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第11回 京都大学総長と首都圏進学校校長座談会

文:大学ジャーナル編集部

初出: 大学ジャーナル Vol.137(2019 年 12 月)

大学トップからのメッセージ 特別編

(10月2日 学士会館にて)

今年もノーベル化学賞受賞に沸く日本。11回目となる京都大学総長と首都圏進学校校長による座談会は、奇しくも、昨年の受賞にまつわるエピソードから口火が切られた。新入試が揺れ動く中、大学のグローバル化や経営への新たなチャレンジ、高校の様々な取組と生徒、保護者の意識の変化。さらには生徒の学習意欲や進路選択、文理融合まで、尽きることのない大学と高等学校との対話の一部を収録した。

参加者

順不同 中面は敬称略

京都大学総長 山極 壽一 先生
桜蔭中学校・高等学校 齊藤 由紀子 校長先生
開成高等学校 柳沢 幸雄 校長先生
女子学院中学校・高等学校 鵜崎 創 校長先生
豊島岡女子学園中学・高等学校 竹鼻 志乃 校長先生
武蔵高等学校中学校 杉山 剛士 校長先生
東京学芸大学附属高等学校 大野 弘 校長先生
東京都立日比谷高等学校 武内 彰 校長先生
東京都立西高等学校 萩原 聡 校長先生(全国高等学校長協会 会長 全国普通科高等学校長会 理事長)
東京都立戸山高等学校 布施 洋一 校長先生
千葉県立千葉高等学校 佐藤 宰 校長先生
千葉県立船橋高等学校 安藤 久彦 校長先生
埼玉県立浦和高等学校 小島 克也 校長先生
埼玉県立浦和第一女子高等学校 髙岡 豊 校長先生
神奈川県立湘南高等学校 稲垣 一郎 校長先生
神奈川県立柏陽高等学校 井坂 秀一 校長先生(全国普通科高等学校長会 副理事長)
司会:森上 展安(株式会社森上教育研究所)

そして、対話は続く

京都大学総長
山極 壽一先生

山極 壽一先生 プロフィール

1975年3月 京都大学理学部卒業
1977年3月 京都大学大学院理学研究科修士課程修了
1980年3月 京都大学大学院理学研究科博士後期課程研究指導認定
1980年5月 京都大学大学院理学研究科博士後期課程退学
1980年6月1日 日本学術振興会奨励研究員
1982年4月1日 京都大学研修員
1983年1月16日 財団法人日本モンキーセンターリサーチフェロー
1988年7月1日 京都大学霊長類研究所助手
1998年1月1日 京都大学大学院理学研究科助教授
2002年7月16日 京都大学大学院理学研究科教授
2009年4月1日 京都大学教育研究評議会評議員(2011年3月31日まで)
2011年4月1日 京都大学大学院理学研究科長・理学部長(2013年3月31日まで)
2012年4月1日 京都大学経営協議会委員(2013年3月31日まで)
2014年10月1日 から現職
東京都立国立高等学校出身

京都大学から

ノーベル賞授賞式とスウェーデンの学生

山極:昨年のこの会の後、本庶佑先生のノーベル賞受賞の発表があったが、あれほどたくさんの記者のみなさんが来られるのを初めて経験した。
 その後、スウェーデンの授賞式に同行させてもらったが、一番印象に残ったのが、そこでの学生の存在感だった。会場となる2階建てコンサートホールの1階では、1000人ほどの参加者が中央の国王を囲むように直角に席を作るが、国王と親族、受賞者を2階から案内するのは学生で、男女一人ずつが先頭に立って旗を持つ。2階では各大学の学生がそれぞれの校旗を持って並び、祝宴では食事の合間に様々な余興の司会をする。本庶先生など、スピーチする各賞の代表者を案内するのも学生で、スピーチが終わると2階の学生が一斉に各大学の旗を振って応える。学生が受賞者を国王とともに祝うのが伝統になっているようで、日本で似たようなしつらえで行われる授賞式では考えられない光景だ。
 スウェーデンでは消費税が25%などと高いが、18歳までの医療費が無料なのに加えて、初等教育から高等教育まで授業料は無償だ。日本では国立大学でも授業料は年53万円強。それに加えて生活費もほとんど親に依存している学生は、なかなか親離れできない。大学院でも授業料が要る。ヨーロッパや米国では授業料が無償どころか給与がもらえる。また先々週出席したドイツの学長会議では、大学進学率は70%ほどと高いが、マイスター制度などが充実していて、大学を出ることだけが社会で活躍するための条件ではないことが強調されていた。
 目下、高大接続改革で大学入試の問題ばかりに焦点が当たっているが、われわれが本当に考えなくてはいけないのは、高校と大学の教育をどう接続させれば、若者が各々の希望する社会進出を果たし、教育に対する満足度を高められるかだと思う。スウェーデンの学生たちも、それぞれが問題を抱えていないわけではないが、少なくとも自分たちの学究生活を国が支援してくれていることについての意識は高い気がする。日本では、多額の税金、たとえば国立大学である京都大学では、学生一人当たり200万円以上、授業料の約5倍が投入されているが、このことを学生はほとんど意識していない。もちろん社会の中でも、そういう仕組がもっときちんと認知されなければならないと思う。

