オピニオン・連載

大学ランキングからはわからない大学の実力 第一回
留学生からグローバル化を読みとる

教育ジャーナリスト 小林 哲夫さん

Profile
1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)。近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 橘木俊詔氏との共著)。

2020年代に入って、新型コロナウイルス感染拡大で、多くの大学でグローバル化が思うように進んでいない。こうしたなか外国人留学生をしっかり受け入れているところがある。
 「大学ランキング 2023」(朝日新聞出版)によれば、外国人留学生の受け入れ数上位校は次のようになっている。
 ①日本経済大2952人、②立命館アジア太平洋大2422人、③早稲田大2049人、④立命館大1602人、⑤東京福祉大1530人となっている(2021年。正規の学部留学生で聴講生、研究生、交換を含まない)。上位3校は減少したが、大きく減らしてはいない。前年比で立命館アジア太平洋大は45人減、早稲田大は112人減にとどまった。一方、立命館大、東京福祉大は前年から増えている。  コロナ禍で外国人の入国が制限されたのに増加したのはなぜか。国内の日本語学校からの入学者、つまり、もともと日本に住んでいて大学を受験した外国人が多かったからといっていい。
 別の角度から見てみよう。留学生比率の上位校は次のとおりだ。
 ①愛国学園大84.6%、②至誠館大70.3%、③大阪観光大67.5%、④鈴鹿大59.4%、⑤日本経済大55.2%(定義は留学生数と同じ)。なお、留学生数が多い立命館アジア太平洋大は44.3%、東京福祉大34.8%、早稲田大5.4%、立命館大4.9%となっている。  外国人留学生数、比率から、大学のグローバル化をどう読み解けばいいか。わかりやすいのは立命館アジア太平洋大、早稲田大である。国際系学部の存在が大きい。外国人を積極的に受け入れて日本人学生と一緒に学ぶ。授業のほとんどは英語だ。  一方、それほど国際系を打ち出していない大学で上位にくるところは、留学生をたくさん受け入れ、卒業後、日本のさまざまな分野で外国人に働いてもらおうという考え方を示している。量販店での接客、福祉現場での支援などだ。なるほど、「経済」「福祉」が付く大学に留学生が多い。これは少子高齢化社会を考えると悪い話ではない。大学が日本社会のために、外国人で専門性が高く優れた人材を育成している、という意味においてすばらしいことだ。
 しかし、見過ごせない問題がある。
 留学生比率が高い大学に定員割れをしているところが少なからず見られることだ。高校からすれば、「日本人学生が集まらないから外国人を受け入れたのでは」と疑念を抱き、「日本人学生に対する教育のレベルは保たれるのか」と不信感を持ってしまう。留学生の日本語、学力のレベルに合わせた授業をしているのではないかと疑う。
 また、キャンパスに外国人がたくさんいることで、「日本にいながらまるで留学しているような環境」をうたう大学があった。ほんとうにそうならば、大学のあり方として悪くない。しかし、現実はどうか。留学生は生活のためアルバイトに追われ、日本人と交流する機会は少ない。ゼミや授業で一緒になるが、サークルなど課外活動で大学生活を楽しむというケースは、残念ながらそう多くは見られない。これは、多くの日本人学生から聞いた話である。もったいない。日本人学生、留学生いずれもお互いどうやって声をかけていいのかわからない。そんな現状がある。大学は日本人、外国人がディスカッションする機会をたくさん設定したらどうか。
 さらに、見過ごすと大変やっかいな問題がある。
 留学生数が多い大学のなかに出入国在留管理庁(旧・入国管理局)から在留管理面での不備を指摘されるところがあることだ。授業に出席せずに就労という不法滞在者あるいは行方不明者を出すケースだ。数年前、出入国在留管理庁は留学生の実態があまりにもひどい大学に堪忍袋の緒が切れてしまった。在留資格「留学」を付与しない、つまり留学生の受け入れを認めないというペナルティを科したのである。
 もちろん、こういう大学にもまじめで優秀な留学生がいる。出身国との懸け橋になりたい、研究者になりたい、経営者になりたい、と夢を抱いている。だが、留学先の日本の大学が経営至上主義で教育を蔑ろにして、あまりにも杜撰な在留管理を行い、「○○大学は不法滞在が多い」などとレッテルを貼られるのは、かわいそうだ。これでは日本を好きになれない。留学生数が多いランキング上位校はグローバル化がほんとうに進んでいるのか。どうも信頼できない――そんなシビアな見方をされないように、大学は外国人留学生をしっかり受け入れてほしい。日本人学生との交流を深める場を作ってほしい。
 グローバル化をはかる大学ランキングを作ると、大学そのもの、そして日本社会全体において、グローバル化が進んでいないことに気付く。

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