に長時間に及びました。
学部独自試験の内容は、言わば受験生に対するメッセージです。そして、受験生が作り上げた答案は、そのメッセージへの回答です。改革初年度は課題も残りましたが、今後、私たちが反省すべき点があれば、受験生の視点で改善していきたいと考えています。
個性を伸ばせる大学を選んで欲しい
これからも入学者選抜に込めた大学の意図を、受験生により明確に理解してもらえるように努力を続けていきたいと思います。そして、受験生が大学を選ぶ際には、入試難易度ランキングや偏差値に依らないで、学びの内容、取得資格、将来どのような道に進めるのか、などを自分の目で見てよく考えて欲しいと思います。自分の個性を本当に伸ばせるのはどの大学なのか、という視点で選んで欲しい。結果として、それが本学であればこんなに嬉しいことはありません。理想論ではなく、現実にそうなることを目指して、私たちはチャレンジを続けていきます。
立教大学
統括副総長石川淳教授に聞く2021年度入試結果
教育改革が入試改革の契機、受験機会の拡大で志願者数も増加 外部試験の全面導入と受験機会の拡大
立教大学の2021年度入試における改革のポイントの一つは、英語資格・検定試験(以下、検定試験)と大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の全面的な導入です。文学部の一部の試験を除き、大学独自の英語試験を廃止し、指定された検定試験のスコアまたは共通テストの英語成績を合否判定に利用します。複数のスコアで出願した場合は、最も高得点に換算されたスコアが合否判定に採用され、試験の種類による有利、不利はありません。
もう一つのポイントは受験機会の拡大です。東日本では初めて、原則、全学部が同じ日程・制度で受験できる「全日程全学部日程」を実施しました。本学の教育理念やカリキュラムに賛同し、本学で学びたいという熱意を持つ受験生に対して、できるだけ門戸を広げたいと考え、同じ学科の受験機会をこれまでの最大2回から5回にまで拡充しました。試験日が異なれば違う学科を併願することも可能です。
英語教育のカリキュラム改革が背景に
今回の改革に至った背景には教育改革があります。グローバル教育を支える「英語の立教」の教育をさらに充実させるため、本学では英語教育のカリキュラム改革を実施しました。そのため、入試段階でも英語4技能をしっかりと測定し、カリキュラム改革がより効果的に機能することを目指しました。
従来からあった少人数クラスの科目「英語ディスカッション」に加え、新たな科目「英語ディベート」を設置し、さらに、自らの専門科目を英語で学ぶ「CLIL(内容言語統合型学習)」科目を設置するなど、“英語で学ぶ”ための言語教育の体系を整えました。こうしたカリキュラムを理解した上で、立教大学で学ぶ意欲と能力のある入学者を得るためには必要な入試改革でした。
新しい入試制度が広く理解され志願者増加
実際に志願者数が増えたことは、それが目的だった訳ではありませんが、大変有り難いと思います。増加の理由としては、想定していた以上に検定試験のスコアを持つ受験生が多かったことがあげられます。本学は、もともと受験生の首都圏比率が高いのですが、首都圏は検定試験のスコアを持つ高校生が多いことも影響しています。こうしたグローバルな関心を持つ層が、我々の教育改革に呼応してくれたこと、新しい入試制度がそれにマッチしていたことなどがあったのでしょう。志願者ベースで見ると、検定試験のスコアと共通テストの英語成績の両方で出願した受験生が70%、共通テストの英語成績のみは24%、検定試験のスコアのみは6%です。この数字から、受験生は本学の入試制度を完全に理解して出願してくれたことが分かります。
また、受験機会が増えたため、一人当たりの併願件数は1.98件から2.25件に増えています。この結果は、立教大学で学びたいという強いマインドを持った受験生が、併願の機会を生かして受験してくれたと捉えています。
多様性と多元的な視点が重要
新しい入試制度による新入生については、まだ授業が始まったばかりで詳しいことは分かりませんが、これまでの実績から、英語4技能を重視した入試での入学者は、グローバル志向も強く、留学希望者も多いという特徴があります。そのため、同じような傾向が現れるのか、これからの学生の成長が楽しみです。
また、志願者ベースでは首都圏比率が従来よりもやや上がりましたが、これは課題の一つです。グローバル教育を展開する上では学生の多様性は大切です。その根底にあるのは、多元的なものの見方の重要性です。そのため、出身地一つを取っても多様な方が望ましいでしょう。ただし、それは国内に限ったことではありません。今後は海外からより多くの学生を受け入れられるよう、カリキュラム改革とそれに伴う入試改革を検討していく必要があると思います。キャンパスには出身、年齢、性別など多様な学生がいて、お互いに刺激し合うのが理想の姿です。我々はそれに向けてこれからも着実に改革を進めていきます。
今、まさに我々は、これまで当たり前だと思っていたことが、当たり前ではないということを経験しています。日本の常識が世界の常識ではないことはたくさんあります。これからの社会では、そういう多元的な視点を持つことが極めて重要です。加えて、今回の新型コロナ感染症に見られるように、ある特定の課題が、社会や人々に影響を及ぼす要因は複雑で、単純な方法では解決できません。しかし、我々は複雑な課題を複雑に受け止めて、それでもなお、諦めずに取り組み、前に進まなくてはなりません。そうした課題に立ち向かう意欲のある受験生に本学を目指してもらいたいと思います。我々はその意欲に応えるカリキュラムを用意して待っています。