国立大学も経営の転換期に

国立大学に対する運営費交付金が増えない中で、東工大、東京芸術大、千葉大、一橋大学が授業料値上げに踏み切った。現状のままでは、教育・研究の環境が劣悪になっていくのではないかという危機感からだ。一方で、新たな資金源として期待されるのが産業界との連携で得られる寄付金だ。
 京都大学では特許を扱う関西TLO(関西ティーエルオー株式会社)、投資会社京都iCAP(京都大学イノベーションキャピタル株式会社)を運営して、呼び込んだ投資で大学発ベンチャーを29社立ち上げている。東京大学、慶應義塾大学には一歩譲るが、昨年立ち上げた数では日本一となり、今年のTHE大学インパクトランキング※では48位と、国内一位になった。ただ、産学連携を一段と進め、日本だけでなく、海外の産業界からも注目を集めるためには、やはり学生も含めて若い世代のイノベーション創出に向けた意識改革も必要だと思う。

※SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の枠組みを通して大学の社会貢献度をランキング

海外展開、海外との提携も加速

最近は、国内の大学だけでなく、世界の大学に目を向け始めている高校生も増えてきていると思うが、拙速に海外の大学へ行くことについては疑問を感じている。日本の大学も今は相当国際化していて、京都大学でいえば海外の提携大学は170ほど、海外拠点は59で、学生が海外で学べる様々な仕組みも整えている。
 ダブルディグリー、ジョイントディグリーを増やす一方、指定国立大学法人に移行後は、海外の大学や研究機関との共同設置による現地運営型の「オンサイトラボ(On-site Laboratory)」を11ヶ所認定し、開設が進んでいっている。当初の目標は5ヶ所だったから、この間、国際的な注目度が高まり、海外の大学から連携先として注目されるようになったからだと考えている。
 このような展開の中で、われわれが目を向けている先は、ヨーロッパのドイツ、イギリスで、ベンチマークとしているのはオックスフォード大学だ。出版局などの他に、大学のシーズと企業のニーズを結び付けて企業のコンサルを行う会社を外付けで作っているが、京都大学でもそれを倣って、昨年、京大オリジナル(株)を設立した。世界で活躍しているOBの知も巻き込み、学生にも参加を促して起業家精神を養い、早ければ学生時代にベンチャーを起こすなど、国際的な舞台に立てるような人材を育てたい。
 もちろん政府の推すアメリカを軽視しているわけではない。カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCサンディエゴ:University of California, San Diego)に加えて、昨年はワシントンDCにも拠点を置いた。アメリカで二度にわたって創薬で成功し、当地でハルシオン・インキュベーターというNGOを作って様々な企業家を育てている工学部出身の女性イノベータの招きだ。彼女は京都でも6月に、大学のそばに企業からの出資を募り株式会社フェニクシーというインキュベーションセンターを立ち上げた。ベンチャー志向の企業の若手が対象だが、アメリカで成功した本学のスターということで女子学生が注目している。
 確かにアメリカは、このような人も出てくる野心が育つ場だから無視はできない。ただ大学同士が交流するには授業料や単位などあまりにも条件が違う。経営管理大学院ではコーネル大学の観光学科とダブルディグリーの協定を結ぶべく話し合いを始めたが、先方の授業料は年間約600万円。授業料不徴収の交渉にはかなりの時間がかかった。最終的には先方が、観光都市である京都で学生が学べるメリットをコストより優先してくれ、京都大学からも少し援助することで妥結した(京都大学・コーネル大学国際連携コース。2020年開設)。
 国内に向けた特色入試はすでに4年目に入ったが、海外へ向けた学生募集としては、2年前に吉田カレッジオフィス(Kyoto iUP:国際学部プログラム)を設け、主にASEAN諸国の日本語能力を持った、あるいは半年間徹底して日本語を学び、日本人学生と同じ講義を受けられるようになった外国人学生に門戸を開いている。外部資金を使って4年間学費免除で生活費も支給する。職員が各国を回り、従来は英米の大学に行っていたような最も優秀な高校生を迎え入れ、将来、高度外国人人材等として、日本や日本企業で活躍してもらうべく呼びかけている。今年の入学者は15名。私も台湾やタイへ行った際、彼らと話す機会があったが、日本の高校生が足元にも及ばないような優秀な高校生もいて、日本人学生にとってもいい刺激にもなると思う。アジアは今後、大きなマーケットとなるとともに、イノベーションの中心になってくるだろうから、大学としてもその流れに乗り遅れないようにしたい。
 日本の大学も今、このように姿を変えつつある。高校生には、直接海外の大学を目指すより、まずは国内の大学に腰を据え、これまで築き上げてきた知を吸収して足構えを整え、その上で、海外へ進出しても遅くはないということを知っておいてほしいと思う。

