オピニオン・連載

高等学校「探究」の現場から その4

高校の探究活動における「高大連携」指導

秋田県立秋田高校 教諭 博士( 生命科学) 遠藤 金吾さん

現在、様々な形で「高大連携事業」が盛んに行われています。
今回は「探究活動」に関する高大連携について、
筆者の勤務校の「生物部」と「東北大学」との連携事例を紹介します。

1 東北大学「科学者の卵養成講座」

 小・中学生、高校生を対象にした講座ですが、高校生向けの事業には「基礎コース」と「発展コース」、「研究推進コース」があります。「基礎コース」では、東北大学の様々な学部の先生たちが高校生に向けて、それぞれの専門分野の講義を行い、それを受けた高校生はレポートを作成。優秀なレポート作成者は発展コースへと進み、東北大学で希望する分野の研究室に通って研究できます。「基礎コース→発展コース」への申し込みは「自己推薦」によって個々で申し込み、高校は関与しません。
 一方、「研究推進コース」は、高校の科学系部活動や理数科のような学科の授業内で実施している「理数探究」などの探究活動を東北大学が支援するというものです。高校生は「基礎コース」同様、講義を受けレポートを提出するなどしますが、「発展コース」の選抜対象にはなりません。申し込みも、「その探究活動を実施するグループ」単位で、学校側の推薦を得て指導教員が付くところも「基礎コース→発展コース」とは違います。また採択されたグループには、探究活動の指導役として、大学院生が「メンター」として
付きます。

2 メンターの役割 ~週報告~

 本校では生物部の研究グループが、この「研究推進コース」に採択されていて、日々学校で行っている研究の進捗状況を、毎週末、メンターに報告しています(週報告)。ただ、東北大学とは地理的に離れているため、報告にはメールやチャットツール、時にはオンライン会議ツールを使います。メンターからは、「こういう条件にしてみては?」「このような可能性はないだろうか?」などのアドバイスが送られてきますが、研究の最前線にいる大学院生からの定期的なメッセージは、高校生にとって何よりの励みになりますし、それがきっかけで研究に新たな方向性が拓かれることもあります。
 ただ、このコースはあくまでも「高校における探究活動」のサポートとして位置づけられているため、探究の過程で「これは大学の最先端の機器を使えば簡単に解決できるのでは?」という状況が生まれても、安易に大学の設備は使わないというのが東北大学の方針です。極力、高校生や大学院生には「若い頭脳」を駆使し、「創意工夫」をこらして代替案を考えてほしい。研究成果が出るに越したことはありませんが、このような過程を通じて彼らの思考力を磨くなど、人材育成を第一に考えたいからとのことです。

どんな週報告?

 以下に高校生が書いた週報告文の一例を紹介します。

今週は薬剤Aと薬剤B処理と薬剤X濃度検討を行いました。 ①薬剤Aと薬剤B処理 薬剤Aを培養前に添加した場合では、薬剤A、薬剤B単独実験区よりも、薬剤A×薬剤Bの実験区の方が、生存率が下がりました。 薬剤Bを加えた後に薬剤Aを添加した場合でも、薬剤Bの効果があまり見られませんでした。 ②薬剤X濃度検討 ほとんどの実験区の生存率が10%以下でした。そのため、実験中にミスをした可能性が高いと思います。

あらかじめ断っておきますが、この報告文は「今週は実験しました。来週も実験したいと思います」で終わっておらず、具体的で相当良いと思います。しかし、せっかくの成長の機会ですので、より良い報告文にするための改善点として、メンターと私は以下を提案しました。
・この条件の実験を何の目的で行っているのかを述べておらず、毎日見ているわけではない相手には伝わらない。
・薬剤の濃度はどうなっているのか、どんな実験区を設けていて、サンプル数はいくつか、など条件を伝えきれていない。
・①に関して、単に「生存率が下がりました」「効果があまり見られませんでした」としか言っておらず、具体的な数値を述べていない。
・①に関して、結果は述べているものの、その結果からどのようなことが考えられるのか(考察)を述べていない。
・②に関して、生存率が10%だとなぜ実験のミスだと言えるのか、その根拠が不明確で、本当にミスと決めつけて良いのか相手からはわからない。
・今回の結果を踏まえて、次回はどのような目的で、何をしようと考えているのかを述べていない。
といった具合です。
 このようなやり取りによって高校生たちは「相手に伝えるための文章作成術」を向上させていきます。そして、具体的な週報告を送ることで、メンターとのディスカッションは活性化され、より的確なアドバイスが得られる可能性が高くなります。また、週報告を行うためには、その前にデータをまとめ、グループ内や指導教員とのディスカッションが必要になります。「データをまとめずに無為に同じことをくり返してしまう」、「指導教員とのディスカッションがないまま、気づいたときにはあらぬ方向に研究が進んでいる」などは、高校生の研究あるあるですが、週報告があることでこのような事態を未然に防ぎ、研究をスムーズに進めることができます。

