オピニオン・連載

大学ランキングからはわからない大学の実力 第2回
官僚離れ、海外への頭脳流出。日本の将来が心配になる

小林 哲夫 さん

Profile
1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)。近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 橘木俊詔氏との共著)。

 東京大卒業生の就職先、上位20社には、外資系コンサルティング会社がいくつか並んでいる。マッキンゼー・アンド・カンパニー23人(2位)、PwCコンサルティング16人(4位)、アクセンチュア9人(14位)、EYストラテジー・アンド・コンサルティング8人、アビームコンサルティング8人(17位)。

 東京大経済学部から経済産業省に進んだ男性がこんな話をしてくれた。

「国家公務員総合職、大手都市銀行、外資系コンサルを全部通って、マッキンゼーに行く友人がいました。彼は成績がトップクラスで財務省に行くのではと思われたのですが、自分の力を試したかったのでしょう」。

 同大学法学部教授がこう話す。

「もっとも優秀な学生は法科大学院に進まず予備試験を受けて法曹に進む。その次に優秀なのは官僚になる、勉強好きなのは大学院に進む。これは2010年代前半まで。いま、法学部一の秀才がマッキンゼーに行きたい、と言いだしている。官僚志望は成績が二番手三番手クラスです」

 東京大の学生が進路を語る際、「外資系コンサル」があこがれの対象として話題にのぼるようだ。こんな具合に。

 日本の伝統的な企業と違って、終身雇用や年功序列はなく実力本位で責任ある仕事を任される。担当した企業が業績を伸ばせば、コンサルタントとしての能力を高く評価され、日本企業につとめる同年代よりも高給が保証される。20代で課長、部長職となり、年収、「1000万円プレーヤー」にすぐなれる―――。

 なるほど、「外資系コンサル」神話は広まっているようだ。

 その背景には、官僚への不信感、不人気があるといっていい。

 東京大は官僚を送り出す高等教育機関としての機能を十二分に発揮してきた。大学の成り立ちからして、「帝国大学ハ国家ノ須要ニ応スル学術技芸ヲ教授シ及其蘊奥ヲ攻究スルヲ以テ目的トス」(帝国大学令第一令)であり、戦後4分の3世紀近く、多くの官僚を生み出してきた。各省庁において歴代、現役の幹部クラス(事務次官、局長、官房長官など)には東京大出身者が圧倒的に多い。

 ところが、2010年代半ば以降、東京大から官僚となるための国家公務員総合職試験合格者がかなり減少している。その推移は次のとおり。

 2015年459人→16年433人→17年372人→18年329人→19年307人→ 20年249人→21年362人→22年217人。

 7年前に比べて半減している。その分およそ200人のうち少なからず「外資系コンサル」に進んだことは想像できる。見方を変えると、日本政府からすれば、海外への「頭脳流出」と言えなくもない。

 なぜ、官僚離れがおきたか。

 財務省など各省庁で不祥事が続いた、政治家が繰り返す理不尽な言動の尻ぬぐいをしなければならない。国のために尽くしているはずだが社会的な評価が低く非難されることもある。その割には猛烈に忙しい、しかし給料は少ない。こんなことではやりがいを感じられない、など、官僚のあいだで不満が渦巻いているのはたしかだ。

 霞ヶ関から優秀な人材が失われるのは、国にとって一大事である。20年後、30年後、ダメな官僚ばかりにならないか。心配になってしまう。

 大学からみれば、教養、専門知識を身につけた学生がどっと海外に流出するのは、いくらグローバル化を掲げているとはいえ、もろ手をあげて賛成というわけではなかろう。大学は国に貢献できる、地域社会に役立つ人材を送り出したいはずだ。

 他の難関大学が気になる。早慶の「外資系コンサル」就職状況はどうか。

◆早稲田大

 アクセンチュア57人(5位)、PwCコンサルティング50人(6位)、ベイカレント・コンサルティング44人(9位)

◆慶應義塾大

 アクセンチュア88人(2位)、PwCコンサルティング83人(3位)、ベイカレント・コンサルティング47人(10位)、アビームコンサルティング37人(18位)、EYストラテジー・アンド・コンサルティング35人(20位)

 早稲田大国際教養学部(SILS)出身(2019年卒)でアクセンチュア勤務の男性はこう話す。

「SLISはグループで議論や発表するインストラクティブな議論が多くありますが、様々な背景を持つ学生が互いに協力しアウトプットする課程で、コンサルティングに必要な適応力が養われていると感じました」(「早稲田大国際教養学部案内2023」)。

 日本の大学は、長い間、政官財そして学問の世界に優れた人材を送り続けてきた。それがぐらついているように思える。競争の原理が働き、日本の企業、省庁、自治体、アカデミズムの世界が、人材受け入れ面で世界に出し抜かれるのではないか。ただでさえ少子化で若年層が減り続けている。国、社会、大学は危機感、緊張感を持つべきだと思う。

<就職先のデータ:2022年 東京大は東京大学新聞、早慶は大学ウェブサイト。慶應義塾大は大学院修了を含む>

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