探究・学問・進路のヒント

 

Sustainable First
支援するのではなく、目線を合わせてともに歩む
~タンザニアでの挑戦~

株式会社Darajapan 代表取締役 角田 弥央 さん 株式会社Darajapan 代表取締役 角田 弥央 さん
~Profile~
明治薬科大学薬学部卒業。人材系の企業に10ヶ月勤務後、2020年1月に退職し、エンドレス株式会社取締役に就任。株式会社Darajapanを立ち上げる。NPO法人Be&CoJapan代表理事、交水社株式会社取締役としても活躍。主な受賞歴は、30 UNDER 30 JAPAN 2021(世界を変える30歳未満の日本人30人)選出、Vision Hacker Awards2021大賞他。東京都立両国高等学校出身。

大リーグの大谷翔平さん、モデルのトラウデン直美さんらと並び、社会起業家としてForbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021に選ばれた薬剤師がいる。タンザニアで起業したDarajapanの角田弥央さんだ。「30 UNDER 30 JAPAN」は、次世代を担う新たなリーダーを発掘し、ビジネス、サイエンス、スポーツ、アートなど多様なジャンルで才能ある30人に光を当て、Forbes JAPANとしてその活躍を後押しすることを目的とした企画。言わば、世界を変える30歳未満の日本人30人である。株式会社Darajapanにかける想い、タンザニアでの事業展開の難しさと可能性、将来展望に加え、現地での私生活についてお聞きしました。高校生や大学生、未来の起業家に向けたメッセージもいただいています。



株式会社DarajapanとNPO法人 Be & Co Japanでタンザニアの貧困格差を解消したい

 様々なプロジェクトを展開していますが、主に衛生環境の改善、および雇用創出と人材育成に貢献する事業を進めています。

 一つは、ごみを原料としたバイオマスブリケット(いわゆる豆炭)、食料残差(=廃棄物)からのモノづくりで、生ごみを再利用して調理用燃料を製造・販売することに挑戦しています。タンザニアの農村部では、調理に薪や炭を使用します。その際に発生する煙が原因で健康被害を受ける人が多く、有害な煙を出さない新しい燃料を開発することで、衛生環境の改善と健康被害のリスク低減が期待されます。現在は水分量などを調整しており、製品開発の段階です。

 タンザニアで生活し始めてから新たに開始した事業もいくつかあります。例えばインターネットカフェ。ストリートボーイズと話をする中で、タンザニアにはその日暮らしの若者が多いことに気づきました。そこで、飲食店なら特別な資格や経験がなくても勤まりそうだということから始めました。今ではエンジニアやウェブデザイナーといったIT人材を養成するなど、国際協力を推し進めています。

 Darajapanに加え、最近はNPO法人Be& Co Japanを立ち上げ、クラウドファンディングなども行っています。事業としては、医療アクセスの改善を目的に、医療者・妊婦さんに命の足である自転車を届けています。日本の大学で廃棄予定の自転車をタンザニアへ輸送し、現地の医療施設や妊産婦に届けるだけでなく、自転車を修理・整備する自転車修理工となるための職業訓練や、社会の一員として活動するためのワークショップなどを行うとともに、自転車が交通手段として利用できるような仕組み作りに着手しています。

 二つの組織で展開する事業のオーナーや従業員は全てタンザニア人です。私が行うのはお金の管理や全体の工程管理。事業化に際して最も大切にしていることは、ひたすら彼らの目線でヒアリングを繰り返すことです。支援するのではなく、目線を合わせてともに歩む、ともに改善する意識を持って展開していくことで、自分が抜けた後もその事業は回っていくと信じています。日本人としての視点も大切にしつつ、日系企業と協力しながら今後もサステイナブルファーストで事業を進めていきます。


なぜタンザニアなのか?
インドネシアで目覚めた海外への想いからDarajapan創業に至るまで

 漠然と海外で働きたいと思ったのは大学一年次。もともと海外には全く興味がありませんでしたが、父親の友人を訪ねてインドネシアに渡航したのがきっかけでした。

 スラウェシ島というインドネシア中部にある島で現地の方々と交流する中で、様々なカルチャーショックを受けたことを今でも鮮明に覚えています。彼らは掘っ建て小屋に住み、その日暮らしであるにもかかわらず、生活は充実していて本当に楽しそうに見えました。一方私はというと、東京で何不自由なく勉学に取り組み恵まれている環境にあるにも関わらず、なぜか幸福感はありませんでした。

 世界をもっと見てみたい、海外で働きたいと、インドネシア訪問をきっかけに目覚めた私は、その後文部科学省が展開する『トビタテ留学ジャパン』奨学生に選ばれ、エジプトとイギリスへ薬学留学する機会を得ました。製薬会社でのインターンシップや大学での授業を通し、より現場に根差したところで働きたいという想いを募らせました。

