
日本初となる国際看護学部が養成するこれからの時代に必要とされる看護師とは
海外との交流拠点でもある国際都市大阪。近年は外国人旅行者が急増する国際観光都市でもあります。その中心、大阪城を間近にのぞむ地でキャンパスのリニューアルを進めるのが大手前大学。来春に竣工する新棟には、日本初となる「国際看護学部(仮称)」(定員80名予定)を開設します。《国籍、地域、民族、宗教、年齢、性別を問わず学ぶ機会を提供し、建学の精神である「STUDY FOR LIFE(生涯にわたる、人生のための学び)」を実現する》ことを目指す大手前大学の、5番目の学部となる国際看護学部とは。《グローバル人材としての看護師》をコンセプトに、次世代の看護師養成を図る取組についてご紹介します。
今なぜ「国際看護学部」なのか
グローバル化の波は、日本の医療現場にも急速に押し寄せています。日本を訪れる外国人は昨年2800万人を超え、2020年には約4000万人に達すると予想されています※1。当然病院を訪れる外国人患者も増えており、ある調査では78.6%の病院が外国人患者を受け入れたことがあると答えています※2。また、定住外国人も年々増加しています。中でも大都市部を抱える東京・大阪・愛知の3都府県には、2016年末で全国の定住外国人の約4割が住むとされ※3、それに比例して医療現場を訪れる外国人患者の数も多いと考えられます。外国人患者の受け入れにあたっては、外国語による会話に加えて、文化や生活習慣の違いによる言葉の意味の取り違えなど、対応の難しさを感じている医療機関が多くあります※4。外国人患者となりうる、移民、難民、国際結婚などによる定住外国人や、観光、ビジネス、留学、医療ツーリズムでの訪日外国人の持つ価値観や文化的背景を理解した対応が、今後ますます求められていきます。それに加えて、出張、留学、駐在中の在外日本人・渡航者もまた、多様な患者像という観点からは、多様な歴史と文化を内包する日本人も含めて考える必要があります。
日本語を理解しない外国人に象徴される多様な患者に対応できる医療現場の改革、国際化が急がれるとともに、多文化理解に基づいて外国人患者に寄り添える看護師の養成は急務と言われています。
※1 日本政府観光局(JNTO)発表統計より。
※2 社団法人日本病院会の「医療の国際展開に関する現状調査」の結果報告書
※3 法務省ウェブサイト「平成28年末における在留外国人数について(確定値)」参考。
※4 2017年大阪府看護協会による


看護師養成とグローバル教育を追求
日本初となる国際看護学部の教育のキーワードは「多様性のある文化を理解・受容し、健康支援が行えるグローバル人材としての看護師」。大手前大学によれば、地球を一つの「人々が暮らす地域」(または、多様なバックグラウンドを認め合い、適度な距離をもって共生する「ボーダーレス」な社会)と考え、多様な人々のニーズに応じた看護ができることとされます。看護師養成※5とグローバル教育を両輪とし、「看護と医療の知識・技術」の習得に加えて、「英語力を含むコミュニケーション能力」「人権意識」「社会人基礎力」「多様性への理解・受容」「使命感・倫理観」「体力・精神」を身につけた、これからの時代に活躍できる看護のプロフェッショナル、確実な知識と技術を持ち、医師や薬剤師などからもリスペクトされる看護のスペシャリストを輩出したいとしています。
ベースになるのは、「リベラルアーツ教育」「実践的教育」「国際性の涵養」という、大手前大学が50年以上にわたって培ってきた三つの学びの柱。「リベラルアーツ教育」は、地域で暮らす人々の多様性に目を向け、異なる考えを持つ人とのコミュニケーション能力や課題解決能力を養います。
※5 看護師学校指定申請中
豊富な実習と多様な実習先、
基礎から学びやすいカリキュラム
看護師とグローバル人材の育成を両立させるために、教員には海外で学位を取得した者をはじめ、医療や多国籍文化の実態を経験するなど、グローバルな勤務経験が豊富な者を揃えるとしています。
カリキュラムでは、理系も文系も同じスタートラインに立つのが大きな特長です。看護に求められる理系科目は高校までのものとは異なり、文系の学生であっても入学後に十分修得できる内容とレベルであり、カリキュラム全体も、看護師国家試験合格に的を絞ることで、無駄なく丁寧に学ぶことができるといいます。
グローバル人材の基礎力を作る英語教育では、まず、医療機関を利用する立場の外国人が日常生活で使う英語を学びます。次に医療現場でよく使われる単語の修得から、患者と交わす会話の訓練に加えて、実際の看護の場面を想定したロールプレイを行います。また看護の現場では、病状だけでなく、患者の置かれた状況や環境を認識した上で、相手の気持ちを尊重しながら対応するコミュニケーション力が欠かせませんから、イラストやボディランゲージを駆使したノンバーバルなコミュニケーションについても学びます。3年次には学術交流協定を結ぶ4ヶ国・地域の1大学3病院《フィリピンのPhilippine General Hospital、タイのチェンマイ大学(Chiang Mai University)病院、シンガポールのInstitute of Mental Health and Hospital、台湾の慈済科技大学(Tzu Chi University of Science and Technology)》で実習を行い、現地の学生との交流も図ります。卒業時には医学・医療に特化した「日本医学英語検定試験」※6の合格も目指すとのことです。
※6 日本医学英語教育学会が主催する医学・医療に特化した英語検定試験。医療の現場で求められる実践的な英語運用能力を総合的に測る。医療従事者や医療系学生だけでなく、様々な業界で働く人も受験している。

講義、演習、臨地実習を繰り返す
看護師養成とグローバル教育の二つを同時に追求するために用意されるのが、1年次から4年次まで、「講義→演習→臨地実習」を毎年繰り返す独自のプログラムです。
1年次には、阪神地区の定住外国人の多様性や健康支援のあり方を学ぶため、神戸定住外国人支援センターやたかとりコミュニティセンター等の施設で実習を行います。2年次は、訪日外国人に対する看護を学ぶために、りんくう総合医療センターや関西空港検閲所などで実習を行います。3年次は、国内では徒歩圏内にある大手前病院や大阪国際がんセンターで先端医療についての理解を深めたり、子どもから高齢者まで多様な患者の通う医療法人や助産所などで実習を行うほか、前述の海外実習も学生全員が参加します。4年次は、それまでに学んだ知識や技術をより専門的なレベルまで高めることを目的にしますが、成績優秀な学生は、チェンマイ大学病院での2週間のケーススタディーに参加できるとのことです。
これからの医療を担う《グローバル人材としての看護師》となるために
これからの看護職には、深い専門知識や高度な技術に加えて、国際化する現場で直面するさまざまな困難に対応できる柔軟な思考力や精神力、体力が求められます。このことは、離職率が高いといわれる看護の世界では長年課題とされてきたことでもあり、大手前大学国際看護学部では看護の知識・技術とグローバル人材として必要な資質を有する、《へこたれない看護師》の養成に力を入れたいとしています。またグローバル化、国際化する日本において、多様性の理解や人権を尊重する考え方を重視し、経済的に医療機関の受診が難しい人々の健康を支えるNPO法人での実習も積極的に行います。海外へ行けば私たちも、自らが外国人となり、時には差別の対象となるかもしれません。豊かな環境で育った今の若者たちにとって、社会的弱者の立場やその痛みを理解し、彼らに寄り添う経験はとても大事です。大手前大学では、それこそがグローバルナーシングの原点であり、そこをへこたれない看護師としての出発点にしたいとしています。