参加高校は今

井坂:初めて参加させていただいた。国立大学も経営感覚が大切である、また、京都大は海外との連携を加速させているとのお話をうかがった。本校も毎年少数ながら、貴学に進学させていただいている。本校は、本日参加の高校と違い、まだ創立50年少しの学校である。かつてはSSHに指定され、現在は現役生の3人に一人以上は国公立大に進学している。学校改革の一端として、ここ数年、英語の授業改善、グローバル教育に力を入れている。授業では年間を通じ、ディベートを取り入れ、海外修学旅行のほか、希望者対象だが、UCLAに50人ほどの生徒を送り、現地でプログラムをこなし、大学生とのディスカッションなどを経験させている。英語の力、グローバルな体験や考え方等は、文系理系にとらわれない基盤となる力として位置付けている。まだ始めたばかりの取組であり、今日は様々なお話をうかがい、持ち帰りたいと思っている。

髙岡:2週間ほど前、京都大学の女子高生応援事業「女子高生応援大使」で卒業生2名を派遣してもらった。職員の方にも学校にお立ち寄りいただき、丁寧なご説明をしていただいたことに感謝している。卒業生からは、「埼玉から京都に行って学ぶことはそれ程ハードルが高くなく、楽しい生活を過ごしている」といった生の声が聞けたのでよかった。1、2年合わせて70人ぐらいが参加し、みな大変刺激を受けた。

山極:ありがとうございます。現在京都大学の女子学生比率は22%。できればそれを30%まで上げたいと考えている。

杉山:浦和で5年間校長を務め、1年休んで母校に校長として復帰した。武蔵も京都大学へ行く生徒が結構増えていて、今の3年生も増えるかもしれない。もちろん東京大学も増えてほしいが、自由な校風をモットーとする本校としては、東大至上主義にならず一人ひとりの志向を尊重したい。

総長のお話から、グローバル化は避けて通れない時代だという認識を一層強くした。一部の生徒に限らず全員が、10代の多感な時期に多かれ少なかれ海外を体験することがとても大事になってくるのではないか。そしてこれからの日本と世界を見据え、自らと世界をつなげることで高い志を抱き、学習意欲を高める。豊かな社会で育った今の高校生は、他のアジアの高校生に比べると、ハングリーさに欠けるが、外の世界に触れてつながると99%の生徒が変わる。その上で、海外の大学への直接進学も含めて、様々な選択肢を与えたいと考えている。

