学際融合教育研究推進センター
准教授 宮野 公樹先生
Profile
1973年石川県生まれ。2010~14年に文部科学省研究振興局学術調査官も兼任。2011~2014年総長学事補佐。専門は学問論、大学論、政策科学。南部陽一郎研究奨励賞、日本金属学会論文賞他。著書に「研究を深める5つの問い」講談社など。
大学進学において進路を選ぶ際、当然ながら大学を選び、学部を選ぶことになります。そして学部を選ぶということは、必然的に学術領域を選ぶ、ということになります。では、みなさんはどうやって学術領域を選びますか?
そのような問いから論をおこしたものの、実際のところは選択基準は人それぞれ、というのが結論でしょう。その時点での自分の興味関心や時代の風潮(最近ならAI系ですかね)、それに卒業後の就職先までを考えて学部を選ぶ場合もあるでしょう。これらのうち今回は「自分の興味関心」、すなわち損得勘定を抜きにしたところでの自分自身の内面的な感情について考えてみます。
「私は○○分野に興味関心がある」と言ったとき、なんといっても気になるのは「なぜその○○分野に興味関心をもったか?」という動機の部分です。例えば、○○が好きだから、○○をなんとか解決したいから、ずっと前から○○が気になっていたから、○○が格好いいと思うから、○○が面白そうだから、といった類いであると思われます。通常はこの段階で問いを止め、早々に学術分野を決めてしまうように思います。
しかし、しばしお待ちを。その時点での興味関心で分野を選択するのは、著者からすると早計のように思います。例えば、○○が好きだから、というのであればなぜそれが好きなのか?と問いを続けることができます。「んー 自分が小学校のころにはじめて○○を知ったんだけど、そのときの衝撃が未だに残ってるから」などの答えが返ってくるかもしれません。でもさらに「では、なぜ○○をみて衝撃をうけたの? 小学校のころなんてある意味ほとんどのモノゴトがはじめての見聞きといえるよね。そのなかでなぜ○○だけに衝撃をうけたのだろう」と問うことができます。このようにまだまだ問いを幾重にも繰り返して行くと…きっとどうしようもなくなって「ええい、好きだから好きなんだ!」となるかもしれません。いや、きっとそうなるでしょう。実は、正直いって結果などどうでもいいのです。大事なのは、一度はこの終わりのない問いに徹底的に浸っておくということなのです。
○○が好きな自分って? ○○を格好いいと思う自分って? ○○が大事と思う自分って?と考え詰めることは、「自分」について客観的に思考する試みです。自分とは何か…これを切実に思考する機会は人生において意外にないもの。大学進学というタイミングはちょうどいい時期かも知れません。きっと、今後の人生に大きく影響を及ぼすぐらいの深い気づきを得られるでしょう。なによりそこまで考えたのなら、自分自身の選択に責任をもつことができます。誰に言われたからでもない、時代に流されているのでもない、現時点での自身の全人格をもってして考えぬいたこその結論。そこまで思考したそのとき、その選択はまったくもって「あなた」そのものと化します。選択にあなたという人格が現れるのです。「そうなったときにこそ、正しい選択を行えるのだ。だからそこまでちゃんと思考しろ」と言いたいのではありません、断じて。正しいもなにもない。そんなことわからない。しかし、自分は誰のものでもない自分の人生を生きることができるといっているのです。仮にその選択がどうも自分とマッチしなかったというときも、いや、おそらくはそういう場合がほとんどかもしれませんが、きっとまたその経験を踏まえて思考し、自分の人生をまた歩き出すことができる…そう言いたいのです。
さて、第15回までお付き合いいただいた読者の方には直ちにピンとくるかもしれませんが、このような自分で自分を見つめる思考、内省は学問そのものだと筆者は思っています。なにも大学という場でないと学問ができないわけではない。自分とは何か、自分が存在しているとはどういうことかと、ふとしたきっかけでいつでも学問はあなたの内から生じるのです。よき人生を(続く)。
おまけ
大学で研究される学問領域は細分化が進み、いまや学会の数はなんと2,022もあるのだとか。このなかから、本当に「自分らしい学問」と出会うのは至難の業かもしれません。そこで筆者はこの度、「あなたにぴったりの学問みつけます。ナビスコラ Navischola」というWebアプリを開発しました。すでに10万人が利用しています。このアプリは、1,757人の研究者からの「生の声」を元に、12の領域の中からあなたに合う学問を教えてくれる診断ツール「Your Schola」と、膨大な学問分野の関係性を解き明かす分野相関図「Schola Scope」から構成されます。いうまでもありませんが、この診断結果は「占い」程度。自分自身を知るための一素材となればそれで充分です。ぜひお楽しみください。
https://navischola.app/