父が娘に語る経済の話

ヤニス・バルファキス著
関美和訳
ダイヤモンド社

雑賀恵子の書評

雑賀恵子

~Profile~
京都薬科大学を経て、京都大学文学部卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程修了。大阪産業大学他非常勤講師。著書に『空腹について』(青土社)、『エコ・ロゴス 存在と食について』(人文書院)、『快楽の効用』(ちくま新書)。大阪教育大学附属高等学校天王寺学舎出身。

 朝起きてから今までのあなたの行動を考えてみよう。朝食も、着るものも、本やノートも、通学の運賃も、授業も、みなお金を払って手に入れたものだ。自分の身の回りのモノも自分の行動も全てお金が介在している。お金がなければこの世の中、生きてはいけないといっていいくらいだ。それをどうやって手に入れるのだろう? 労働によって? では、労働賃金はどうやって決められるのだろうか。どうしてお金持ちと貧乏な人がいるのだろう。何も生産しないし、労働もしないで、投資とかデイトレとかなんとかで稼いている人は実際何をしているのだろう。貸し借りにおいて利子という形でお金は膨張したりするし、その利率は変動するのだけれども、どうしてどういう仕組みで動くのか。各国の貨幣の関係はどうなっているのか。仮想通貨ってわけわからない。だいたい、人々の間でも、国々の間でも、なんでこんなに怒りを覚えるほどの格差があるんだ? そもそも、お金ってなんだ?

 お金は道具や単なる媒介項ではなく、実体もない。にもかかわらず私たちの世界は、お金が示す価値に支配されており、お金に牛耳られている。貨幣を保証しているのは国家だけれども、その国家ですらお金を国家権力に従属させることはできず、逆に振り回される有様だ。

 本書は、お金がなぜ登場し、どうして世界を牛耳るまでに至ったかを、人類史という壮大なスケールをあっという間に駆け巡りながら、タイトル通り実にわかりやすく説いている。経済学者のバルファキスは、なぜこんな本を書いた(2013年)のか。

 バルファキスといえば、2015年債務危機に喘ぐギリシャに誕生した急進左派連合政権の財務相として登場し、理不尽で不毛な金融救済措置と緊縮政策を押し付けるユーロ圏の中枢すなわちドイツの金融当局に対し、敢然と立ち向かい大幅な債務帳消しを求めたことで有名だ。革ジャンを着こなし、オートバイを乗り回すハンサムなスキンヘッズとしても知られている。ギリシャが陥った危機は、実は日本の格差を生み出す仕組みと根本的には同じだ。そして現在、怪物と化した資本主義経済は地球資源を食い荒らし、激しい格差をうみ、その結果世界のあちこちで排外主義や極端な国家主義が台頭している。地球環境の悪化と第二次大戦前夜にも似た政治経済の混乱のツケを払わされるのは、あなたがた若い世代だ。もしあなたがこんな世界に対して怒っているとすれば、その怒りは正当なものである。

 持続可能な経済と公平な分配を本気で目指さないと、人類そのものの存続さえ危うくなる。そのためには、資本主義の本質を知らなければならない。本書は、若いあなたがたが自立した考えを持ち、未来を生き続けられる扉を開くために書かれた。そう、あなたの怒りを表す足場を確保するために。

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