武内:夏休みに、ボストン、ニューヨークへ赴き、アスペン研究所へお邪魔し食糧問題の専門家の前でプレゼンテーションする研修や、シリコンバレーやハワイ島で、最先端のグローバル企業で研修を受けるプログラムなどを行い、海外との接点を増やしている。ニュージーランド、韓国の姉妹校との交流も行う。参加した生徒はモチベーションを高め学びに向かう姿勢も変わってくるが、日頃の授業でも同様の意識付けができないか模索している。国の言う対話による主体的で深い学びではないが、生徒が自分の考えを出しあうことで新しい気付きや発見が得られるような授業を通して、知的な探求心やモチベーションを高めるなどだ。

森上:学習意欲という点では、女子の方が高いことがよく指摘されるが、桜蔭ではいかがですか。

齊藤:本校では直接海外の大学へ行くというより、UWC(United World College)などの奨学金をもらって高校を退学して、それこそコスタリカや香港などのハイスクールへ行き、そこから海外の大学を目指すというパターンが多い。もっと熱心なご家庭では、高校へ上がる段階でスイスやイギリスの全寮制の学校へ行かせるようなこともあった。女子だからなのか、いきなり海外の大学へ行くというのは親子ともに不安なのかもしれない。一方で海外にはあまり関心がなく、医学部以外ならなるべく自宅通学で、という保守的な層もある。前者には両親が海外の大学を経験しているようなご家庭が多く、後者は、これまでのように手に職を付ける、資格重視で「だから医学部」というようなお考えのご家庭が多い。京都は毎年2~3名が入学している。

山極:今年、女子寮を新築した。きれいで高級感がありますから、ぜひ。

森上:同じ女子校ということで豊島岡女子学園さんは?

竹鼻:傾向は似ている。海外大学進学セミナーなどを実施すると保護者が大勢集まるなど、生徒本人より熱い。ただし、情報は仕入れるが、留学を考えるのは大学へ行ってからというご家庭が多い。海外との提携では、ニュージーランドの提携校での3ヶ月留学に加えて、昨年からボストン研修を始めた。ボストンでは、大学生や女性研究者が情熱的に頑張っている姿にとても感化されたようだ。海外経験のある在校生や卒業生が、自らの経験をシェアすることもしているが、大学へ入学してから、多数募集している留学のための試験をパスして、奨学金で行く方法もあるという卒業生からの情報は新鮮だったようだ。大学入学後にチャンスをうかがって、という選択も増えてくるかもしれない。

山極:確かにアメリカの大学の月謝は高いが、さきほどもお話したように、授業料不徴収による学生交流協定を結んでいるところなら、国内の大学の授業料で行ける。

鵜崎:日本の大学へ進学する生徒は、比較的志望が定まっている。それに対して、海外の大学を志向する生徒は、大学に対して自由に自分の学びを広げる場というイメージを持っている。そもそも私たちが中高の段階で重視しているのは学びの動機付けで、特定の目的のための学びだけではないから、大学でどれぐらい自由に学べるかを気にする生徒がでてきても不思議ではない。残念なのは、日本の大学にもフレキシビリティがあることがまだ生徒に伝わり切っていないことだ。京都大学については、「おもろチャレンジ」(122号、128号に詳しい)などの例も出しているが、自由な学風のイメージがしっかり浸透しているとは言えない。京都という学問の街に身を置いて、自由に学びを広げることができるというイメージをもっと強く持てるようにすれば、腰を据えて日本でやっていこう、と考える生徒も増えるのではないだろうか。

山極:高校生の資質が両極化していると聞く。親がかりで進路が選べない生徒がいる一方、早くからやりたいことを決めて学部を選ぶ生徒も増えていると。大学でも、学びたいことがわからないという学生もたくさんいて、まずはやりたいことを決めてもらうためにたくさんのコースツリーを示し、学部によっては担任やメンターを設けて対応している。文理融合の総合人間学部に限らず、志望する学科で選ぶ工学部や農学部にもそういう学生はいて、卒業研究の指導教員を複数設けるなどして対処もしているが、悩ましい問題だ。そもそも大学は、20歳前後の多感な時期を過ごす場所だから、様々な刺激を受けて進路変更するのはやむをえないのではないか。

今日お目にかかったOBの大企業の元トップのお二人は、ともに進路変更されていた。将来の希望をきちっと決めてから進学させるのか、まずはいろいろな学問を渉猟した方がいいとサジェストするのか、先生方もご苦労だと思う。

森上:進路選択という点で、今日お集りの学校にとって医学部進学も大きなテーマだと思うが、戸山高校では?

