目指せ!グローバル人材
グローバルイシューの解決を目指せ!
京都産業大学生命科学部
地球温暖化に加え、世界的な環境汚染の進行、食糧問題等への意識の高まりなどを背景に、持続可能な開発、SDGs※1への対応を求める声が一段と高まっている。これを受け、利潤を追求する企業の集まる実業界においても、企業価値を高めることに直結するとして重視されるようになってきた。教育機関ではESD教育(EducationforSustainableDevelopment:持続可能な開発のための教育)が推進されているが、とりわけ高等教育機関の生命科学分野では、教育・研究対象がSDGsに直結する分野も多く、研究倫理の徹底ともあいまって、急務と考えられている。今春開設し、新しい生命科学の教育・研究拠点を目ざす京都産業大学生命科学部の取組を、SDGsへの対応の観点から紹介する。
新しい理念、設計に基づく生命科学の拠点が誕生
「現在、地球上には100万を超える生物種が個体群を作り、群集を構成し、生態系の中で複雑な関係を構築しながら生活している。環境と生物の相互作用や生物の環境への応答、生物の変化や多様性等はどのようにすれば維持できるのか?」(「環境生態学Ⅰ」)、「長期に亘る人為の関わりによって成立してきた集落、二次林、農地、ため池、草原などから構成される里山の生態系の特徴、生物層等の変化について学び、生物多様性の観点からその評価のための技法を学ぶ」(「里山生態学」)
いずれも京都産業大学生命科学部で、2年次以降に学べる授業である。
生命科学の時代ともいわれる21世紀。遺伝子(ゲノム)の基本的な仕組みの解明から、遺伝子組換え技術、ゲノム編集、クローン技術の開発やiPS細胞の発明などによって、医療や食糧生産における人類の長年の夢は着実に実現されつつある。また新しいDNA解析技術による生物多様性の保全などへの期待も膨らむ。
一方、生命の操作、デザイナーズベビーなど、生命倫理上の問題、その負の側面も表面化し始めている。また市民の生命科学に関する基礎的知識や、その社会への応用についての理解不足、その是非についての判断能力の低さが指摘される一方で、専門家の側には説明能力を高めることが求められている。先端研究やその産業応用に力を入れることはもちろん、それらを社会へ発信する能力や、持続可能な開発に高い意識を持った人材の育成は急務である。
こうした中、「自然と人間が調和する、健全かつ豊かな社会の実現に向けて、生命科学に関する正しい専門知識と技術を備え、生命科学の発展と社会における活用に貢献できる人材の育成」を目的に、京都産業大学では、今春、生命科学部を開設した。
1989年、国内の私立大学ではもっとも早く、生命科学研究の拠点として、工学部生物工学科を開設した京都産業大学。2010年には、「生命現象の原理追求、感染症の原因究明とその治療の応用分野、さらには、食糧資源、地球環境等の社会科学的問題の解決につながる研究」などを目的に、総合生命科学部(生命システム学科、生命資源環境学科、動物生命医科学科)を開設し、今春改編して、生命科学部として開設された。
新学部は《医療・健康》《食料・資源》《環境・生態》という、社会と暮らしを網羅する3領域を主たる対象とし、先端生命科学科と産業生命科学科の2学科で構成される。 先端生命科学科が前身の学部の教育・研究内容を引き継ぐのに対し、産業生命科学科は、人文・社会科学系の学びを新たに取り入れ、文系の生徒にも門戸を開く。「生体分子の構造・機能の解明という基礎分野をもとに、生命科学と社会との結びつきを意識し、生命科学の知識を実社会で活用する実践力を養う」(「自然科学の知識に社会科学的な視点を加味する」)ことを目的としていて、生命科学の教育・研究に新たな視点を加えるものとして注目される。この学科が加わることで、学部全体の専門分野も、前身の学部から引き継がれる生化学、分子生物学、構造生物学、細胞生物学、生理学、遺伝学、微生物学、ウイルス学、動物実験、保全生物学に、社会科学系の創薬医療ビジネス、生物資源学、経済学、環境経済学などが加わり厚みを増す。
