高大接続改革を先取りする
千葉商科大学の新しい選抜方式「総合評価型」入試
高校教育、大学教育、その結節点である大学入試を一体的に改革し、高校・大学の連携・接続の中で、知識及び技能と答えが一つに定まらない問題に自ら解を見出していく思考力・判断力・表現力、さらにはそれらの基になる主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度(次期学習指導要領の示す「学びに向かう力、人間性等」)、いわゆる「学力の3要素」を備えた若者を育てようと始まった高大接続改革。大学入試では、大学入試センター試験の改革(2020〔平成32〕年度から実施の大学入学共通テスト)に加えて、これまでのAO(2021〔平成33〕年度入試から総合型選抜)・推薦などの特別選抜(2021〔平成33〕年度入試から学校推薦型選抜)、一般入試(2021〔平成33〕年度入試から一般選抜)の枠組について、名称の変更も含む改革、改善が始まろうとしています。現在各大学においても国の示した行程を念頭に、改革に備えていますが※1、多くの大学にとって課題なのが一般入試の改革。一点刻みの選抜を避け、知識及び技能だけでなく、3要素のすべてを多面的・総合的に判断することが求められています。こうした中、いち早くそれを先取りし、2018年度入試から新しい選抜方式を導入するのが千葉商科大学。一般入試「総合評価型」とセンター利用入試「総合評価型」の2種類。その特徴と狙い、導入の背景、経緯を紹介します。
※1 現在、5分野で延べ28大学1センター1団体が、入学者の選抜方法や、教科の学力の測定、主体性等の評価方法について調査研究を行っている。
「総合評価型」とは
「学力試験と提出書類を組み合わせて評価」するとされるように、受験生は、出願に当たって調査書だけでなく検定試験やクラブ活動等での実績を示す書類等を提出することで、当日の学力試験の結果に加え、日頃の学業成績や出欠状況、諸活動の記録などによって、多面的、総合的な評価が受けられるというもの。言い換えれば、推薦入試やAO入試の理念を一般入試やセンター利用型といった学力による選抜にも取り入れたものと言えます[コラム]。従来、調査書は、一般入試の出願に提出は義務付けられてはいても、参考程度とする大学がほとんどですから、受験生の多い一般入試で「積極的に」評価するというメッセージは、高校教育に大きなインパクトを与えると考えられます。
具体的には、一般入試「総合評価型」では、学力試験が外国語、国語、地歴・公民、数学から2科目選択で200点満点。調査書等の提出書類は40点満点で、合計点の17%を占めます。調査書等の書類で評価されるのは、評定平均値、出欠状況、取得した検定・資格、課外活動状況の4項目。配点は各学部・学科のポリシーを反映したものになります。
定員は初年度、商経学部25名、政策情報学部2名、サービス創造学部5名、人間社会学部5名、国際教養学部4名ですが、初年度の様子次第では、今後さらに増やしていく予定と同大学入学センター。2月1日の同じ日に実施する前期2科目型にも出願できるのも特徴ですが、これは、これまでにない全く新しい入試を少しでも受けやすくしようという受験生への配慮と考えられます。
「導入の背景」、求める生徒・育てたい学生像
大学教育改革に当たって各大学には、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針)、ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)の3つのポリシーを公表することが求められていますが、大学入試に直結するのがアドミッション・ポリシー。大学入学者に求める学力を明確にし、具体的な入学者選抜方法を明示するものです。
千葉商科大学では、社会から期待されているのが「地域の中堅・中小企業で活躍できる人材育成」だとして、アドミッション・ポリシーでは、 ①実社会における諸課題を発見し、解決するための専門教育と幅広い教養教育で知識・技能を学ぶ意欲を持つ学生 ②実社会の多様な人々との連携と、アクティブ・ラーニング(AL)により主体性、協働性、公平性を身につける意欲を持つ学生 ③これらの学びを通して思考力・判断力・表現力、倫理観を修得する意欲を持つ学生 を求めるとしています。千葉商科大学が卒業生を多く輩出する中堅・中小企業では、大企業以上にどんな現場でも協働し、物事に柔軟に対応できる人材が求められます。そこでアクティブ・ラーニング(AL)を軸にした実学教育はきわめて重要となり、実践的な学びを活性化する積極的でコミュニケーション能力の高い学生が求められるのです。
しかし、特色ある教育に力を入れる大学の多くに共通するのが、母集団の多い一般入試では、受験生や進路指導による偏差値による大学・学部選びが相変わらず優勢で、大学の求める資質を持った学生を獲得しにくいという悩みです。従来型の1点刻みの学力試験では、求める資質についての評価を入り込ませる余地はない。また受験生側からしても、当日の一回限りの、しかも一点刻みの選抜では、自分が本来行きたいと考える大学に、必ずしも合格するとは限らない、という状況があります。
その点、今回のような総合評価型の入試であれば、「学力試験では合格基準点に2点足りないが、生徒会長をしていてALをリードできる資質があるはずだから、ぜひ合格させたい」といったように、大学が自らのアドミッション・ポリシーに合致した学生を獲得できる可能性は飛躍的に高まると考えられます。
2019年度には学力型AO入試を。スピード感重視でさらなる改革に挑む
千葉商科大学が3つのポリシーの見直し、入試改革に要した時間はわずか1年とされます。この異例のスピードについて入学センターでは、「私学ならではの柔軟性とガバナンスの確立に加えて、実学志向のALを軸とした教育改革が進んでいたことと、入試区分や評定平均値別に入学した学生の成績から離籍率(退学率)までを追跡した詳細なデータの蓄積があり、それをベースに議論することで教職員の意思疎通が図られているから」とコメントしています。
戦後二度目と言われる大学入試の大改革は、大学入試をはさんで高校教育と大学教育が断絶しているシステムから、両者の連携を深め、接続性を重視するシステムへの転換を目指しています。そのためにも、高校での学業や課外も含めた様々な活動、取組が正当に評価される選抜システム・手法の開発が、今すべての大学に求められています。
2019(平成31)年度入試には、総合評価型を補完する学力型AO入試(仮称)の導入を予定している千葉商科大学。多くの大学が入試改革に臨む2020(平成32)年に、受験生に混乱を与えることがないよう、今からその準備を始めておきたいと入学センターは語っています。
コラム
去る7月13日に公表された文部科学省による「高大接続改革の実施方針等の策定について」には、「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」も含まれている。その中の「①大学入学者選抜に係る新たなルールについて」「2区分のあり方の見直し 一般入試の課題の改善」では、一般入試について以下のように記されている。
「筆記試験に加え、(主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度)をより積極的に評価するため、調査書や志願者本人が記載する資料等※2の積極的な活用を促す。(かつ)各大学の入学者受け入れの方針に基づき、調査書や志望者本人の記載する資料等をどのように活用するかについて、各大学の募集要項等に明記することとする」
※2 エッセイ、ディベート、プレゼンテーション、各種大会や資格取得の記録、探求的な学習の成果に関するレポートやその概要などを含む。