特任教授
北岡 哲子
~Profile~
異分野から工学の世界に入り、感情・表情・脳と癒しをテーマに北岡オリジナル癒し工学を提唱。工学、医学、芸術、心理学、環境学、社会学、宗教人類学の新学際研究に従事している。08年12月に日本機械学会計算力学部門に「癒し工学研究会」を設立。09年、東京工業大学において博士(工学)を取得。日本機械学会、日本感性工学会、日本早期認知症学会、日本脳電位学会会員。2011年日本機械学会「癒し工学研究分科会」主査。東京工業大学大学院助教を経て、2015年4月より現職。他に自動車事故対策機構 自動車アセスメント等技術検討ワーキンググループ「予防安全技術検討ワーキンググループ」委員。著書は『癒しは科学で手に入る』(幻冬舎ルネッサンス新書)。2015年春からは、日経テクノロジーオンラインで『スポーツをテクノロジーする』を、電気新聞で「癒し工学の散歩道」を連載中。青山学院高等部出身。
相談
昨年は、高校3年の男子の母でした。夫は弁護士、長女は有名大学のロースクールに通っており、私は専業主婦です。夫は家庭無視、仕事だけ。社会貢献に明け暮れ、町のごみ拾いは懸命にするが、家のごみは全く拾わない。人からは人格者と言われますが、家庭人としては0点。そのギャップに対するうっぷんを、私は長男を溺愛することで解消していたようです。ところが長男は、そんな私への反抗からか、突然予備校もやめ大学にはいかないと、何もしなくなりました。高校は、世間体もあり進学校に進ませていたのにこの始末。今更ですが、親として、高校には偏差値の高い大学に進学させ名前を売るのに必死にならず、各生徒の適性を見出し、将来の仕事につながる進路指導を望みたいと思いますが、いかがでしょうか。
回答
ご質問からは、ご家族ではただお母様だけが、ご子息の現状に大変心を痛めておられるように見えます。ご両親の介護もあるとのこと、ストレスは計り知れないとお察しします。優秀なご主人や姉とは違う道に進みたいと、自ら決断されたのは、なかなか行動力があるようにみえますが、私見では、往々にして甘やかされて育った子供は、突然驚くほど思い切ったことをする。勇気というより無分別で、いずれ親がなんとかしてくれるという甘えの裏返しだと考えています。勿論、早くから適性など関係なく、自分は将来〇〇になりたい、と確固たる意志をもっている生徒もおりますが、将来何をしていいか全く考えていなかったり、悩んでいるけれど決められない子などもいますから、けして珍しいケースではありません。動機はともあれ目標が決まっていれば、それなりの大変さはありますが、精神的には、目標がない子に比べまだ楽かもしれません。
大学入試が、蓄えた知識以外も評価の対象にするようになるとのことですが、それによって未開発の力を引き出すことができるようになればいいですが、一般的な適正試験では、予備校などで対策を立てられますし、潜在的な力を見出すために時間や労力もかけられないとなると、やはり、高校の3年間の学校生活の中で、その子の長所や得意な面を発見し、引き出し育てていってほしいですよね。家庭では甘えがでたり、保護者の方も偏った評価をしがち。わが子の社会性がわからない場合もあるので、他人のほうが客観的に評価できると思います。
そこで、「将来、適職につくための大学や学部についてのリサーチや、生徒の適性の把握にもっと力を入れてほしいとは思うものの、親の多くは有名校にいれておけば全て面倒みてくださると安心してしまう。それでも有名校にはいれるべきだとは思っていますが」と、ご相談はさらに続きました。
現代は遠回りが許されない風潮がありますから、なんとなく焦りを感じる親御さんも少なくないでしょう。一昔前は、教師にも「自分がやりたいことをみつけるまで大いに悩め!」と豪語するような人がおりましたね。
いろんな力を借りて、一早くやりたいことを見つけさせ、それに向けて指導してほしいという思いは、たしかに一理も二理もあります。しかし高校だけにそれを期待するのも、これはこれで親の甘えのような気もします。自分の将来を決められないのは、その生徒自身やその家庭環境にも原因があるでしょうし、ここまで子供を見つめ、手をかけ育てられたのなら、小さい頃からもう少し、学校とは違うアプローチで子供の意思を育てる努力をすればよかったのに、と残念に思いました。
たしかに多くの高校では、理系か文系かの程度かもしれませんが、生徒の適性を判断されていると思います。しかし自衛官やパイロット、あるいはユーチューバーや起業家などと、具体的な職業適性を早い段階から見出すことができれば、もっと無駄のない大学選択ができるはずです。勿論、特色をだしやすい私立中高一貫校の中には、そういうことをしているところがあるかもしれませんが。
私自身は昔から、大学以下の教育機関はなりたい職業から逆算して決めるべきだと強く思っていて、そういう高校があれば理想的だと思っています。しかし学校だけにまかせるのはやはり賛成ではありません。お子さんの将来を決めるのに家庭環境は大きく影響しますから、ご家族の役割も今一度見直されるとよいのではないでしょうか。とても難しいことかもしれませんが・・・(続く)
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