(学)東北文化学園大学評議員・大学事務局長、
弊誌編集委員 小松 悌厚 さん
Profile
1989年東京学芸大修士課程修了、同年文部省入省、99年在韓日本大使館、02年文科省大臣官房専門官、初等中等教育局企画官、国立教育政策研究所センター長、総合教育政策局課長等を経て22年退官、この間京都大学総務部長、東京学芸大学参事役、北陸先端大学副学長・理事、国立青少年教育機構理事等を歴任、現在に至る。神奈川県立相模原高等学校出身。
この春から、ふつうの風邪も5類感染症に!?
2025年4月からいわゆる「ふつうの風邪」も新型コロナウイルスと同じ「5類感染症」に引き上げられた。2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行されたときは、(感染症法令の)5類感染症に移行したことに伴い(学校保健安全法の)第2種感染症に位置付けたという内容とともに、移行後の感染症対策等について文部科学省から通知が発せられていたが、今回はないようだ。この違いを理解するには、5類感染症の制度的意義を確認する必要があると考える。また、感染症法制と学校保健安全法制は、相互に関連性と独立性をもつ制度であることに由来する。そこでここでは両制度の関係について経緯等も含めて概観することとしたい。
学校は児童生徒等が集団生活を営む場であり、感染症が発生した場合には感染が拡大しやすく、万一感染が拡大した場合には教育活動にも大きな影響を及ぼすこととなる。このため戦前の学校の発展とともに独立命令により、学校の伝染病対策は進められてきた。その経験も踏まえ、1958年に学校の保健管理を総合的に規律する「学校保健法」が施行され、この法律により伝染病の予防措置としての出席停止や臨時休業が法定された。学校において予防すべき伝染病については、同法施行規則において伝染病の種別を第1類から第3類と分類した上で、当時の「伝染病予防法」が規定していた重大な発生リスクを伴うものは、第1類伝染病とし、インフルエンザ等のように児童生徒等の罹患頻度が高く、学校において流行を広げる可能性が高いものは、第2類伝染病と規定した。そのうえで、各類別に属する伝染病に応じて感染拡大防止措置、出席停止期間や報告手続等が定められた。
学校保健法施行から分類の基礎としていた伝染病予防法は、1897年に施行された古い法律で、時代の要請に必ずしも応えきれていない面があった。このため学校保健法施行から40年が経った1998年をもって同法は廃止となり、新たな立法思想の下、「感染症法」が制定され翌年から施行されることとなった。
感染症法は、感染力と重篤性などにより対象となる感染症を1類から5類の類型に分類し、さらに新型インフルエンザ等感染症などの特定の感染症を加え、各分類に応じた対策等を規定している。1類・2類感染症は、感染力や罹患した場合の重篤性が高い感染症の疾病が挙げられており、その中でも特に危険性が高いものが1類に分類されている。3類は特定の職業への就業により集団発生をおこし得るもの。4類は動物や飲食物を介してヒトに感染するもの。5類は国が感染症発生動向調査(サーベイランス)を行い、その結果等に基づいて必要な情報を国民一般や医療関係者に提供・公開していくことによって、発生・まん延を防止すべきものとされている。
感染症法が施行された1999年に学校保健法施行規則が規定する伝染病の類型と疾病が変更された。それまでの1類・2類・3類の類別が感染症法との混同を避けるためか1種・2種・3種に改められた。また、改正後の第1種感染症は、感染症法の1類及び2類感染症となった。さらに、第2種感染症は、飛沫感染することが要件として追加された。これにより疾病の一部は、大幅に追加、移動、削除となった。
その後2008年に「学校保健法」を「学校保健安全法」に改正する際、同法がそれまで規定してきた「伝染病」の文言は「感染症」に改められた。
さて、冒頭述べたように、2025年4月7日施行の厚生労働省令により「ふつうの風邪」を含む、急性呼吸器感染症(ARI)が感染症法の5類感染症に位置づけられることとなった。先述のとおり5類感染症は、国が定点医療機関等を通じてサーベイランスを行い、得られた情報を提供・公開することで、感染症の発生・まん延を防止するための類型である。このことから、厚生労働省では、5類感染症に位置付けられるとしても、それが登校制限の対象とはならないとしている。今後、学校保健安全法令の関係規定が改正されるなどの制度改正がある場合はともかく、現時点では、学校が直ちに何か対応しなければならないことにはならないと考えられる。
このように、感染症法制と学校保健安全法制は相互に独立性を有しつつ関係性も併せ持つ。学校関係者は双方の制度について理解しておく必要があろう。