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ススメ!理系 | 技魔女が語る、工学女子から見る日本の課題

「リケジョ」などの言葉も生まれ、女子の理系の大学への進学が注目されてきましたが、最近ではさらに、女性活躍推進法の制定や働き方改革の推進、イノベーションが求められる中での多様性の確保などの観点からも、それを後押しする声は一層高まっています。 リケジョの中でも最もなり手が少ないと言われるのが工学分野。一般的には、進路選択時における科目適性や保護者の意向、大学での研究環境などが原因とされていますが、企業の第一線で活躍している先輩女子の目にはどう映っているのか。日立グループの女性「技術士」で作る「チーム・技魔女」の創設者千木良美由紀さんと、若手メンバーのおひとり秋山梓さんに、日ごろのお考えについてお話いただきました。

千木良美由紀さんと秋山梓さん
写真左:(株)日立建設設計 千木良 美由紀さん
写真右:(株)日立システムズ 秋山 梓さん

技魔女とは?「チーム・技魔女」は何をしている集まりですか?

千木良: 「チーム・技魔女」は日立グループ、約30万人の社員の中で、技術士資格を持つ女性で組織されたチームで、メンバーは現在16人。女性として、チームとして、何かを社会に物申そうというわけではなく、協力を求めたいときに、お互いに情報を共有できるプラットホームがあると良いということで始まりました。女性技術者として問題を共有できる仲間意識があり、しかも少人数だったので組織化しやすく、すぐに活動が軌道に乗りました。 活動するのは勤務時間外、自分にとって面白く、納得してできることを中心に、単純なボランティアではなく。「プロボノ・パブリコ」と呼ばれる専門知識・技術を活かした社会貢献を目指しています。私たちは専門分野も世代も勤務地も異なるため、何かの事業につながるような活動よりも、キャリアに関する幅広い情報提供などに強みがあると思っています。 大学では理系に進学して、専門職に就きたいと考えている高校生に、私たちの経験を紹介しているのもその一つ。女性技術士には文系から理転した人もいますから、アドバイスするというより、一人ひとりの経験から多様な進路があることを知ってもらえればと考えています。

秋山: 中3から高2の女子生徒を対象にした「女子中高生夏の学校」(通称夏学)という宿泊研修型イベントに、科学研究者に交ざって参加しています。生徒さんには、様々な実験に参加してもらい、理系ならではの面白さを味わってもらいます。それとともに、親子でキャリアについて相談に来られるケースもありますから、ありのままの経験をお話しし、進路選択や将来のキャリアをイメージするのに役立ててもらっています。

性差について、適性について、ステレオタイプの考え方から脱却を。

秋山: ある時、塾や高校の進路指導において、女子に理系進学を敬遠させるようなことがあると聞いて驚いたことがあります。私自身は、「女性だから」「男性だから」と言われたことのないまま、国立大学の理系に進学しました。もともと男性の多い高校で、理系を選択した時には女性はさらに少なくなりましたが、決して進路指導によるものではなかったと思います。 女性が理系進学を敬遠する理由として、特定の科目に得意不得意があるからとも聞きます。私は大学ではCGを作るなど画像工学を学び、今は仕事でwebのシステム構築をしていますが、高校時代、数学が特に得意だったわけではありません。本をよく読んでいたこともあり、国語のほうが点数はよかったくらいです。ただ、頑張って考えると答えが一つに決まる理系科目のほうが性に合っていただけです。

千木良: たしかに女子生徒には、物理や数学は苦手で、生物は得意という人が多いかもしれませんし、それによって大学受験のための戦術を考えることには一理あるかもしれません。ただ、教育というものが、(今)ではなく次のステージを目的に行われるようでは問題です。それに興味や適性は、性差ではなく個人差によることのほうが大きいと私は考えています。

秋山: 成績はいいけれど興味はないという教科より、点数は低いけれど面白いと思える教科の勉強が活かせる分野に進むのもいいと思います。点数が取れないからと切り捨てるのはよくありません。興味がある方が、将来、長く付き合っていけると思いますから。

