はじめに
探究は、興味を持ち疑問をもって、その事象を客観的に解明したいと思う願望から始まりますが、それには科学的な方法、科学方法論が有効になります。これは簡単に言うと、観察・実験、分析・総合を繰り返しながら、何度も仮説―演繹―検証のサイクルを回す、そしてその際、数学論理を援用するとともに、議論という他者の思考との交差も活用しながら、思考を進化させる方法です。
次に研究資料を集める。仲間が集まればなおよいと思います。違った視点や思考が研究には重要だからです。後は、失敗を繰り返しながら、考察・結論へと進めていく。ただ何よりも大切なのは、「無知の知」からスタートし、真摯に課題に向き合う姿勢であることを忘れてはいけません。
今号のテーマ
核融合とは、軽い原子核同士が融合して、重い原子核になるという核反応を言いますが、宇宙や素粒子、それにエネルギー問題にも関わり、まだまだ研究課題の残るテーマだと言えます。
どこから取り組むかによって、研究の仕方は異なりますが、一般的には、エネルギー問題として取り上げられていますので、まずその視点からの取組について考えます。
初めに、研究データを列記しておきます。
①核融合は誰が最初に考えたのか
1939年、コーネル大学(米)のハンス・ベーテ博士が「星のエネルギー発生について」という論文を発表し、太陽を含む恒星が原子核の反応、つまり核融合をエネルギー源にしていることを世界で初めて明らかにしました。
②核分裂と核融合の違いについて
核分裂とは、原子核が分裂することですが、核融合とは水素のような軽い原子核がもう一つの水素原子核と融合して、より重い原子核になる核反応を言います。この反応で原子核の質量が少し減るためにその分がエネルギーとして放出されることになり、このエネルギーを生活に利用しようと考えているわけです。アインシュタインによる質量エネルギーの式:E = mc² を参考にするのもいいですし、水素には、原子核が陽子だけの軽水素と、陽子と中性子を1個含む重水素(D:デュートリウム)、中性子を2個含む三重水素(T:トリチウム)の仲間がいて、それらを効率よく利用することを考えてもいいと思います。
③核融合エネルギーの利点について
原子力発電の安全性が再び問われてきている今、「資源が海水中に豊富にある」「二酸化炭素を排出しない」といった特徴を持つ核融合エネルギーには、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決するという側面から期待が寄せられています。また、磁場閉じ込めによる核融合エネルギーの研究開発は、軍事用技術とは原理的に異なるという理由で、平和目的という国際協力が得られているようです。
④核融合発電の課題について
人工的に核融合反応を起こすには、水素気体を1億度以上の超高温プラズマにしなければなりません。問題はそのプラズマを確保する方法とその容器が問題になります。磁場でプラズマを閉じ込め容器との距離を保つトカマク型核融合炉が、現在実用化に向けて動き始めているようですが、まだまだ課題はあるようです。
また高温に連続して耐えられる安全性の高い炉壁の開発、それに核融合発電のための技術開発・研究にかかる膨大な費用や建設地の確保にも課題を残しています。
⓹発展的研究へ
核融合について探究すると、必ず原子核を構成する核子や核力のことについても考えなければならないでしょう。そこから、物質を構成する最小単位としての素粒子について、さらには粒子・波動の二重性について興味が広がれば、時空記述と状態記述を統合する量子論への扉を開くことになります。
また、太陽(恒星)のエネルギーは、水素原子核が核融合によってヘリウム原子核へと変化する過程で生まれ、それが熱や光の形で放出されています。他の恒星のエネルギー源も核融合反応と考えられており、宇宙の成り立ちや素粒子についてのさらなる研究にもつながるはずです。宇宙論におけるダークマターやダークエネルギーの研究も興味深いテーマです。
~Profile~
東京理科大学卒業後、京大理・研究生時代に岸和田高で非常勤講師、大阪府立佐野工業高、岸和田高、勝山高で教諭。 大阪府科学教育センター指導主事兼研究員(指導要領改訂等のため文部省に出向、原発関連で科学技術庁に出向)。 大阪府立藤井寺高、岬高で教頭。大阪府教育委員会事務局で首席指導主事、大阪府教育センターでカリキュラム研究室兼情報研究室の室長、大阪府立高石高校校長。この間、資質向上研究室長(指導力不足教員の指導計画作成)、第14回全国物理教育学会(於:大阪大学)実行委員長を務める。大阪府立高校退職後は、甲南大学理学部講師、私立高校校長など歴任。現在、国際留学生センター(ISES JAPAN)顧問、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団顧問。