オピニオン・連載

16歳からの大学論 第41回

高校生と研究ポスターを作っていて気づいたこと

京都大学 学際融合教育研究推進センター 准教授京都大学 学際融合教育研究推進センター 准教授 宮野 公樹先生

~Profile~
1973年石川県生まれ。2010 ~14年に文部科学省研究振興局学術調査官も兼任。2011~2014年総長学事補佐。専門は学問論、大学論、政策科学。南部陽一郎研究奨励賞、日本金属学会論文賞他。著書に「研究を深める5つの問い」(講談社)など。

 今年も「日経STEAM」(日経新聞主催)というイベントのアドバイザーをすることとなり、7月末の研究ポスター発表大会に向けて、今、全国で15校の高校生グループたちと意見交換をしております。今回、その過程で気づいたこと、特に、研究テーマ設定段階で気をつけてほしいことがあるので、記載してみます。
 もちろん、限られた人数で限られた回数の打ち合わせしかできていませんので、下記の考えを一般化するつもりはありません。筆者自身が体験した感想としてお読みください。

◯もっと手を使って考えて!

  研究テーマを複数人で考える際、「あれって大事だよね」「あれはどうなんだろう・・・」とあれこれ話すのはいいのですが、各自がその時々に感じたこと、感情や思いつきに留まっている感じがあります。もっと厳しくいうなら研究テーマが「妄想どまり」なんです。研究者がテーマを考えるときは、調査や実験、あるいは自身の体験など、膨大な経験をもとにします。それを高校生に求めるのは酷なことですが、せめてGoogle等検索サイトで調べながらブレストをしてはどうでしょうか。みなさんが考えているテーマと似たようなものを探し比較することで、みなさん自身の切り口、視点を浮かび上がらせるのです。ホワイトボードなどに書き込みながら話すことも有効です。そうしないと、話が堂々巡りになりがち。僕に送ってくる質問メールの文章を読めばすぐにわかりますよ、これ、ちゃんと考えてないな、思いつきのレベルだなって。しっかりと議論を可視化すれば、「これは本当かな?」「他にも重要な要素ないかな・・・」など色々気づきがでてくるはずです。

◯「褒められること」より「心からやりたいと」を!

 確かに社会は課題だらけ・・・
解決しないといけないことは多いですが、それに取り組むのは「課題解決」であって、本来の「探究」ではありません。探究学習においては、何かを解決することがマストではないのですよ。自分たちの好きを追い求めればいいのです。テーマを考えるときには、まず「問題」から入らないで「関心」から入ってください。みなさんが、気になって仕方ないこと、大好きで仕方ないこと、それらに強い関心があるからこそ気づく「不思議」について深堀りすることが探究なのです。
 もちろん課題解決は大事なこと。みなさんが、それに注力することはとても大切なのですが、以下のポイントにおいて難しい側面もあるのです。

◯テーマの設定の範囲をバグらせないで!

 例えば、シャッター街となった商店街を何とかするといったテーマ。これは、はっきり言ってしまえば、市役所等行政やその地域の住民の方々の仕事(役目)です。それをみなさんが課題にする理由はどこにあるのでしょうか。もちろん、しっかり現状を調査し、その上で行政のやり方に欠点があり、生活者目線からいうともっとこういうことが大事だと思う!という切り口であればよいのですが、単に「・・・が問題。そこでわたし
たちは・・・を提案します」というのでは、テーマ設定としてはあまりに素朴です。研究テーマの設定にあたっては、自分たちができること、自分たちがやる意味を踏まえないと、結果は絵に描いた餅になってしまいます。他にも、「海洋のマイクロプラスチック問題について、私達は・・・という研究をします」といったあまりにも広大なテーマも違和感があります。それは、全世界の行政、または企業が何十億もかけて実施していることであり、高校生のみなさんが太刀打ちできることではないように思います。繰り返しますが、徹底的に調べて「いや、やはりこのやり方は根本的に間違ってる!私達はその一点について、こうやったら良いと思う!その具体案を提案する」というのはアリですよ。しかしそうではなく、ただ重要な課題だからといって自分たちができないこと、責任もとれないことをあれこれ考えても、それは机上の空論になりがちですし、なによりみなさん自身もその研究テーマに熱が入りにくいのではないでしょうか。
 以上、探究学習に関係した研究ポスターのテーマ設定について思ったことを述べました。探究については、今年3月に現代思想(2024Vol.52-5 p.108−115)に論考を掲載したので、もしよければお読みください。(続く)

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