高大接続も積極的に活用、NEXT10を掲げ、大学改革を加速する中京大学の取組み

教育推進センター長
井口 弘和 教授
~Profile~
1996年名古屋工業大学大学院博士号取得(工学博士)、2003年日本人間工学会認定人間工学専門家資格取得、1979年(株)豊田中央研究所入社、1999年同感性心理研究室室長、2004年中京大学生命システム工学部(旧)教授。2008年情報理工学部(旧)教授、2010年情報理工(旧)学部長、2013年工学部長、愛知県立昭和高等学校出身。
現在、多くの高校生や保護者が注視する大学入試改革、大学・高校関係者が模索する高大接続ですが、その目指すところが大学、高校それぞれにおける教育改革にあることは変わりません。こうした中、中部地区にあって、高大接続も含めて、大学を挙げて積極的に教育改革を進めているのが中京大学。2017年から教育推進センター長を務め、民間企業出身者ならではの視点から、教育改革、高大接続をリードする井口弘和教授に、これまでの取組みと今後の展望をお聞きしました。
学習支援ソフト「MaNaBo」から、学びの成果が確認でき、意欲を高める学生ポートフォリオシステムまで
日本の大学一年生の半数以上が、週平均5時間未満、85%強が10時間未満しか勉強していないというショッキングな調査結果がよく知られていますが※1、本学ではこれを大学教育の危機と受け止め、2014年に次の10年を見据えて作成した「中京大学長期計画NEXT10“しなやかに挑み続ける、新生・中京大学”」(以下NEXT10)においても、教育の質の充実※2のための方策を真っ先に掲げています。このNEXT10を受け開設された教育推進センターでは、その全学的な推進を担っています。
大学教育の質を保証するためにまず求められるのは、学生に、自発的に学修できる仕組みと環境を用意することと考えた私たちは、本年度、学習支援用のネットワークツール「MaNaBo」をリニューアルしました。宿題や演習をクイズ形式にしたり、ブログ形式やフォーラム形式など双方向の仕組みを取り入れるとともに、履歴から学生がどれぐらいアクセスしているかもわかるようにしました。来年度はさらに、授業終盤での授業アンケートをWeb上に記入できるようにし、教員が次の授業の参考にしたり、シラバスを改善したりできるようにICT環境を整備します。これらは授業の質を保つために最低限必要なことですが、整い次第、学生を勉強させる方法や評価の仕組作りなど、次のステップに進みたいと考えています。
その一つが独自の学生ポートフォリオの開発です。学生がネット上に学修の計画から、活動や成果を個別に入力して記録していくもので、現在、新入試制度の下で合否判定のための資料として高校で利用することが検討されているeポートフォリオと類似したものです。本学では、教員による学修管理や成績等の証明にすることを目的にするのではなく、あくまでも学生の自発的な目標管理、主体的に学問へ向き合うためのツールと位置付けます。そのため、教員は、定期テストなどの結果だけでなく、学生の学修におけるプロセスも見ることができるようになっています。
参考にしたのは、私の前職でのポートフォリオ。各人は年度の始まりに、自分の行動(業務)目標を掲げ、四半期ごとに達成状況を確認し、「自分はこんなに頑張ったからもう少し高く評価して下さい」とアピールします。このポートフォリオは上司の上司も確認しますから、会社の評価への信頼感は増し、モチベーションは上がります。
生産活動ではない教育に、このようなシステムが馴染むかどうかは未知数ですが、少なくとも、一人ひとりの個性や伸びしろがわかり、教員による評価のバラつきが防げるというメリットはあると思います。将来、就職活動に使われるようなことになれば、企業からはまちがいなく重宝がられるはずです。
個人的には、大谷翔平選手が使っていたマンダラチャートのようなものになれば、《学術とスポーツの真剣味の殿堂たれ》という本学の教育理念にも合致すると思います。
※1 東京大学大学院教育研究科大学経営・政策センターによる「授業に関する学修の時間–1週間あたり–日米の大学1年生の比較」(全国大学生調査2007年)【文科省HPより】による。平成28年度のJASSOの調査でも、1週間の、授業時間を除く予習・復習などの勉強時間は1~5時間と答えた学生が半数以上とされる。
※2 NEXT10は10分野からなっていて、〈教育推進〉の事項では、「≪学修意欲を高める教育環境の整備≫について自学自習も含めた能動的な「学修」に取り組むことが自然となるような教育環境を創造する」とされ、学生ポートフォリオやルーブリック評価による学力の可視化などを推進するとしている。
高大接続も様々に展開