学部全体で社会とのむすびつき、持続可能な開発を意識
産業生命科学科を加えた新学部では、生命科学と社会とのむすびつきを意識したコース、カリキュラム等が随所にみられる。
産業生命科学科の「環境と社会コース」では、2年次から3年次春学期にかけて、「地域環境論」や、冒頭に紹介した「里山生態学」、それに「環境経済学」「環境アセスメント」※2などを学ぶ。先端研究が主体の先端生命科学科でも、「環境・生態学コース」では冒頭に紹介した「環境生態学」を学ぶほか、「公衆衛生学」、絶滅危惧種の維持、管理に必要な生態学や遺伝学の理論を学び、実例をもとに生物の保全に関連する基礎を学ぶ「保全生物学」などを学ぶ。
ちなみに各学科は2年次以降コース制になっており、先端生命科学科は、「生命医科学」「食料資源学」「環境・生態学」、産業生命科学科は「医療と健康」「食と農」「環境と社会」の、それぞれ3つの主コース(いずれも2年次から)を持つ。それに副コースとして、「グローバルコース」「教職コース」の2つの共通コースに、先端生命科学科では別に、「実験動物技術者養成コース」「食品衛生管理者養成コース」がある。
新学部の学びの特徴はカリキュラムにも反映される。
両学科とも科目区分は、共通教育科目、融合教育科目、専門教育科目で、専門教育科目はさらに学部共通科目と学科専門科目にわかれ、しかもそれぞれに基盤科目、展開科目が置かれる。
このうち共通教育科目では、先端生命科学科でも人文・社会科学領域から各4単位を選択必修とするなど、社会との結びつきを学ぶことに力を入れる。
融合教育科目は、産業生命科学科では、他の4学部(経済・経営・国際関係・理学部)が用意する「医療経済学」「農業政策」「環境経済」「環境マネジメント論」「国際資源エネルギー論」など14科目から、4単位を上限として卒業単位として認定される。ワンキャンパスというメリットをいかして、他学部の豊富な人文・社会科学系の学問を学ぶことで視野を一層広げるとともに、様々な学問、分野・領域との様々な融合に期待がかかる。
専門教育科目では、先端生命科学科でも基礎科目として「生命倫理」を必修とするなど、社会科学系の科目を重視している。また選択科目だが、冒頭に紹介したような授業も学ぶ。
このような特徴をもつ新しい学部について、学部長の寺地徹教授は、「生命科学の研究成果が社会に受容されるには、自然科学の知識に社会科学的な視点を加味することが欠かせない。生物工学科の時代以来、私たちはSDGsに貢献するような研究を数多く行ってきているが※3、今後は研究成果だけを追い求め、アピールするのではなく、それらが、医療や食料問題の解決、環境関連ビジネスにどのように貢献するのかなど、社会科学の観点も交えて明確にしていきたい。その上で社会とのむすびつき、SDGsを意識した研究人材、生命科学の知識を備えたビジネス人材、いわば世界の課題解決に貢献できる人材を輩出していきたい」と抱負を語る。
※3SDGsへの貢献を目指す研究
ウイルス学が専門の研究室では、鳥インフルエンザの猛威に東アジアが震撼した際、その予防や独自のマスクを開発するなどして社会に貢献。日ごろは東アジアまで視野に入れた地道な渡り鳥研究などを行っており、多くの学生もフィールドワークに参加している。
喫煙による肺がん発生のメカニズムや、メタボと糖尿病などの予防についての研究も充実するほか、希少動物、絶滅危惧種の研究も盛ん。この研究では、日本の食肉、畜産における課題に早くから警鐘を鳴らすなど、食糧問題にも貢献してきている。