布施:「チームメディカル(T.M)」と呼ぶ、医学部に進学したいという生徒を支援する取組を4年前、大野先生の時から行っている。ただ、特進クラスのような形にして特別扱いするのではなく、希望者は、通常は自分のクラスの授業を受け、放課後や土曜の午後、夏休み等に集まって活動する。現職の医師に来てもらいその仕事について話してもらう他、夏休みなどに、都立病院や大学医学部、医学系の研究所へ行き、見学だけでなく、医療器具に触れるなど実習もさせてもらう。キャリア教育の部分では、医者への適性や医者になる目的を突き詰め、今なすべきことについて考えを深める。年々女子が増え、今年の一年では7割以上だ。女子にとって医者は非常に魅力的な職業ということで、昨年の騒ぎで志望者が減ることもなく、結果もそれなりに出ていて、今後も増えると思う。

山極:今、医療に従事するのは医者だけではない。リーディング大学院で医工連携を7年間やっているが、工学部の学生が医学部の解剖実習へ行ったり、人間の体に触ったり、体の仕組みを医学部の先生から学んだりして、工学的な立場から様々な医療デバイスを考えている。AIを使って診断もできるようになってきているから、数学的な知識も必要だ。総合的な医学というものがこれから必要になってくる気がする。

布施:実習を通じて、医師免許を持っていなくても医療の研究に携われることに気づき、医師を諦めるのではなく、前向きにほかの分野に進路変更する者も出てきている。

山極:iPS細胞研究所には様々な分野の人が集まってきていて、それぞれ利用の仕方を考えている。国も相当な資金を投じて支援してくれているから、今後、いろんな発明や発見、大きな産業に結び付くような成果が生まれてくるのではないかと期待している。

文系・理系を分けること、文理融合については?

森上:他にもいろんなご意見があると思うが、目下、注目を集めている文理融合について、引き続き布施先生からご意見を。

布施:本校は1年から2年へ上がる時にクラス替えはするが文理分けはせず、卒業まで同じクラスで進む。3年では大学入試に対応して選択科目に差が出るだけで、それが本校の一つの魅力になっていて、毎年一定数、中高一貫校から早い段階での文理分けを嫌って入学してくる生徒がいる。学力の高い生徒ほどいろんなことに興味があり、文系も理系もできるのは当たり前だし、16から18歳の間に自分の将来を決めること自体に無理があるのかもしれない。大学へ入ってからもいろんなものに出会うわけだから、その中から本当にやりたいことが見つかればいいのではないか。

山極:『AIvs.教科書が読めない子どもたち』を著した新井紀子さんは文系から理系へ転向されたが、それには数学のリテラシーが少しでもないと難しい。早稲田大学は政治経済学部などで文系の学生にも数学の試験を課すと決めたが、これからのICT時代には、ある程度の数学の知識を持って高等教育に臨まないといけないのではないか。

森上:首都圏の公立高校では京都大学進学者の多い西高の萩原先生、いかがでしょう。

萩原:3年でクラス分けはしているが、実質的には選択科目の量の違いだけ。Eテレの番組で、本校生徒30人とOB、社会人を入れて「文系と理系どっちの道を選べばいいの?」という対談を行った。その中で、大学受験では文系・理系を選ばざるをえないが、自分は文系の学部を受験するが数学も理科も勉強していて面白いという生徒や、理系でも、社会科学系も含めていろんなことがわからないとダメだとわかっている生徒もいた。放送後、教員も1、2年はバランスよくいろいろな科目を学ばせている意義を改めて感じたようだ。新カリキュラムへ向けて、どちらかに特化させるよりは、基礎教養という考え方で、幅広くやるべきだと改めてと感じた。

高校までに多少なりともいろんなことを学んで大学へ行くと、それはどこかで役に立つ。またしっかり読書をしておくと、どんな分野へ進んでも、そこで求められるものを自分で読んで知識を吸収していこうということになってくると思う。特にこれからの時代、海外へ出るなら日本のこと、相手の国のことについて政治経済の状況を含めて知らないと何もできない。やはり高校はそのようなベースを作るところであり、同時にそれを実現させられる学校でなければならないと強く思う。

