京都大学 学際融合教育研究推進センター
准教授 宮野 公樹 先生
Profile
1973年石川県生まれ。2010〜2014年に文部科学省研究振興局学術調査官も兼任。2011〜2014年総長学事補佐。専門は学問論、大学論、政策科学。南部陽一郎研究奨励賞、日本金属学会論文賞他。著書に『研究を深める5つの問い』(講談社)など。
今回は、大学と企業との関係について書いてみようと思います。本誌「大学ジャーナル」の読者のみなさんにはあまり馴染みがないかもしれませんが、今日、大学を語るうえで企業との関係は切っても切り離せないものです。
―――もちろん、大学生は卒業したら企業で働くのだから、大学と企業は接続されたような関係じゃないの?
もちろん、学生やその保護者、高校の先生にとっては「就職活動」という文脈で、大学と企業との関係をまず想起するのは自然なことです。しかし、それは一面でしかありません。
今日、大学は研究活動資金を企業との共同研究、共同プロジェクトに頼る側面があり、その数は増加傾向にあります。大学の学長と企業の社長がにこやかに握手を交わして、億単位のプロジェクト開始を発表するプレスリリースをご覧になったことはありませんか?
企業が抱える課題、えてしてそれは自社の利益追求もさることながら社会的課題、ビッグイシューに挑むというものですが、それを大学の研究者と共同プロジェクトにて解決し、社会に貢献しようというのがねらいです。
企業にとっては、自社では足りない多様な専門分野の知見を活用することができ、大学にとっては、研究資金を得て業績や成果を創出することができる。まさにWin-Winの関係がここにはあります。
他にも今日では、多くの大学には冠に企業名のつく○○センターといった研究施設があちこちに存在しますし、最近は、大きいセッションホールの名前に企業名を付与するネーミングライツも流行っております。
「三限目の講義の場所は、○(企業名)ルームだね」といったように、学生が日常的にその企業名を口にして、その企業を身近に感じてもらおうというのが狙いだそうです。いやはや、すごい時代になったものです。
他方で、当然ながら課題もあります。企業にとっては、多額の資金を投入したにも関わらず見合った成果が得られない場合もありますし、企業と大学のマインドの相違、例えば大学側は研究成果の公表(論文)を重視する一方、企業側は知的財産の保護を重視するといったように、いろいろとコトは複雑です。
そして、このような運用の問題だけでなく、そもそも大学あるいは学問の「知」とは何か、ということが問い直されなければならないようなケースもあるかもしれません。
国立、私立問わず、大学には国からのお金が入っており、公共性という観点から見て、特定企業から研究資金を得て、そこのために何かを研究することをどのように解釈するか、ということです。
事実、このような企業と大学との共同は「産学連携」と呼ばれ、その黎明期である1970年代前後には、研究者、学生の間に大学の独立性や知の独占についての懸念が広がり、デモ行進にまで発展したという話もあります。
近年、産学連携はイノベーション創出の重要な手段として広く認識されていますが、このような歴史も知っておくことで、また違った目で大学と企業の関係を見つめることができるでしょう。