特別研究員
行方宏介氏
京都大学理学研究科博士課程2021年3月修了
三重県立津高等学校出身
国立天文台での研究と成果
京大での学生生活を経て、昨年から東京にある国立天文台三鷹キャンパスで研究しています。国立天文台と聞くとどのような光景を想像されるでしょうか?たくさんの望遠鏡はあるのでしょうか。実はそうではありません。最新の研究に使われる望遠鏡は、岡山やハワイなど、天候条件の良い場所に建設されます。国立天文台三鷹キャンパスでは、日本と世界の多様な天文学者たちが集まり、データ解析や理論計算、装置開発等を行っています。
私の研究対象は、太陽や、「太陽によく似た恒星」(太陽型星ということもある)で発生している「フレア」と呼ばれる爆発現象です。太陽で発生した「太陽フレア」の場合、プラズマが放出されることがあり、これが地球にも到達し、人工衛星の故障やGPSの不調等の被害につながることがあります。
私は学生時代から、京大の新型望遠鏡「せいめい」を用いて、宇宙にある「太陽によく似た星」を観測する研究をしていました。今回、その太陽によく似た星の一つで、超巨大爆発「スーパーフレア」が発生し、さらに超大質量のプラズマが飛び出していることが発見されました。この発見により、太陽によく似た恒星だけでなく我々の太陽も、惑星の環境や社会に大きな影響を与える可能性が示されました。この成果は、天文学では権威のある「Nature Astronomy」という英国の科学雑誌で掲載され、日本国内外の多数のメディアで報道されるなど、大きな注目を集めました。
今回の成果に至るまで
私は現在天文学を研究していますが、高校生の時から目指していたわけでは
ありませんでした。当時の私には、宇宙や素粒子物理など「基礎研究に対する興味」と、産業を通して「社会の役に立ちたいという気持ち」が同じくらいあり、どの進路を選べば両立できるのかと悩んでいました。その結果、入学時に専門を決めず3年以降に選択できる京大理学部に進学しました。
私が今の研究に出合ったのは、大学1年生で受けた「プラズマ科学」という
授業でした。後に指導教官になる柴田一成教授が、「太陽フレア」のメカニズムについて解析されていました。太陽で爆発が起き、プラズマが飛び出して地球に衝突すると、地上の発電所や人工衛星の故障に繋がる。そんな宇宙と社会をつなぐスケールの大きなシナリオに、当時無知だった私は「そんなことがあるのか!」と深く感銘を受けました。それは「面白いだけでなく、社会にも役立つ基礎研究があるんだ!」と、それまで抱いていた科学的好奇心と社会的使命感のつながる瞬間でもありました。
授業の後、柴田教授と直接お話しさせてもらいましたが、そこで知ったのが京大独自の技術を搭載したアジア最大の光赤外線望遠鏡「せいめい」のプロジェクトです。これを使えば恒星で発生している「スーパーフレア」の世界最先端の研究ができ、人類の安全に貢献し、生命誕生の秘密にも迫れるかもしれない。そのプロジェクトとその将来展望に私の心は躍りました。「この研究をやってみたい」と思うようになったのはその時から。約10年後の今も変わらず情熱を持ち続け、実際に「せいめい」望遠鏡を用いて大発見ができたことを考えると、非常に感慨深くなります。
今回の発見を通じて改めて感じた研究の楽しさ
私が「研究者」という職業の選択をしたのは、実はつい数年前のことです。転機となったのは、2018年に「せいめい」が遂に完成したことでした。念願の新型望遠鏡を使った観測は心躍るものであり、また同時に大変な作業の連続でもありました。目標にしていた現象の検出確率は非常に低く、これまで世界中で誰も検出したことのない現象だったからです。
長期の観測の後、最終的に世界初の天体現象を検出できた時、「研究者はやっぱり面白い!」と実感しました。一つの理由は、大発見の最初の「目撃者」になれるという本当の興奮に出合ったからです。もう一つは、今回の成果を記者発表した際、世界中の研究者だけでなく世間一般の方々からも大きな注目をいただいたことです。研究者にとって、自分の研究を面白いと共感してくださる方が多いこと以上に嬉しいことはありません。天文学は人々の日常に多少なりとも彩りや驚きを与えられる唯一の学問かもしれないと、研究の見方が大きく変わり、より研究が好きになった出来事でした。
自分が本当に人生をかけてやりたいと思える仕事を見定める時期には、個人差があると思います。私はそれが大学に入ってからであり、最終的に決断したのはここ数年です。長い間、自分の気持ちと向き合い、考え続けたからこそ、研究者という職業が自分にとって最高の仕事だと確信を持て、今の仕事を心から楽しめています。
研究の楽しみ方は、真理の探究だけにとどまりません。世界中の共同研究者との議論や、装置の開発、アウトリーチを通した社会との交流などがあります。私の周りにも、様々な形で研究に携わることを選んでいる人が多いという印象です。これからも様々な研究に携わり、自分なりに楽しんでいきたいと思っています。