稲垣:今年の京都大学の入学者は、現浪合わせて11名、一昨年に比べると5、6名増えている。東大志向が強い一方、異なる価値観、学術研究をしたいから京都大学に行きたいという生徒も一定数いる。平均すると毎年14、5名だが、彼らが夏休みに戻ってきて、部活等で後輩に、京都大学の面白さをあれこれ話すのも一因だと思う。

本校のカリキュラムは、西高と基本的には同じでリベラルアーツを目指している。文系・理系に関してはコース分けをせず、3年後期に半期の科目を用意してどちらかを厚くするだけで、前期までは文理を遍く当然のように学ぶ。そのせいか、欧米の大学のように学部は理系、大学院では文系に移って研究を進めていくような、例えば、国際政治学者である三浦瑠麗氏のような卒業生も多いと聞いている。

成績上位者の志望はここ2、3年で大きく4つに分かれてきている。東京大学、京都大学(一橋大学、東京工業大学を含む)志向が第一希望としてあるものの、医学部志向が強まるとともに、SAT等を受けて直接アメリカの大学等を目指すケースもある。これは、浦和高校を見習って本校同窓会がグローバル志向を持つ生徒を支援するための公益財団法人を作り、短期、長期の留学に対して10万円から20万円程度の経済的支援ができるようになったことも影響しているかもしれない。4つ目は、研究重視で東北大学や北海道大学等の工学、理学系を目指すグループである。

佐藤:「伝統的」に全生徒に全科目を取らせている。理科も地学を含めて4科目、社会も全部だ。3年で文系・理系に分けるが、理科と社会の関係だけで、文系でも数Ⅲの最初の部分を取り出して「解析基礎」という設定科目を作り微積だけはやらせている。

生徒の中にも文・理分けを疑問に思う者もいて、先日の2年生対象のクラス分けの集会では、「文系、理系のどちらにも興味があるから決められないが」と質問する者がかなりいたと聞く。実際、理系に東京芸大の作曲科に行きたいという生徒がいたりもする。教員としてはこうした伝統は守るべきだとの認識を持っているが、いかんせん時間が限られている。すべてを取らせるとなると、1科目につき週3時間、4時間確保するのは本当に厳しい。授業の工夫でそれをどう補うか、1年から3年の中でどうつなげていくか、新カリキュラムの研究も含めて進めている。ただ、卒業生の多くは、大学の1、2年の教養は楽だったと言う。高校ですでにいろんな形で、しかもかなり深くやってきているからと。

京大の取組では学部生を対象とした「おもろチャレンジ」にとても関心がある。学校でも話すが、一般的な海外留学とは異なり、どんなことでもいいから自分のしたいことについて計画を立てさせて援助する、というのは他の大学にはないのではないか。

山極:体験型海外渡航支援制度だから、企画の目的は学問でなくてもいい。人気は高く、倍率も5倍近くで、女子も4割と多い。おもろい企画も増えているが、最近では、行ってきた学生が次に行く学生の壮行会に来てくれたり、アドバイスしてくれたりして次へつながっている。

佐藤:行った学生は何らかの成果を求められるのか?

山極:報告会はするが、学業にどう役立ったかは一切問わない。

安藤:昨年のこの会の後、前期末の校長講話で総長とお目にかかったことに触れた。その後、本庶先生のノーベル賞受賞の発表があり、後期の始めにはその話をさせてもらった。京都大学へは今年度、8名入学させてもらうなど、少しずつ増えている。

本校は、千葉県では、千葉、東葛飾とともに御三家と言われているが、近年は大学合格実績だけなら千葉に近づいている。受験指導は十分な体制を敷いているが、私としては、さらにチャレンジする意欲の旺盛な逞しい生徒を育てることに力を入れたい。2番手校として保護者の期待が大きく、大事に育てられてきた生徒が多いこともあって、そうした意欲を喚起するのも簡単なことではないが。