 タンザニアとの関わりは、ABEイニシアティブ※を利用して来日した環境工学エンジニアであるタンザニア人に出会い、社会課題について意見交換する中で、タンザニア国営貿易会社でのインターンシップの機会を得たことに始まります。衛生環境市場を調査する中でビジネスの重要性を実感し、タンザニアの現場でのビジネス展開を目標に据えるようになりました。新卒で日系企業に就職はしましたが、タンザニアでの活動の基盤を整えた後、株式会社Darajapanを立ち上げました。

 ビジネスについては基本的には独学です。もちろんいくつかの会社の社長に直接教えを乞うたり、タンザニアでビジネスコンテストを運営している人に話を聞いたりはしましたが。

※African Business Education Initiative for Youth:2013年第5回アフリカ開発会議(TICAD V)にて安倍元首相が発表したプログラム。アフリカの産業人材育成と日本企業のアフリカビジネスをサポートする「水先案内人」の育成を目的として、アフリカの若者を日本に招き、日本の大学での修士号取得と日本企業などでのインターンシップの機会を提供する。


エネルギー問題や環境汚染、雇用不足などをビジネスの力で解決

 タンザニアでの事業展開で最も悩ましいのは、現地のビジネス環境が整っていないこと。仕事のうち9割以上は大変なことの連続です。金銭が絡む不正も多く、トラブルが起きた際、誰を頼っていいのか分かりません。日本では、社会人に必要なスキルは教育機関である程度身につけられますし、働き始めてからも社内研修などがあります。タンザニア人のほとんどは仕事に重きを置かず、その姿勢もしっかりしていません。タスクを詳細に伝えて、相手が100%理解していることを確認してから仕事をしてもらわないと、何日経っても何も進んでいないことがあります。宗教観が強い国でもあるため、仕事を進める努力を神に委ねてしまう人もいます(笑)。異文化を理解し、相手にあわせて進めることが本当に重要であることを日々学んでいます。

 課題が山積みのタンザニアですが、可能性は無限大だと思っています。何よりも人口増加は経済発展を予感させます。自ら学習する若者も見受けられるようになりました。停電で勉強できない、インターネットがないので調べることができない。こんな悪条件に置かれた彼らに、なんとか教育や訓練の機会を提供していきたい。ビジネスで収入を得られるようになれば、彼らはさらに機会を得られ、秘めた力を発揮できるはずです。彼らの多くは自分の周りの大切な人達、特に家族のために努力するので、家計を支えるためには強いハングリー精神を発揮して、様々な仕事をこなしてくれると思います。

 ところで、私が社会課題を解決するための事業を、非政府組織(Non-Governmental Organization: NGO)でなくビジネスで展開しているのは、経済循環を促し、サスティナブルな活動をしていくことを重視しているからです。私はこれまで、様々な国で、ODA(OfficialDevelopment Assistance:政府開発援助)やNGOの活動を見てきましたが、それらの多くは、大きな経費を投入した一定期間は組織をあげて開発を進めますが、資金がなくなると急に活動が止まります。このような活動には、光と影があり、持続性という観点からは疑問に思うことが多くありました。さらに言えば、経済循環を促せなければ継続性がないため、長い目で見ると彼らのためにはならないことが多いのです。

私が目指す未来とは

 10年後、立ち上げた事業が私の力なしで回っていれば理想的ですね。ただ、始めたばかりということもあって、あまり遠い先のことは考えられないのも事実です。そもそも、私を動かしてきた原動力は強い危機感です。

 人口が増加し続ける中で、この国はこのままで大丈夫か。社会の仕組みも、生産をはじめとする技術も、全人口を支えるのには全く追いついていません。このままでは貧困層は益々増えていってしまう。だから、積みあがる課題を解決する新たな事業が必要なのでは?―そんな想いから日々考えながら動き続けています。 数年後には、これまでに立ち上げた公衆衛生や雇用機会創出のための事業はできる限り現地スタッフに任せ、私は新たに浮き彫りになる課題に奔走できるような体制を整えたい。加えて、現地スタッフが新たな事業を始めたいと希望した際のサポート体制も充実させる必要があります。現地の若者には爆発力があります。最新のIT技術を使いこなせる層も厚くなっています。若い世代が新たなイノベーションを生み、それを見て、アントレプレナーシップを持った若者が次々に輩出される、そんな好循環の起爆剤になるような事業を、これからも立ち上げ続けていきたいと思っています。

高校生・大学生へのメッセージ


信念を貫く。信念とは、正しいと信じる自分の考えを信じる気持ち・信仰心のことを指しますが、私は常日頃から自分の軸をしっかり持って、周りに流されずに生きていくことを大切にしています。自分を信じて、時にはストイックに、定めたゴールに向かって突っ走る。手段は問いません。少し遠回りしても構わない。自分が情熱を注げるものを見つけ、それをひたすら追い続ける人はカッコいいですし、自分自身への責任も芽生えるから、幸福度も高くなると考えています。

