オピニオン・連載

杜の都の西北から 第1回 新しくて古い? “新”学習指導要領 (学)東北文化学園大学評議員・大学事務局長、弊誌編集委員

小松 悌厚 さん

小松 悌厚さん
~Profile~
1989年東京学芸大修士課程修了、同年文部省入省、99年在韓日本大使館、02年文科省大臣官房専門官、初等中等教育局企画官、国立教育政策研究所センター長、総合教育政策局課長等を経て22年退官、この間京都大学総務部長、東京学芸大学参事役、北陸先端大学副学長・理事、国立青少年教育機構理事等を歴任、現在に至る。神奈川県立相模原高等学校出身。

 2021年度から、高大接続改革の一環である新たな大学入学共通テストが導入され、選抜方式は一般選抜、総合型選抜、推薦型選抜方式に移行した。入学者選抜、高等学校教育、大学教育を通じて一体的に学力形成が図られるようにするのがねらいだった。さらに、2025年度入試からは出題内容が大幅に変更される。大学入学共通テストでは、出題教科に「情報Ⅰ」が加わり、国語は、内容の拡充に伴い試験時間も延長されるという。地理歴史は、総合性を重視した科目と探究に係わる科目に再編成される。公民の現代社会の代わりに公共が設定される。数学は科目が再編され数学②の内容に数学Cが加わるとともに試験時間も延長となる。英語も新たな教科名に変更になる。

 共通テストをはじめとする2025年の大学入試内容の大幅な変更は、新しい高等学校学習指導要領の完全実施を踏まえたものだ。新しい学習指導要領では、内容を知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力と人間性等の三つの柱で再整理し、主体的対話的で深い学びを進め社会で生きる力や社会で活かす力を培うことを狙いとしており、大学入試においても改善の趣旨が反映されることとなる。

 大学関係者は、2025年度から新しい学習指導要領の下で学んだ学生の学修を円滑に進めるために、これまで入試の改善や円滑な高大接続に資する初年次教育、その他の教育課程の在り方等の検討を幅広く進めてきた。目前に迫った新しいカリキュラム編成に向けた詳細設計を慌ただしく準備を進めているのが実情であろう。

 しかしながら、新しい学習指導要領の制定に至る経緯も含めて振り返ってみると、2025年度入試で受け入れる高校生が学ぶ新しい高等学校学習指導要領が改訂されたのは2018年。その内実を検討した中央教育審議会の審議は2014年から2016年となる。「新しい」学習指導要領といってもそれほど新しくはないわけだ。

 学習指導要領は、昭和の時代から、およそ10年ごとに全面改訂というサイクルが定着している。10年もかかる背景には、文科省の検討着手から告示、解説書編纂・周知、教科書編集・出版・採択というチェーンで関連業務が進むからだ。幼稚園、小学校から学校段階ごとに実施時期が異なる上に、高等学校段階は学年進行となるので、完全実施に至るまでには相当の歳月を要することとなる。将来的には、時代の変化に対応できず教育内容が陳腐化することも危惧されかねない。教育DX等により改訂プロセスの効率化や、10年ごとにフルモデルチェンジすること以外のよい方法も見いだせるかもしれない。今後、学習指導要領の改訂プロセスの合理化に関する検討が行われることを望みたい。

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