文系・理系については、3年で選択が変わる程度で大きく分けてはいない。進路選択については、あまり早く決めないで、できるだけ幅広く学ぶべきだと言っている。「大学へ行ってから自分の進む道を極めた人はいくらでもいるから」と。「おもろチャレンジ」も含めて、京都大学には学生に自分の頭で考えさせるなど、逞しい人材を育てていってほしい。

山極:先ほど紹介したOBが印象的なことを言っていた。「自分たちが今あるのは出会いと選択の結果だ。選択は自分の意志で行うものだが、出会いは偶然で自分の意志ではどうにもならない。出会いによって刺激を受けて、自分なりに選択してきた結果がこれだ」と。であればこそ大学は、学生がたくさんの貴重な出会いを経験できる場でなければならない。「おもろチャレンジ」もその一つ。大学は学ぶだけの場所と考えている学生も多いから、大学は出会いの場でもあり、大学の敷地だけがキャンパスではないということを、もっと伝えなければいけない。京都の町、あるいは海外へ出て様々な出会いを経験し、それを通じて自分のしたいこと、得意なことを客観的に見定め、進むべき方向を自らの責任で選択してほしいと思う。ただ高校生には、確信的に自分の能力に目覚めている者もいて、それはそれでいいけれど、そうでない場合には、無理な選択をさせる必要はないのではないか。

森上:男子校を預かる立場として小嶋先生は?

小島:今では極めて珍しい公立男子校で、私のいた40数年前の「頭を鍛えるのは当たり前で、それは各自でやる。学校は心と体を鍛える場だ」という雰囲気もかなり残っている。ただ当時とは違い、勉強面でも、学校は生徒とのかかわりを相当大事にしており、生徒はかなりシステマティックに勉強するようになっている。朝6時半の開門以降少しずつ集まり、7時半過ぎにはかなりの数になる。放課後は、部活が終わる6時、7時以降も、家に帰っても勉強できないと完全下校の9時ぐらいまで残る生徒が多い。

伝統なのか、男子校だからなのか、自由な雰囲気の中でよく勉強もするが、部活に時間を取られ、目いっぱいの生活を送っている生徒も多い。毎月のようにスポーツ大会があり、教員もチームを組んで全種目に参加する。それも、よくある優勝チームと教員チームのエキシビションマッチではなく、トーナメントの1回戦から入る。真剣に生徒と渡り合い、全27クラスを相手に、総合で2位に入っている(今年度、11月現在)。教員が優勝することの多いラグビーでは、生徒は教員に猛タックルし、負けると涙を流して悔しがる。レクリエーションのはずなのに生徒は真剣だ。国が出した部活のガイドライン(週二日は休養日を設ける)を全校集会で伝えると、早速、「部活動には口出ししないでほしい」と校長室に乗り込んでくる。われわれのいた頃からのことだが、前々校長の「勉強、部活、行事の《三兎を追え》」が合言葉のようになっていて、どれも手を抜かない。

トップ層は東京大学か京都大学を目指す。立地から受験者数は東京大学の方が多いが、京都大学へも毎年15名前後がお世話になっている。面談で聞くところによると、東京大学を目指す理由は大雑把には二つ。あくまでもトップを目指したいからというのと、1、2年では学部を決めず、いろんな学問にチャレンジしてみたいというものだ。京都大学志向の生徒では、「やりたいことが決まっていて、4年間とことん専門を勉強できるから」というのと、「堅苦しくない自由な雰囲気に憧れて」が二分している。

山極:京都大学も工学部は女子比率が約10%。ただ男性同士でもとても楽しそうだ。今年「NHK学生ロボコン」で、15年ぶりに出場し優勝したが、メンバーの中に3人の特色入試で入った学生がいて熱意でみんなを引っ張り、時間制限なしで楽しく準備していたようだ。元気な男子生徒にはぜひ京都大学へ入って欲しい。

森上:私立の男子校を預かる柳沢先生。

柳沢:文系・理系には全く分けていない。社会と理科の選択科目の数が違うだけだ。ただ本校では免許は同じ理科でも、物理、化学、生物、地学は別々の専門教員が担当するため、選択の広がり次第では教員の振り分けに支障が出る。特に理系の地学は、選択者は毎年1名から3名で、まさに家庭教師状態となる。もちろんそれが、生徒の自主性、自律性を養うことにもつながるのだが。