問題の原因を自分の中に見つける。実は私は、幼いころから行動力があったわけではありません。何となく興味の向く方向は分かっていたものの、情熱を注ぐことのできることは何かと、常に模索していて、ずっとモヤモヤしていました。転機は大学時代、インドネシア、エジプト、イギリスなどを訪れ、その時の経験(=見て、聞いて、感じて、考えて)を経てはじめて、深く自分と向き合い、進むべき方向を決められるようになりました。高校生、あるいは大学生になっても、将来の目的がよく分からない、決められないという人もいるかもしれません。それはそれで仕方のないこと。大事なのは何事においても問題の原因を他人や周囲の環境のせいにしないことです。何事も自分事として捉え、その解決に向けていかに考え抜き、行動できるか、そこに人間としての価値があると思っています。

アフリカ諸国を訪問する。「アフリカに来たら人生観が変わる!」とよく言われますが、本当にそのとおりだと思うので機会を見つけて是非訪れてください。「アフリカ=貧困」、「支援が必要」というイメージがあるかもしれませんが国によってまちまち。学べることは測り知れないほどあります。ハングリー精神はその一つ。日本ではよく、「ゼロからのスタートだったので非常に苦労が多かった」などと表現されますが、アフリカ諸国の人々は奴隷貿易といった歴史的な背景を見てもわかるように、人として経済的・社会的・精神的に最低限の生活を送れるスタート地点に立つためには、マイナス50、マイナス100時点から這い上がらないといけません。皆もがいてもがいて、さらにもがいて生きています。そのため、機会があればそれをものにしようというモチベーションは非常に強く、実際に機会を得た時の爆発力たるやもの凄いものがあります。もう一つは宗教観を感じられること。主な宗教はイスラム教(約40%)、キリスト教(約40%)、土着宗教(約20%)。私は私生活からイスラム教を肌身に感じることが多いですが、日本ではあまり感じることのできない宗教というものに触れてみることで、人として大切にすべきモノ・考え方とは何かについて考え直すことができます。

タンザニアでの暮らし

 2021年2月にタンザニアに来ました。当初は日本と行き来する予定でしたが、現地でのビジネスや私の考え方を理解してくれる男性と出会い、結婚に至りました。現在は、子供も生まれ家族同士助け合いながら暮らしています。宗教柄、お付き合いの関係でいるよりも結婚が好まれること、タンザニアのカリブ文化(「近くで一緒にいること」が喜ばしいことであり、近しい関係を持つ価値観を大切にするから家族の猛プッシュがあったことなど、様々な環境が相まって出会って直ぐ結婚する運びになりました。結婚式ではアラビア語で様々な儀式が行われます。中でも思い出に残っているのが、結婚式直前1週間の準備です。イスラム教では新婦が他の人の目に入らないよう神聖な存在として扱われることから夫にも会えず、部屋に引きこもって生活します。実に1週間ぶりとなる式当日で夫と初めて顔を合わせ、一緒に暮らすことが許されます。

 これまで女性としての自分を意識したことはほとんどありませんでしたが、イスラム教徒になったこと、結婚前後、そして出産といった一連のイベントを通じて女性を意識するようになりました。日常生活では、ヒジャブ(アラビア語で「覆うもの」の意)を巻いて頭を覆っています。タンザニアを含め、アフリカ諸国は人口が増加傾向にありますが、これは性教育が不十分であるということよりも、誰もが子供や家族を大切にすることによるのだと、彼らと一緒に生活しながら感じています。子育ても皆(=コミュニティ)で支える意識が浸透しており、小中学生でさえ赤ちゃんの世話が上手で、子育て環境は充実しています。当然、夫婦共働きも十分機能していて、子育て環境という観点では、少子化に悩む日本の学べることは多いと思います。

角田さんが見るタンザニア


~地理・産業~

 タンザニア連合共和国、通称タンザニアは東アフリカに位置する共和制国家。サブサハラ地域の国の中では比較的経済発展しており、都市部では貿易が盛ん。観光業も主要な産業で、タンザニア国立公園サファリツアーやザンジバル諸島のリゾートは有数の観光地としてよく知られている。一方、都市部を離れると農村部では貧困層が多く、アフリカ諸国の中では貧富の差が大きな国とも。国民の約8割は農業に従事しているが、多くは小規模農家だ。  

「大好きなタンザニア産コーヒーは爽やかな酸味と程よいコクが特徴的」と語る角田さん。ビジネスについては、「ビジネスマインドを持った人は全体的に少ない印象。元々社会主義を掲げていた国だったので、皆、平等に!というマインドセットが根付いているのでは」、また「健康に対する意識は低い」と角田さん。

~地理・産業~

 イスラム教の主要なイベントであるイード・アル=フィトルは、ラマダーンの終了を祝う大祭。ラマダーンは、イスラム暦第9月の約1か月、日の出から日没までの間で、断食の当日は、多くの人々が新調したばかりの衣装を着て街に繰り出したりもする。一方、イード・アル=アドハーは犠牲祭とも呼ばれ、イスラム暦第12月10日から4日間にわたって行われ、羊や牛を家族や友人、そして貧しい人々に捧げる。

「これらのお祭りごとに参加すると強い一体感を感じる。結婚後はそれ以前に比べ、親族や友人などとの仲間意識も格段に高まった」「すべてのものの中に神が宿ると言われているが、これは見えないものを信じる日本人の考え方とどこか通じる」と角田さん。

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