~Profile~
京都大学大学院人間・環境学研究科助教。2015年、名古屋大学大学院理学研究科素粒子宇宙物理学専攻博士課程修了。東京工業大学地球生命研究所(ELSI)研究員、デンマーク王国コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所研究員、名古屋大学高等研究院/大学院理学研究科特任助教を経て2021年より現職。惑星や衛星の形成過程やその環境に興味を持って研究している。京都市立堀川高等学校出身。
太陽系には土星と木星の2つのガス惑星があり、それぞれに100個前後の衛星がある。土星の衛星全部の95%以上もの質量を占めるタイタンは、土星の衛星の中でぶっちぎりに大きい。一方、木星の周りには、400年以上も前にガリレオ・ガリレイが手製の望遠鏡で観測できたほどの大きな衛星が4つもある。では、タイタンは始めから独り勝ち状態だったのだろうか。
土星がガス惑星となるべく大気をたっぷり獲得する際には、土星の周りにガスでできた円盤が形成される。ちなみに、この時点では氷の粒でできた土星の輪はまだ存在しない。ガスの円盤は土星の自転と同じ向きに回転していて、その中にわずかに含まれる岩石や氷の粒から衛星が生まれていく。ここで、バケツに水を入れて勢いよく回転させるとバケツが逆さになっても水が落ちない状況を思い浮かべて欲しい。回転の勢いを減らしていくとどうなるか——?これと似たような現象だが、ガス円盤の中で土星の周りを公転する衛星は、ガスの影響で回転の勢いを削がれ、やがて土星に飲み込まれてしまう。土星に向かっていく衛星をせきとめるためのアイデアも提案されているが、問題は一つ救うとそれ以外も救うことになってしまうことだ。つまりそういったアイデアは、木星の場合には都合が良いが、土星とタイタンには適さなかった。
ガス円盤の状況によっては、通常失われる一方の衛星の回転の勢いが増えることもある。衛星の公転軌道は、土星の重力だけでなく、ガス円盤の圧力や重力の影響を受け微妙なバランスで決まっているからだ。そこで公転軌道の変化を調べるために、私たちはガス円盤の温度と密度の分布を精密に計算した。そして、土星の近くでは、衛星の公転軌道は土星に近づいていくことが予想される一方で、少し遠くには、軌道がほぼ変化しない「安全地帯」があることが判明した。実際に、コンピュータシミュレーションで、公転軌道の長時間変化を調べたところ、内側の軌道のものはすべて土星に飲み込まれ、外側に位置していた衛星がひとつだけ「安全地帯」に一時避難し、その後、ガスの円盤が土星の周りから散逸してしまうまで生き残ることが分かった。こうして、長年の謎だった土星-タイタン系の成り立ちを説明する大きな手掛かりを得ることに成功したのだ。
このように、私たちの分野では遠くで起きている似た様な状況を、辛うじて観測することはできても、生物や化学のように実験で同じ状況を再現することが不可能なため、コンピューター上での「再現」が主要な研究手法のひとつとなっている。
この研究について詳しく知りたい場合はこちらもご覧ください。
• 東京大学 理学部 地球惑星物理学科・地球惑星環境学科
• 東京工業大学 理学院 地球惑星科学系
• 東京理科大学 理学部 第一部物理学科
• 北海道大学 理学部 地球惑星科学科
• 東北大学 理学部 地圏環境科学科・地球惑星物質科学科
• 名古屋大学 理学部 地球惑星科学科・物理学科
• 大阪大学 理学部 物理学科
• 神戸大学 理学部 惑星学科
• 九州大学 理学部 地球惑星科学科