探究・学問・進路のヒント

 

Better late than never
国際的な教育・研究環境で行動力を身につける

沖縄科学技術大学院大学(OIST)・一貫制博士課程2年 長谷川 のんの さん 祖母の影響で幼少期より英語に親しみ、カナディアン・インターナショナル・スクール(小学校~高校)を経て、2017年カナダ・ゲルフ大に入学。在学中のインターンシップ制度を利用してOISTで数か月、ミツバチの研究に従事。その後、世界各国から学生の集まる難関の選抜試験を突破し、ゲルフ大学卒業後にOISTの一貫制博士課程に進学、現在に至る。

一流の研究者により世界トップレベルの研究が推進されている沖縄科学技術大学院大学(OIST)。2012年に博士課程を開設以降、教職員の約40%、学生の約80%が外国人という異質の大学院大学で、教育と研究は全て英語で行われる。2017年に一貫制博士課程に入学し、ミツバチの研究に勤しむのが長谷川のんのさん。ミツバチ研究との出会いやその面白さ、OISTの学習・研究環境などについて語っていただきました。


ミツバチとの出会い

 ゲルフ大学在学中に行ったインターンシップ先で、ミツバチの研究に従事したことが興味を持ったきっかけです。ゲルフ大学には「Co-operative Education Programs(協同教育プログラム)」という制度があります。学業の一環として正式に認められており、関連する分野での学習と有給就業経験を統合した教育モデルです。通常、大学での講義・実習に加え、民間企業や他の大学などで16か月のインターンシップを行い、学問的な基礎の上に実務経験を積み重ねることができるようデザインされています。研究を進める中で、ミツバチの奥深さに触れると同時に愛くるしさも感じ、世界的に減少傾向にあるミツバチを守りたいと思うようになりました。

OISTでのミツバチ研究

 現在は、ミツバチに寄生する「バロアダニ」と呼ばれるダニが媒介するウイルスを研究対象にしています。「縮れ羽ウイルス(DeformedWing Virus:DWV)」というRNAウイルスで、感染によりミツバチの羽が縮れることが名前の由来となっています。元々バロアダニは東洋ミツバチに寄生するダニとして知られていたのですが、1960 ~1980年代に西洋ミツバチへと宿主交代をしました。私の研究では、1980年代~2019年のバロアダニサンプルを世界各国から収集し、寄生していたウイルスの分布を解析することで宿主交代の歴史を紐解いていきます。西洋ミツバチは多種多様な花の蜜を集め、その過程で受粉を促すことから、研究成果は農業分野への応用が期待できます。


初めての論文発表

 2020年8月には、開発した二つの新たな研究手法についてまとめ、初めての学術論文を出版することが出来ました。一つはバロアダニからのDNAおよびRNAの抽出法。網羅的な解析では通常、DNAやRNAといった核酸が大量に必要となりますが、この方法を使えば、バロアダニ一個体から抽出した少量のDNAおよびRNAからウイルスの分布を解析でき、コストも抑えられます。もう一つはバロアダニを長期間保存できる新たな方法。生物学の実験ではしばしば、サンプルの保存にマイナス80度の液体窒素を使いますが、バロアダニを採取する屋外に液体窒素を持ちだすことは難しく、臨時に使用するドライアイスも持ち歩きには適しません。私は、エタノールにいくつかの溶液を混ぜることでこの問題を解決しました。

論文発表までのエピソード

 研究を本格的に始動してから、比較的短期間で成果を発表することができたのは、一つには、先輩や同僚など、近くで実験を行っている人の研究内容や手法に興味を持ったことだと思います。特にバロアダニの新たな保存法については、OISTのインターンシップ期間中に、実験を指導していただいていた研究員の方からヒントをいただきました。他のハチを研究されていましたが、その触角を保存するのに、なんとエタノール混合溶液を使われていたんです。苦労したのは、データを得てから論文にするまで。それまで講義レポートは作成したことがありましたが、必要不可欠な情報のみを使って成果を端的にまとめるのは難しかったです。また、DNA配列のデータ解析や統計処理など、それまで使ったことのない手法を使いこなせるようになるのにも時間がかかりました。

研究のこれから

 これまではミツバチに寄生するバロアダニのみが研究対象でしたが、今後は食虫植物に棲息するダニや、ハエなどの節足動物なども対象にしていきたい。食虫植物と節足動物のDNA配列を比較して、共生関係を築く生物種の遺伝学的特性を見出すのが目標です。OISTでは、自分の取り組みたい研究を提案し、指導教員の評価が得られれば承認されます。新たな研究分野に挑戦することに対して不安もありますが、同時に自身の研究遂行力をどこまで磨くことができるか、その限界にも挑戦していきたいと思います。

OIST入学の経緯とインターナショナルスクールで培ったスキル

 OISTを知ったのは、ゲルフ大学在学中のインターンシップで、指導いただいた研究員の方がOIST出身者だったからです。受験したのは、世界トップレベルの研究環境に加え、海に囲まれた沖縄という生活環境にも魅力を感じたこと。また、日本での生活や日本食が恋しくなっていたこともありました。  インターナショナルスクールでは英語力に加え、国際的な環境で勝ち抜くために必要なプレゼンテーションやディベートの能力を身につけることができました。日本の義務教育では、人前で自分を表現するためのプレゼンテーション力、他人の意見を認めつつ自分の考えを論理的に述べるためのディベート力を磨く授業はほとんどないと聞きますが、私の通ったスクールではそのような機会が多く、場数を踏む中で力がついていったと思います。いずれも研究を進める上でも必要不可欠。OISTの受験にも活かされました。

Better late than never 未来を広げる

 博士号取得後は、政策立案などに対して科学的な助言のできる専門家として活躍したいと考えています。先日、県の議員さんと話していて、その想いはさらに強くなりました。私のモットーは「Better late than never(遅くてもやらないよりは良い)」。これまで数回、大学生などを対象にした講演会に出席しましたが、そこでも必ず伝えています。私のような若者、特に学生は、失うものは何もないと思います。失敗を恐れず、チャンスがあれば挑戦する。たとえそのタイミングが周囲より少し遅かったとしても、「トライしよう!」と、思い立った時に行動に移すことが大切。それは必ず、自分の未来を広げることに繋がると信じています。

カナダ・ゲルフ大の奨学金事情

ゲルフ大学では、学生の学習継続を支援するために非常に手厚い奨学金制度が設けられています。2021年には、学業成績に基づき、4270万ドル以上の奨学金が学生に授与されました。課外活動の実績やリーダーシップ能力、ボランティア活動などでの功績が認められたりすると授与されることもあります。
詳細はこちら(https://www.uoguelph.ca/registrar/studentfinance/scholarships/index

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