連載・寄稿

《16歳からの大学論》

16歳からの大学論 問いとディスカッションに、学びを作品に

宮野 公樹 先生

 2022年1月末に、学問の〈根・音・ね〉– 学術、芸術、伝統文化の百花争乱–というタイトルで企画を実施しました。これは、KYOTOSTEAM–世界文化交流祭–という京都市らの事業の一つとして開催したものです。活動分野の異なるメンバーが、対話を重ねながら、それぞれの専門分野の原点にある「問い」から現在に至るまでの歴史と、その連鎖を仮想空間で可視化することを試みるプロジェクトで、その道のりで製作したVRによるアート作品の公開・体験と、参画者でこれまでのことを話し合う公開振返り会を実施しました。


 なんといっても、そのメンバーのラインナップがすごい。現代美術家、表千家茶道講師、小説家、庭師、医師・薬剤師、映像作家、生命誌研究者、画家・美術家、禅宗僧侶といった顔ぶれ。通常、ほぼ初対面の多分野・多業種が集まって、わずか半年たらずでなにか一つの作品を作ることはありませんが、今回はそれをやってのけました。製作過程ではどんな対話がなされたか、最終的にどんな作品を作ったかについては、まもなくWEBサイトで公開されますので、関心がある方は、京都大学学際融合教育研究推進センターのホームページやSNS(TiwtterID@Cpier_Kyoto_u)をフォローして下さい。


 今振り返ってよかったと思うのは、作品づくりを焦らなかったこと。事前打ち合わせは、全員リモートで合計5回ほどしかできませんでしたが、これをあえて「勉強会」と称し、作品づくりではなく学ぶために集まっているのだという自覚をお互いに高めました。開催の前には毎回、最終作品につながるかどうかわからないような「お題」―例えば、「今のあなたがあるのは、どのような《問い》の連鎖の結果でしょうか?」といったような―が必ず与えられ、各自、それを発表するかたわら、Slackでも意見交換を続けました。アーティスト、宗教家、茶道家、庭師などの、その直感の速さたるや、光の如し。普段、研究者とのディスカッションばかりの私にとってはとても刺激的で、真正面から「問い」と対峙する感受性は、面倒な手続きなしにダイレクトに本質へと突き進みました。


 あとは、最終作品である「問いの連鎖」の具現化だけ。本番2ヶ月前には、VRのプロが加わり試行錯誤の末、作品づくりの土俵(環境)が与えられました。思った以上に簡素で、このVR空間で創り出したものが果たしてアートと呼べるのかと悩みましたが、それはすぐにうち消されました。なぜなら、アートとは魂を吹き込むことに他ならず、この勉強会では、まさにそのことに必死に取り組んできたからです。もちろん各メンバーのこの企画に対する関わり方や想いは異なります。しかし、いっときでも問いを共有し、互いに悩み、形にした経験は深い学びとなり、その学びを注ぎ込めば、きっと印象深い時空になる。そう、この企画でつくったのは「作品」ではなく「学び」、このことを本番に掲示しようと考えたのでした。


 具体的には、VR作品を展示し体験するだけでなく、メンバーがどう学んでここまで来たかを時間をかけてプレゼンし、参加者も入れて、VR体験後に全員でどう学んだかを話し合いました。VR作品とパネルディスカッションが組み合わさったこの時間・空間がまるごと我々の「作品」だったのです。

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