教育ジャーナリスト 小林 哲夫さん
地方出身、浪人減少で大学の多様性ははかられるか
2017年11月、早稲田大はダイバーシティ宣言を発表した。こんなフレーズがある。
「本学には、なお多くの課題があります。新たな Vision を実現するためには、性別、障がい、性的指向・性自認、国籍、エスニシティ、信条、年齢などにかかわらず、本学の構成員の誰もが、尊厳と多様な価値観や生き方を尊重され、各自の個性と能力を十分に発揮できる環境が必要です」
7年経った現在、どうだろうか。「女性」「国籍」については、女子学生と女性教員、海外からの外国人留学生と外国人教員は順調に増えている。 グローバル化は進んだが、国内、地域別出身者はどうだろうか。早稲田大は全国から多くの学生が集まると言われているが、昨今はそうでもない。
一般入試合格者において関東1都6県出身(出身高校所在地)の割合について、10年間の推移を見てみよう。76.9%(2015年)→77.5%(16年)→76.2%(17年)→76.9%(18年)→76.9%(19年)→76.5%(2020年)→79.9%(21年)→79.2%(22年)→78.6%(23年)→79.1%(24年)
関東の高校生が8割に迫る勢いだ。
2021年はコロナ禍中の入試で、遠隔地に住む高校生が東京への移動を控えたことで地方出身者がかなり減少したと思われる。残念ながら、コロナ禍明けでも地方出身者が戻ってきたとは言い難い。経済的な理由は大きいが、東京に出なくても家から通える大学に通いたい、と望む高校生が増えたようだ。早稲田大というブランド力が今やたいして発揮されていないともいえる。
2024年、早稲田大一般入試合格者のうち関東以外の上位校は、東海高校80人(40位)、旭丘高校68人(52位)、西大和学園高校65人(55位)だった。なお、1984年の関東以外上位校は広島学院高校84人(15位)、浜松北高校71人(20位)、灘高校70人(24位)となっている。地方の高校は奮わない。
地元志向の高まりというより、都心回避といえなくもない。
「年齢」はどうだろうか。一般入試合格者における浪人の割合について、振り返ってみた。 32.0%(2015年)→31.1%(16年)→30.9%(17年)→32.4%(18年)→34.3%(19年)→31.7%(2020年)→27.0%(21年)→24.6%(22年)→24.5%(23年)→22.7%(24年)
10年間で浪人が10ポイントも減っている。少子化にともない浪人の母数が減ったことによる。かつては「何が何でも早稲田に入りたい」という層が一定数いて浪人したが、いまではそこまで強いこだわりをもつ受験生はいなくなり、現役で合格した大学に進むというケースが増えたからだろう。
また、中高一貫校の受験指導が徹底されたことも大きい。 2024年の早稲田大一般入試現役合格者の上位は聖光学院高校161人、渋谷教育学園幕張高校155人となっている(附属、系列校を除く)。
早稲田大はここ数年、学校推薦型選抜、総合型選抜の受け入れ枠を広げてきた。こうした非一般入試が増えることで、現役での合格者、入学者はますます多くなるだろう。早稲田大のキャンパスには9割が20歳前後の学生であふれることになり、年齢の多様化とは逆方向に進んでしまう。
地方出身者に避けられ関東出身が増加、現役増加で学生の年齢が20歳前後に集中―――は学生の均質化を促し、キャンパスの知的な活性化は望めないのではないか。早稲田大は危機感を持っていい。
どうしたらいいか。
地方出身者には特別な奨学金、学生寮(食事付き)を完備する。地方枠を設ける、などを考えてもいい。さまざまな経験を持つ高年齢層を受け入れるためには、学校推薦型選抜、総合型選抜の門戸を広く開放すべきだろう。いずれにも現役に限定(「○○年卒業見込み」という資格)されていない選抜方法があり、既卒者も受けられる。ただ、前年卒つまり1浪までという制限がある。これらを取り払って、すこし年を重ねているがおもしろい人材をたくさん受け入れていい。
もちろん、これらは早稲田大だけの話ではない。
おもな私立大学での入学者総数における現役比率(2023年)をみると、専修大89.9%、東海大87.3%、日本大86.8%、法政大86.1%、立教大89.2%、南山大94.4%、立命館大88.1%、関西大91.2%、近畿大89.0%、関西学院大89.9%、福岡大90.9%となっている。
これらは附属校、系列校、提携校から推薦で現役入学した者が多いからだろう。少子化対策として、定員割れに悩む学校の附属校化、系列校化、そして提携校を多く作ることは募集戦略として間違っていない。成績優秀な学生をしっかり確保できるからだ。 だが、中学高校と同じ環境で育った者が多く集まって均質な集団が形成されないか。ますます多様性からかけ離れないか。心配である。