OBによる億単位の寄付を基にした「ペン剣基金」があり、その運用益(年約300万円)で、実験、調査などの研究費を生徒・教員に助成している。仕組みは大学の研究者と同じで、申請書を書き、審査会を通れば予算措置され、最後は報告書を書く。ドローンを水平に進ませるための研究等があり、教員の研究では、京都のお寺に夏休み籠っての文献調査などがある。生徒のグループでは広報担当などでも参加できるため、面白い友人関係ができることにも寄与している。

大学選びに関しては、私自身が高校時代には知りえない化学工学科出身で、それに出会えたのは東大の教養学部で学んだおかげだという話をすると、仕組みの違いに理解が深まる。最近は海外の大学へ直接行く生徒も、5名程度から徐々に増えている。高1段階では30名以上が希望するが、奨学金の問題などで最終的には10名弱に落ち着く。進路選択の準備という意味あいもあって海外のサマースクールに行くことを推奨している。学校単位の交換留学ではなく、自分で申し込むことにしていて、そのためのアドバイス機構も作っている。今年は中2から高2までの80名近くが出かけた。去年は70名、その前が40名、それ以前が20名ぐらいだったから飛躍的に増えている。ただ困るのは、時期が日本の学事暦では期末試験に当たること。そこで開成の教育に匹敵する、あるいはそれを凌駕するような教育経験の得られる学校に行く場合は公欠扱いにしている。その際、「飛び立て留学ジャパン」の奨学金がとても使い勝手がよいようだ。

海外の大学への進学に関しては、柳井正財団をはじめ奨学金は充実してきたが、反面、それらが取れないと諦める生徒が多い。そこでアメリカなら、現地の大学から得ることのできる奨学金もあると励ましている。これに応える者も出てきているから今後が楽しみだ。

山極:京都大学にも海外からサマースクールに参加したいという希望は多いが、宿泊施設に苦労している。オックスフォードやケンブリッジ等の海外の大学では、夏は学生がみな寮を出て、サマースクールのために空けてくれるから、そこを低料金で使ってもらえるが、日本の大学ではそれができない。これが解決されれば、短期留学生もかなり来ると思う。この9月に国際交流会館を2つ新しく開館した。京都市や京都府に土地を提供してもらっている。

短期留学の受け入れ拡大は、日本の学生にとっても望ましい。たとえば京都でいうと、最近、京都府の建てた京都府立京都学・歴彩館(府立大に所属)に、京都大学の教員が出向いて留学生相手に京都学を教えているが、学生も留学生を案内するアルバイトを通じて、京都の伝統に触れ、職人芸を目の当たりにすることができる。大学の中だけで4年間を過ごしていると、そういうことを知らずに卒業してしまうことになりもったいない。また知り合った留学生に招かれて、イギリスやアメリカ、フランスへ安価で行く者も出てくるなど、学生が自らの手で窓を開けることにもつながる。

森上:最後に学芸大附属の大野先生から。

大野:今年は特色入試で一人お世話になったが、本校は課題研究やフィールドワークなどに力を入れている個性的な生徒が多い。今の3年生には「オナラの音と臭い消すパンツ」の研究でメディアでも評判になった生徒もいる。本校のグローバル化対応はアジア重視。修学旅行はバンコクとソウル、またタイでは北部地方のチェンライにある高校と連携して、毎年15名ぐらいが行き来している(タイ王国プリンセス・チュラポーン・サイエンス・カレッジチェンライ校(PCCCR)との交流プログラム)。また、3年前にハーバード大学、昨年がハーバード大学とイェール大学、今年はオックスフォード大学に合格者を出した。キャリア教育では、30歳前後の活きのいい先輩を呼んで話をしてもらっているが、11人中6人が女子。女子が、在校中も卒業後も、男子に負けず臆せず活躍している。

森上:今日お集りの学校の入試について言えば、豊島岡さんが3年後には高校での募集をお止めになると。それに代わる女子の受験先として、元気な女子の多い大野先生のところが注目されるようになるとも予想されている。今日は先生方、お忙しい中、ありがとうございました。

大学ジャーナル Vol.137 掲載

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