~Profile~
1997年京都大学総合人間学部卒業、1999年同大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了、2002年同大学大学院情報学研究科知能情報学専攻博士課程指導認定退学。博士(情報学)(2005年9月)。2002年4月より京都外国語大学外国語学部講師、マルチメディア教育研究センター講師、准教授、教授などを経て、2019年4月より現職。専門は教育工学・大学教育学。大阪府立天王寺高等学校出身。
~Profile~
京都大学博士(人間・環境学)。専門は、外国語教育(英語・日本語)、理論言語学(認知言語学・コーパス言語学)。コーパスやICTを活用した言語研究や言語教育に関する教育研究に従事。2015年度に「国際言語実践教育システム(GORILLA)」を開発、翌2016年度より京都大学の全学共通科目英語において、統一シラバスの下、GORILLAによるe-Learningを活用したカリキュラムの実施運営に携わる。大分県立大分上野丘高校出身。
2000年代に入り、社会の変化が加速する中、数年先も見通せない時代が到来し、大学のあり方も見直されるべき時期が来ていた。その最中に2020年に始まった新型コロナウィルス感染症の拡大によって大学教育へ向けられる関心はさらに高まっている。とくに、十分な準備期間がない中で始まった大学の授業のデジタル化は、授業の質や課題の量に対する不満に加えて、施設や設備が使えないといった不便さとも重なり、マスコミなどでも度々取り上げられる問題となった。こうした中、大学を選ぶ側としてはどのような視点を持つべきなのか。教育工学がご専門で大学におけるICTを活用した授業、大学教育の改善に取り組まれている村上正行先生と、言語教育に自然言語処理など工学からのアプローチを取り入れ、グローバル化に対応した英語カリキュラム運営を行っている金丸敏幸先生にお話をうかがった。
大学教育の現場で、学び方の多様化が始まった
村上先生:コロナ禍で顕著な変化といえば、やはり学び方の多様化である。感染拡大防止のために大学生がキャンパスに集まることが難しくなり、一気に教育のデジタル化が進んだ。
まだまだ検証の余地はあるが、この1年間で大学生の学力が向上したという調査結果もある。学習時間の増加、アルバイトに追われない生活、自分にあった学び方の構築、教える側の創意工夫などがその要因と考えられる。もっともアルバイトに関しては、減ったことで生活が苦しくなり、退学を余儀なくされるケースもあるので、多面的な検証は必要である。いずれにせよ教育の質やスタイルが多様化した一年とも言える。
教育のデジタル化には2種類ある。オンラインで時間割通りに実施されるリアルタイム形式と、事前に録画された動画を学生が自分の都合に合わせて視聴するオンデマンド形式である。
基礎学力が高く独学が向いている学生と、理解力に不安がある学生とでは適切な学び方も変わってくる。例えば、基礎学力が高い学生はオンデマンドの授業を早送りで視聴したり、分からなかったところを見直したりして学び、本やWebサイトの関連資料などを読むことで効率的に学びを進めることができる。理解力に不安がある学生には教員や周囲に質問したり、助けを求めたりしやすくなるような環境が重要となる。
どのような学び方が自分に合っているのかを考えた上で、各大学がどれくらいオンデマンド形式を取り入れているのか、対面授業を重視しているのかなどを確認することをお勧めする。
――ちなみに京都大学では2021年度は対面授業へ戻す方針、大阪大学では対面授業を取り入れる方針とニュアンスが微妙に異なる(2021年3月現在)。また、地域や大学の規模によってもばらつきがある。関東の大学はオンライン授業を継続する傾向がある一方で、関西や小規模大学では対面授業に戻す傾向がある。
どうなる?人気の専門分野
金丸先生:近年、大学は“グローバル”というキーワードで学生を集めてきたが、今は大きな転換期を迎えている。新型コロナウィルスの発生によって旅行や留学が自由にできない状況になっているからである。また、人気があった旅行業界や航空業界への就職を目指しても、いつ求人状況が改善するかもわからず、就職に苦労することが予想される。
