(株)steAm 代表取締役社長
(株)STEAM Sports Laboratory 取締役
ジャズピアニスト・数学研究者・STEAM教育者・メディアアーティスト
中島 さち子 氏
20世紀終わりから台頭したインターネットは、劇的に世界のあり方を変えました。誰もが簡単にさまざまな知にアクセスできるだけでなく、自ら(出版社やテレビなどを通さずとも)世界に発信でき、表現でき、つながり、創造・共創できる。21世紀には、YouTubeやSNSなども誕生しました。一方向から双方向への時代へ…これは学びのあり方・働き方、そして人々の生き方・文化を大きく揺るがせています。
私は、21世紀は《創造性の民主化時代》と考えます。 AI時代とは、一人ひとりがより多様な創造性を発揮できる/すべき時代。ただ、社会構造や文化はまだその時代の流れ・ニーズに追いついていません。そのため、世界では、21世紀初頭からSTEM教育を推進し、何よりも「一方向・知識暗記型の、正解が一つの学び」からの脱却、「探究的な、オープンエンドな(答えが無数の,多様に開いた)問いを扱う学び/実社会や日常の課題を扱うプロジェクト型の学び」への移行を目指してさまざまな試行錯誤が国単位で行われてきました。
STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Mathematics(数学)の頭文字をとった造語ですが、その背後にある思想はいわゆる「理数教育」とは異なります。「科学や数学を学ぶ」だけでなく、「科学者や数学者、コンピュータ科学者のように考え、エンジニアのように創る」、つまり根底には、探究や試行錯誤、発見や創造の喜びの体験をいかに伝えるかを模索しようという考えがあります。日常の中で、さまざまな疑問や好奇心を持ち、時に仮説をたてて実験・創造し、試行錯誤する――、その過程にこそ学び・探究のおもしろさがあると。
近年はここにArt(芸術・デザイン)またはLiberal Arts(リベラルアーツ、日本では一般的に教養教育と訳される)のAを加えたSTEAMという言葉も世界的に浸透しています。アートの本質とは「自ら世界を見る新しい視点・問いを生み出すこと」。つまり、21世紀を生きる学習者は、「自ら問いや視点を生み出し」かつ「その解決法や発想を自ら形にしようと模索する」ことが求められます。その結果、学びはオープンエンドな問いを扱う探究となるのです。
もちろん「知」も大切です。何かを知ると、それに基づいて創ることが啓発され、創ろうとする中でさまざまな専門知に立ち返る必要がでてくる。つまり「創る」と「知る」との循環が生まれる。中核にあるのは各自の「ワクワク」。つまり、
自分の興味・関心から発したさまざまな学びの中で、何かを生み出そうとする原動力となり、人はその過程でさまざまな知に出会う。もちろん、これまでに先生方や学校が模索してきたことは決して無駄にはならない。ただ、学び方やガイドの仕方、環境の作り方が少しずつ変わるだけ。各自が学びの主役になる。学びは本質的にプレイフルなものであり、それは生涯にわたって私たちの関心事であり続ける。
世界では,STEM・STEAMはK 12(幼小中高)・大学以上の全年代で重視されています。今や、すべての人が《研究者》や《発明家》、《芸術家》になれる時代がやってきています。高校生のみなさんもぜひ、「(人より)できる・できない」などにあまりとらわれず、自分の心が少しでも動き、躍るものに出会ったら、専門家のように一歩踏み込んで、うんうんうなって探究してみてください。将来何になるにしろ、一歩一歩踏み込んで試行錯誤した体験は必ずや自分の中で「価値」になり、多様な点と点がユニークにつながって、きっと、いつか思わぬ形でいかされます。人より遅くても、なかなかできなくてもいい。悪戦苦闘した体験こそが、研究者・芸術家・発明家としてのあなたを支えてくれます。
21世紀の学びの主人公はあなたです。オバマ元大統領がこどもたちにSTEM推進のスピーチの際に言ったように、「未来を創るのもあなた」なのです。ぜひ、ワクワクドキドキする学び(創造・生き方)を、自分たちのペースや感性にあわせて,時に仲間と協働しながら、さまざまなことに、さまざまなアプローチで本気で楽しんでみてください!