千木良: 反対に、特に興味がある分野ではなくても適性がある場合もある。それはそれで、それを突き詰めることで社会に大きく貢献できるかもしれません。その結果、仕事も楽しくなる。世の中の役に立っているという実感は仕事をしていく上でとても大事だからです。「成績に拘らず好きな分野に進みなさい」「興味よりも適性で選んでもよいよ」とみとめてくれる環境であってほしいと思います。 何事においてもそうですが、ステレオタイプに何でも決めてしまうことが問題だと思います。教科書のやり方とは違うけれど、どうしても自分の信じるやり方で突き詰めてみたいという人にはやらせてみてほしい。興味を持ってチャレンジすることが、イノベーションにつながるかもしれない。アインシュタインやエジソンも学校では落ちこぼれだったと聞いています。 しかし今、教育の現場にも、組織化された会社にも、異分子を受け入れる素地はほとんどありません。これは女性だけの問題ではないと思います。男性にも同じ思いをしている人はいるはず。他の人と同じことはしたくないという人は、性別に関係なく一定の割合でいますから。女性の問題に戻れば、男性が多い職場だから、育休、産休、親の介護で休むと目立ちますが、女性ばかりの社会、会社ならそれは当たり前で、男性が喫煙のために休憩すると異端扱いかもしれません。つまりどちらが正しい、価値があるということではない。マジョリティの声や、やり方が優先されるのは、組織運営の合理性からはやむをえないかもしれませんが、今、求められているイノベーションを生みだす環境からは最もかけ離れたものだと思います。

やりたいことを実現する方法はいくらでもある。情報を集め、決して諦めないこと
―高校生へのメッセージ―

千木良: かつて、指導者や保護者の情報不足が原因で、理系への適切な進路指導ができていないという経済産業省の調査結果を見たことがあります。女性が理系に進むのは大変といったイメージが大人の中で先行しているのでしょう。しかし今は、どの業種にも女性技術者の会はありますし、男女共同参画が謳われるようになってからは、多くの団体に男女共同参画運営委員会が置かれ、女性が委員長になって積極的に活動しています。また日立グループでは女性社員を支援する施策がたくさん打ち出されています。この手の情報は、きちんと調べればかなりあると思います。ただし、求めていかないとなかなか辿り着かないのかもしれません。概して理系の人たちは、縁の下の力持ちのような働き方をしていて、表に出て「こんなことをしています」と声を大にすることは少ないですから。

秋山: 理系の仕事をして、家庭を持ち、子どもを産んで普通に生活をしている女性はたくさんいるという事実があまり知られていないんでしょうね。「ここにいますよ!」って言いたいです(笑)。それも日立グループ内には、環境に恵まれているせいか結構います。ただ、「恵まれています」と声をあげる人は少ない。事実、不満の声のほうがあがりやすく、メディアでもそういった声がとりあげられやすい。 そもそも、仕事の大変さという点では理系も文系もない、と私は思っています。また、女性は理系に向かないなどとよく言われますが、それと同じくらい向かない男性もいます。私も男女の差は本質的ではないと思います。みんながそうしているから。「みんな同じことをしよう」っていうのは少し無理があるのでないでしょうか。

千木良: ダイバーシティーの対極ですね。

秋山: そういうマインドは、誰かが決めてくれるのを待つことにつながり、よく言われる指示待ち人間、ちょっとしたことにも踏み出せない人を作っていくなのではないか。みんながイノベーション目指して血眼になる必要はないと思いますが、みんなが待ちの姿勢になっては困ります。

千木良: そもそも中高生の周りに、「女性はこういう仕事に向いていない」と思わせる環境があること自体が問題です。といって女性はみな社会に出て働くべきとも思っていません。女性にも向き不向きがありますから、結婚して家庭で子どもを育てることに向いている人もいるでしょうし、子どもを産มない選択をして働き続ける人もいるでしょう。やりたいことがやれない、自由を奪われるような環境はなくしてほしいと切に思います。「チーム・技魔女」はそういう環境を打破しようとする人の側に立ちたいと思っています。 やりたいことに立ちはだかる障害を解決する手段はいくらでもあると思います。思う存分働きたいからとハウスキーパーさんを頼む、というのは良い事例です。身近に良い手段を見つけられなければ、自らそれを提供する環境を作る側に回って新事業を立ち上げるという解決手段もあります。 「親に反対されるから」「難しそうだから」「友達とは違う道だから」と尻込みしないことです。そのためには、保護者や先生には、子どもたちが中学や高校のうちから選択肢を決めないよう、書く、偏りのない情報を提供してあげてほしいと思います。加えて、学生時代にもっと勉強しておけばよかったと考えている社会人は実に多いですから。どうすれば、子どもたちが自ら、いろいろな分野の勉強をしたいと思うようになるかを考えてほしいですね。

秋山: 私も、学生時代もっと勉強しておけばよかったと後悔している一人です。今は新しいことを、当時よりずっと真剣に勉強しています。もし今、大学に入り直せるなら人工知能とか機械学習について学んでみたいですね。

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