~Profile~
京都薬科大学を経て、京都大学文学部卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程修了。大阪産業大学他非常勤講師。著書に『空腹について』(青土社)、『エコ・ロゴス 存在と食について』(人文書院)、『快楽の効用』(ちくま新書)。大阪教育大学附属高等学校天王寺学舎出身。
外出先で体の不調を感じ、夜這々の体で一人暮らしの部屋に帰宅するなりベッドに倒れ込み、そのまま気絶するように寝込んでしまったことがあった。どのくらい経ったか、高熱の苦しみでうっすらと目を開けると、そのころの飼い猫の綱吉が心配そうに顔を覗き込んでいた。綱吉は前脚でそっと私の頬に肉球を押し当て、そろそろと私の胸元あたりまで下がった。どうやらずっと添い寝してくれていたようである。その後、何回か、そろそろとまた近づいて、唇や頬に冷たく柔らかい肉球を押し当てては、傍に下がってじっとしていた。ようやくどうにか起き上がれるようになったのは翌日のお昼も回ってから。その間、ご飯をねだりもせず、声も出さずにぴったりと体をつけてずっと寄り添ってくれていたのである。後からわかったが、インフルエンザだった。
猫派とか犬派とかいうことなく、動物が好きだ。一緒に暮らすものとして動物を尊重し愛した経験のある人ならおそらく、かれらが(たとえ人間にはわからないことがあるにしても)豊かな情動を持っていることを「知って」いるだろう。ある場合は、言語を持たないからこそ、人間の力を超えたなにかでわたしたちとより深く交感できることも「知って」いる。だから読む者は、この本に書かれていることには、まったくもって然り!と手を叩くはずだし、実践されていることがもっともっと日本でも広まってほしいと願うに違いない。
困難を抱えたり、生きることにつまずいた人々が動物とともにいることによって、自分の力が引き出されたり、よりよく生きられる方向に歩みを変えられることがある。さまざまな分野でそのようなことをサポートするプロジェクトや施設の現場を米国と日本でルポしたのが本書である。本書にも紹介されている盲導犬や介助犬、病棟や高齢者施設などで活躍する動物たちは、わりとよく知られているだろう。だが、それだけではないのだ。問題を抱えた子どもたち、劣悪な環境や虐待によって心に深く傷を受けて人との関わりができない子どもたちを、自然豊かな農場のような施設に受け入れ、プログラムされたサポートのもとで動物たちと交流することで回復を促し、自立を支援する米国の諸団体の取り組み。盲導犬や介助犬育成を受刑者が担うことにより、自分と向き合い、社会と自分のつながりを見つめることで、その生き直しを助ける刑務所のプロジェクト。そのほか、教育現場や司法の分野などで取り組まれている動物たちと人の関わりが描かれる。
こうした取り組みは、人間のために動物たちの力を「利用」しているというものではない。人間による虐待や遺棄で心身に深い傷を負った動物たちを保護する団体が関わって、保護された動物が参加しているものも多い。そうでない場合でも、働く動物たちへの配慮は十分になされている。つまり、生きるものたちへの尊重が基本にあって、相互関係の中で生きる力を引き出すものともいえるのだ。いくつもの具体的な事例に驚きと感動がある。
動物の力。人間もその動物界の一員だ。それをあらためて考えよう。