村上先生:留学が卒業に必須の大学では、留学できない学生のためにオンライン留学などの代替手段が用意された。しかし、これで学生が満足できるかどうかは難しいところがある。海外留学の価値を改めて考えてみると、海外で暮らすことによってサバイバル能力が向上する、視野が広がる、リーダーシップを身につける、多様な価値観に触れるなど、数値化しにくい要素がある。留学できない時代にこそ学生は「なんのために留学するのか?」という目的意識が必要となる。語学を学ぶだけであれば国内でもある程度可能である。自動翻訳機能やAI(人工知能)の発達で外国語の読み書き能力そのものの希少価値は下がってくることも念頭におく必要がある。一方で、海外生活で得られるサバイバル能力やリーダーシップなどは労働市場においては今後も必要とされる能力である。また留学というと欧米が人気だが、今後の経済情勢を考えると東南アジアの重要度がますます高まるだろう。
金丸先生:コロナ後のアジア圏への留学は欧米圏より早く解禁される可能性がある。中国などアジア圏からの留学生はアメリカへの留学が難しくなり、日本への留学が増えている。そのため自ら留学しなくても、国内で留学生との交流によって能力を高めることも可能となっている。これまでの常識に捉われず「留学」の価値について考える良い機会と言える。
村上先生:近年、受験生に人気なのはAI(人工知能)を含む情報科学分野である。これらの技術の発展は近年目覚ましく、実用化、産業化の道筋が見えている。そのため、この分野の人材は企業からのニーズも高く、優秀な学生が集まる分野となっている。数学やプログラミングに自信があり、この分野に進みたい人にとっては朗報だ。
金丸先生:今後は、その分野に精通していなくても、これらの技術を理解した上で技術や人材を使いこなすマネジメント能力や、プロジェクトを推進するためのリーダーシップを持つ人材も求められている。多様な人材をまとめあげられるグローバル人材は引き続き必要とされる。
村上先生:外国語学習は一概に不要になるわけではない。さまざまな分野の専門書が近年日本語に翻訳されないケースも出てきていて、道具としての英語の必要性は増している。語学を「道具」として、今発展している産業にどう貢献できるかを広く考えることが今後のキャリアを考えるポイントとなる。
働き方という視点で学びを考える 将来は海外で働くか? 日本で働くか?
――GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazonなどの巨大IT企業)の台頭からも分かるように、産業はもの作りからICTへと急速に移行している。これまでなかった市場を見つけ、ICT技術を用いて課題を解決することにより、巨額の利益を生む世界的な企業が生まれている。
村上先生:研究者もビジネスパーソンも海外で働く方が、待遇面から考えると働きやすい。与えられる権限も大きいのではないか。その際、求められるのは論理的思考、主体性、リーダーシップ等だ。対して、このような人材は日本企業では働きにくい、活躍しにくい環境にあったと言え、この改善は望まれるところである。
金丸先生:これからは一口に国際人といっても、グローバル人材(世界全体を見る人)とインターナショナル人材(日本から他国を見る人)の違いを意識する必要があるかもしれない。世界で活躍できる人物になりたいのか、日本で必要とされる人物になりたいのか。ただし、後者が50年後まで生き残れるかどうかは大いに疑問が残る。
高校生へのメッセージ
村上先生:できる人については、国内はもちろん、海外の大学や環境を見るなど、まず自由にやってみて欲しい。それが難しい人は、中学や高校で基本的な知識を身につけると効率が良い。知識を習得して人脈を広げていくと選択肢が広がるので、その後に型を外す、いわば守破離の精神で行くことを意識したらどうだろうか。
金丸先生:留学が難しい現状を考えると、今できる範囲で地に足のついた進路選択をして欲しい。ただし、将来を見据えてグローバル、インターナショナル、ドメスティック(国内)の視点の違いを意識しておくことが重要だと思う。