PBL授業「ひらめきづくり(1)」
東京都市大学の新機能カリキュラムについて紹介する。2021年度から理工学部の機械工学科・機械システム工学科・電気電子通信工学科で導入され、現在、計380名から選抜された117名が3学科を横断した探求型のプログラムに取り組んでいる(次年度からは理工学部全7学科のプログラムに拡大予定)。このプログラムは、従来型の、専門科目に主軸を置いた124単位カリキュラムに対して、多彩なPBL(ProblemBased Learning)科目を中心に配置し、専門科目についても複数の学科を横断して選択していく新しい124単位カリキュラムである(詳細は大学ジャーナルVol.143参照)。ここでは、このプログラムにおいて特に独自性の高い科目「ひらめきづくり(1) ~ (5)」「ことづくり(1) ~ (5)」「ひとづくり(1) ~ (5)」のうち、このプログラムのマインドの基本となる「ひらめきづくり(1)」について紹介する。
授業概要を上に紹介したが、その名の通り、「ひらめきづくり(1)」は新しいアイデアを創発することを目的に、最終的なプレゼンテーションでは新しい事業計画を「企画シート」にして、①ターゲット②コンセプト③問い④ひらめき⑤技術というストーリーでまとめていく【右上図】。単なるアイデアの発表ではなく、大学におけるアカデミックな授業として展開していくため、探究の基本理論とともに計測や分析手法を学び、加えて現在の社会的課題やGAFAM(世界的に影響力を持つGoogle、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftの頭文字を取った呼び名)の躍進事例なども理解した上で、グループワークを進める。授業を担うのは、理工学部長でプロジェクト・リーダーの岩尾徹教授と、産業界から招聘した講師陣【下一覧参照】。ものづくりに必要なアイデアの創出やベンチャー育成、SDGsに関連する企業活動などについてのスペシャリストで、授業外の個別面談では学生一人ひとりの潜在能力を引き出そうと、きめ細かな教育に力を入れる。受講生からは、自由にアイデアの出し合える授業を歓迎する声に加えて、「ディスカッションのやり方やひらめきを生むのに基礎となる知識、アイデアを出すためのメソッドをたくさん学べて有意義だった」「社会の評価軸に触れられた」などの声も多く、科目の目標がしっかり実現されていることがうかがえる。
ここで構築されたマインドは、ものづくりの技術を支える理工系専門科目の選択においてだけでなく、後に展開される「ことづくり」「ひとづくり」の授業で、エネルギー問題、ポストコロナにおける産業界のDX、ゲームチェンジなど、近未来の予測を加えながら、より現実的な全体最適解を目指していくのにおおいに役立つはず。知的集約型社会を支える人材育成と、新しい大学教育のカリキュラムスタイルとして期待される新しいプログラムの姿が、いよいよ明らかになってきた。
杉浦正吾,SUGIURA,SHOGO博士(環境学)【特任教授】
大学院生時代に起業。以降、企業のソーシャル・コミュニケーション/SDGsブランディング/ESGコンサルティング、ESDプログラム開発などに従事。クライアントは、三井物産、東京電力、伊藤園、ミニストップ、大塚製薬、東京ガス、日建設計グループなど。地方創生視点で尾瀬国立公園の地域リブランディングを手掛ける。三井物産と開発のESD「サス学」は2016年日本環境共生学会活動賞、2020年「青少年の体験活動推進企業表彰」文部科学大臣賞受賞。三菱総研小宮山理事長とプラチナ社会形成における人材育成プロジェクト、プラチナマイスター、アカデミー運営にも従事。武蔵野大学客員教授。
株式会社プラチナマイスター代表取締役https://platinum-meister.com/
一般社団法人サステナビリティ・エンパワーメント代表理事https://sep-inc.co.jp/
岸和幸, KISHI,KAZUYUKI キシエンジニアリング(株)代表取締役
大学卒業後、IT企業でSEとして金融保険系のシステム設計・開発に従事。人間社会を支える生物多様性・生態系の大切さに気付き、2001年より(株)リコーの社会環境本部で、シニアスペシャリストとして生物多様性保全活動を推進。行政や NGOと協働した課題解決型活動は、国内外から高く評価され、生物多様性COP10では先進事例として紹介される。2012年独立後、「人と自然を調和しながら、持続的な未来を共創する」をテーマに、企業のサステナビリティ経営(コンサルティン グ、研修講師、レポート制作、ファシリテーション)を支援。得意分野は、歴史(高校3年共通模試・日本史全国5位)。環境省. 森林保全活動における民間企業とのパートナーシップ構築方策検討調査委員、JBIB(企業と生物多様性イニシアティブ)
R&D部会長、東北大学.生態適応コンソーシアム運営委員。共著「企業が取り組む「生物多様性」入門」。
瀬戸久美子,KUMIKO SETO コンテンツディレクター
大学在籍中に米国でジャーナリズムを学ぶ。卒業後は日経BP社に就職し、『日経ビジネス』記者や『日経WOMAN』『日経 TRENDY』副編集長などを歴任。柳井正氏やハワード・シュルツ氏など500人以上の経営者やリーダーをインタビューすると同時に、東日本大震災の現地報道にも携わる。日経WOMANでは2500人以上の働く女性たちのキャリアを追い、日経 TRENDYでは「ヒットを生むマーケティング」の観点から世の中の動きを分析。2019年に独立し、現在は国境を越えて「世界をよくする」に取り組むスタートアップやベンチャー企業を中心に取材を続けるほか、コンテンツディレクターやインタビュアー、ファシリテーターとして活動している。
日本外国特派員協会プロフェッショナル/ジャーナリスト・アソシエイト・Forbes JAPAN オフィシャル・コラムニスト