大学でこのような取組みを進めれば進めるほど、関心はやはり入学者の資質に向かいます。多様な入試を実施している本学では、入学前教育やリメディアル教育、初年次教育に力を入れてきました。しかし大学での教育の効率を考えると、高校3年間を大学で学ぶための準備期間と考え、その間に高校と大学とが協力して進路に対する意識を高めてもらったり、大学の学びに対する憧れを抱いてもらったりする方が良いのは明らかです。また高校生が大学教員と接することで、高校での学びに大きなモチベーションを与えることもできます。実際、次期学習指導要領では、主体的・対話的で深い学びを促す方法の一つとして探求型授業が、さらにはそれを高大接続の中で実現していくことが求められています。
こうした観点から本学では、2009年から、中京大学附属中京高等学校進学コース2年生の生徒を、毎年大学へ招き、大学で学ぶことについて意識を高めてもらおうと模擬授業を行ってきました。全学部が参加し、高大接続の足掛かりを模索するとともに、《高校・大学の7年一貫教育を実現する連携プログラム》の構築も進めてきました。
2015年には、《学問的関心の涵養、問題発見・解決能力の育成、国際性・キャリア意識の喚起を促進する附属高校のカリキュラムおよび高大連携プログラム》を、両校教職員が共同して開発することとしました。
もちろん一口に高大接続と言っても、大学、学部によって高校に求めるものは異なります。高3の段階で大学1年の勉強ができれば、多岐にわたる大学の授業を余裕を持って受けることができて理想的です。
本学では、大学の正規の授業に「単位認定型先行授業」を設け、それを受講し、修了した附属校生にはそれを大学入学後の単位として認めるという「前取り単位」制を導入しました。北米等でAP※3といわれるシステムで、受講生からの評判は上々です。
附属高校以外の高校への出前授業にも力を入れています。学部ごとに、高校生向けの授業に定評のある教員が、中京圏をはじめ、隣県の高校へ積極的に出向いています。
教職協働と学生ファーストに強みを持ち、《元気のいい学生》を輩出する本学のさらなる教育改革、高大接続の今後の展開に期待して頂きたいと思います。
※3 Advanced Placement
コラム – 工学部が三重県立桑名高等学校と中京大学附属中京高等学校の生徒を招いて高大連携講義を実施
工学部では去る8月1日と22日の二日にわたって、三重県立桑名高等学校と中京大学附属中京高等学校の生徒を名古屋、豊田のキャンパスに招き、高大連携講義を行った。産業技術は様々な学問分野の複合であることを実感し、進路選択や、大学で学んだことを社会にどう活かすかを考えてもらう機会にすることが目的で、各校から6名、計12名の生徒が参加した。
一回目の8月1日は、名古屋キャンパスで行われ、「人工知能ロボット研究の最先端」「プラズマロケットと人工衛星開発の最前線」の二つの講義が行われた。
午前の部に行われた「人工知能ロボット研究の最先端」では、機械システム工学科の橋本学教授(本誌126号参照)の指導の下、PCとカメラを一人一台使い、プログラムを作成したり、物体や人間の顔の認識など、人工知能技術を実際に体験してもらった。
午後の部に行われた「プラズマロケットと人工衛星開発の最前線」は、電気電子工学科の村中崇信准教授と上野一磨助教が担当。真空装置を見学したり、電気回路を実際に組み立ててプラズマを製作したりした。
参加した生徒からは、「電子回路の製作でははんだ付けが難しかった」「ロボットによる瞬時の三次元の物体認識が印象的だった」などの声が聞かれた。
最後に行われたゼミ生との交流では、ゼミ生達から参加した生徒へ「高校では決められた授業を受けていると思うが、大学では自分の好きな授業で学べるのが楽しい」「自由にできることが増える分、自分で考えて行動することが大切。学べる環境の整った大学で意義のある大学生活を送ってほしい」などの感想やアドバイスが送られた。
二回目は8月22日に豊田キャンパスで行われ、午前の部ではメディア工学科の瀧剛志教授による「人の動きを捉える映像処理」の講義が行われた。生徒達はプロサッカー選手の試合中の移動データを題材に、各選手の速度や加速度を計算し、選手の特徴を分析するなどした。
午後の部では、情報工学科の道満恵介講師が「データ処理・パターン認識を用いた支援技術」を担当。生徒達はディープラーニングについて解説を受けた後、画像処理技術を用いてぶつからないクルマ作りを体験、画像処理がどのように行われているのかを学んだ。
主催した工学部では、「全体を通して、初めて体験する実験に戸惑う生徒もいたが、教員や学生のアドバイスを受け何度もチャレンジするうちにこなせるようになり、成功した瞬間に歓声を上げたり、実験は難しかったが、最後には成功して嬉しかったなどと語ってくれるたりして、この取組みが高校生の学ぶ意欲を確実に高めていることが感じられた」としている。