
松本 紘先生
~Profile~
1942年生まれ。奈良県出身。京都大学工学部電子工学科卒業後、同大学工学研究科で電子工学を専攻。67年、同修士課程修了。京都大学工学部助手、助教授、NASA研究員、スタンフォード大学院研究員、京都大学宙空電波科学研究センター長、同大学生存権研究所所長などを経て、現在に至る。
学外では、国際電波科学連合会長、地球電磁気・地球惑星圏学会会長など歴任。2007年秋の褒章 紫綬褒章受賞。
専門分野は宇宙プラズマ物理学、宇宙電波工学、宇宙エネルギー伝送、生存権宇宙電波科学など。
宇宙空間は何もない空間?
前回は「生存圏科学」についてお話ししました。人類が現在の生活レベルを維持しつつ、文明を発展させていくためには、生存圏を宇宙へと拡大することが必要不可欠になるでしょう。
さて、人類が宇宙へと生存圏を広げて行くと、宇宙空間はどのような場所なのか、ということが身近な物理学のテーマとなってきます。よく「宇宙空間は真空である」と言われますが、みなさん「真空」とはどのような状態だと考えていますか。実は「真空」にもさまざまな解釈があり、古代ギリシア時代から議論がなされてきました。直感的に「真空」とは「何も無い状態」だと思われるかもしれませんが、仮に「真空」を「何も無い状態」だとするのであれば、先ほどの「宇宙空間は真空である」は正しくありません。
宇宙空間は決して「何も無い状態」なのではなく、そこには薄いプラズマが満ちています。それでは「真空」を満たしているプラズマとはいったいどんなものなのでしょうか。
物質の第四状態
たとえば、氷に熱を加えると水になります。エネルギーを加えたことにより固体から液体へと状態が変わったわけです。水に熱を加えると水蒸気です。今度は気体へと変化しました。気体ではひとつひとつの分子が自由に動き回っています。この分子にさらにエネルギーを加えると、どうなるでしょう。分子が崩壊して、原子へと状態が変わります。そこからさらにエネルギーを加えると、原子が崩壊して、原子核の周囲を回っていた電子が原子から離れます(電離)。原子核はプラスの電荷を帯びた正イオンとなり、電子は自由に動き回るようになります。
このようにして電離した物質の状態をプラズマと呼んでいます。プラズマは、固体・液体・気体の「物質の三態」のいずれでもないことから、「物質の第四状態(the fourth state of matter)」とも呼ばれています。
プラズマは、原子核(正イオン)も電子も電荷を帯びているため、全体としては電気的に中性でありながら、非常に電気を通しやすいという性質があります。
宇宙の99.999%以上はプラズマ
このようにプラズマの説明を聞くと、何か特別な物質の状態のように聞こえるかもしれません。しかし、実際には宇宙において、プラズマこそ一般的な物質の状態で、固体・液体・気体のほうがむしろ少ないのです。宇宙にある物質の99.9999%以上がプラズマであると言われています。
先述したように、宇宙空間が希薄なプラズマで満たされているというだけではなく、太陽をはじめとする恒星の内部やフレア、地球に降り注ぐ太陽風、稲妻やローソクの炎もプラズマなのです。オーロラが輝くのもプラズマによって説明できます。また、蛍光灯が光るのもプラズマによるものなのです。
これだけ宇宙を満たしているプラズマですから、宇宙全体に大きな影響を与えています。グレートウォールや超銀河団といった宇宙の大規模な構造がなぜ形成されたのか、という問いに対する有力な手がかりになっています。
私たち人類は、物理学の研鑽と科学技術の進歩とによって、ようやくプラズマの世界にまで到達しました。ただし、そのプラズマは「薄いプラズマ」です。太陽などの「厚いプラズマ」の究明は今後の課題として残されています。