3 探究活動におけるメンターの役割~発表準備~

 近年、各種学会では「ジュニア部門」として、中高生による発表の場が設けられていることがあります。また、学会以外でも高校生の発表会は数多く実施されています。本校生物部も、研究成果をそれらの場で発表することを目標に日々活動していますが、「研究推進コース」はそのための支援も行ってくれます。
 具体的には、成果発表に必要な「論文作成」「要旨作成」「ポスターorスライド作成」「発表練習」の支援です。高校生は作成した論文、要旨、ポスター、スライドなどを、メンターにメールやチャットで送り、添削を依頼します。発表練習に関しては、オンライン会議ツールで見てもらったり、練習風景の録画を送って感想を求めたりします。いずれの場合もメンターは、「このような表現の方が伝わりやすいのでは?」「このグラフはこのようなデザインの方が見やすいのでは?」といったように助言してくれます。大学院生であるメンターは、学部の卒業論文を書いた経験から、論文の構成や科学用語の使い方を一通り身に付けています。その彼らから「真っ赤」に添削して返却された原稿を修正していく中で、高校生も少しずつ成長していくというわけです。
 加えてこのコースでは、申請すれば旅費も支給されます(支給条件はありますが)。大都市部では実感しにくいかもしれませんが、これは地方の高校生にとってはとてもありがたい制度です。地方はどこに移動するにも長時間かかり、交通費も嵩みます。近隣の県に移動するのに万単位の金額がかかることもざらで、宿泊費が必要となることも少なくないからです。

4 高大連携を行う上での高校教員の心得・高大連携の効果

 では、筆者のような指導教員の役割とは何でしょうか?高校の探究活動と大学連携で最も重要なのは、「高校教員が大学に任せっきりにせず、一緒に取り組むこと」だと思っています。本来指導すべき高校教員が何もしなかったら、メンターも良く思わないでしょうし、日頃からコミュニケーションを取って相互理解をしていないと、いつの間にか「進むべき方向の認識に食い違いが生じていた」ということにもなりかねません。しかしながら、博士号保有者である筆者が最初からコメントや添削をしてしまうとそれが全てになってしまい、メンターが意見を言う余地がなくなってしまいます。そこでまずは、メンターがコメントや添削を行い、その後に筆者が確認し、コメントや添削をするようにしています。
 筆者はこの高大連携事業は、高校の探究活動をアップグレードさせることを通して、高校生が様々な能力を磨き、成長するとともに、大学院生であるメンターが高校生に教えることにより、自らの研究能力を向上させる場になっていると考えています。高校生は、最先端の研究に従事している大学院生というロールモデルを間近に見て刺激を受けますし、大学院生は、限られた時間・設備でも懸命に探究活動に取り組む高校生から刺激を受け、「負けていられない」と自らの研究課題に取り組む意欲を高める。まさに双方に「意識面で相乗効果」が生み出されているのではないかと感じています。なお、メンターには指導時間に応じて、東北大学の規定に従って給与が支払われていますから、生活支援という面でもありがたいと思います。

5 最後に

 東北大学「科学者の卵養成講座」は国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)による「次世代科学技術チャレンジプログラム」および一般財団法人・三菱みらい育成財団の支援を受け実施されています。国家や大学の予算には限りがありますが、未来の科学技術や社会を担う有為な人材を育成するために、ぜひともこのような事業が継続・拡大し、探究活動における高大連携がさらに活性化していくことを切に願います。

先生 ~Profile~

東北大学農学部卒業。東北大学大学院生命科学研究科博士課程前期・後期修了 博士(生命科学)取得。東北大学加齢医学研究所科学技術振興研究員を経て、2008年より、秋田県の博士号教員。2016年より、現任校(秋田県立秋田高等学校)に勤務。専門は「DNA修復と突然変異生成機構」。埼玉県立川越高等学校出身。

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