
松本 紘先生
~Profile~
1942年生まれ。奈良県出身。京都大学工学部電子工学科卒業後、同大学工学研究科で電子工学を専攻。67年、同修士課程修了。京都大学工学部助手、助教授、NASA研究員、スタンフォード大学院研究員、京都大学宙空電波科学研究センター長、同大学生存権研究所所長などを経て、現在に至る。
学外では、国際電波科学連合会長、地球電磁気・地球惑星圏学会会長など歴任。2007年秋の褒章 紫綬褒章受賞。
専門分野は宇宙プラズマ物理学、宇宙電波工学、宇宙エネルギー伝送、生存権宇宙電波科学など。
磁気リコネクション
ブラズマ物理学はシミュレーションによってさまざまな理論を再現することで、これまでお話してきたプラズマに満ちた宇宙空間についての理解を深めてきました。
例えば、太陽風プラズマが地球磁気圏に入ってくることは観測デー夕からわかっていましたが、その仕組みはシミュレーションや実験を繰り返す中でようやく明らかになりました。太陽風と地球磁気圏の境界で磁気の再結合(リコネクション)が起きていることがわかったのです。
地球の磁場は南半球から出て北半球へ流れます。そこに太陽磁場を引っぱってのびてくる太陽風が接すると、できるだけ短くなろうとする磁力線の性質が働いて図の赤線のように磁力線がつなぎ変わります。この磁気リコネクションによって太陽と地球の磁力線が混合し、磁力線に沿って動く太陽風プラズマが地球の磁気圏内に入り込むわけです。磁気リコネクションは太陽フロアなど他の宇宙空間でも起きていて、オーロラをはじめとするさまざまな現象を解く鍵になると考えられています。
シミュレーションで解くプラズマの世界
磁気リコネクションを導き出すためには、プラズマをマクロにみる電磁流体力学だけでは十分でなく、ミクロな世界でみる粒子モデルのシミュレーションも必要でした。これは、お互いに電磁力を通して影響を及ぼしあう莫大な数の粒子の集まりとしてのプラズマの、非線形挙動を解きすすめるモデルです。
プラズマは非線形ですから、流体でみると近似としては解けても本質的には解けません。また一つ一つの方程式は簡単でも、何憶、何兆と相互作用を及ぼしあう相手が多すぎて、本質的に解くためにはスーパーコンピュータを使った計算科学が必要になります。ただし以前お話したように、観測と理論という物理学の原点を理解していることが重要です。磁場を中心とした実験物理学と非線形力学、宇宙プラズマ物理学のグループが協力することで、また、シミュレーションが観測と理論の間をつなぐことで、宇宙というプラズマの世界が少しずつ明らかになってきたといえます。
こうしてわかってきたことは、何も地球の周りだけに当てはまる話ではありません。太陽系の中でも磁場があるといわれる火星や木星や土星では、強さこそ違えど、地球同様、プラズマと相互作用して磁気圏を作っています。一方、磁場がないといわれる月では太陽光がダイレクトに当たっています。美しいオーロラも、磁場のある星で周りにプラズマが流れていたらどこでも起こるユニバーサルな現象なのです。また、太陽系に限った話でもありません。銀河系でも同じように磁気の流れをみることができるのです。
物理を学んで宇宙へ踏み出す
非線形で非常に多彩な現象が存在する宇宙は99.999%以上がプラズマでできています。宇宙の現象を支配しているのはまさにプラズマだといえます。これまでプラズマの話を延々としてきたのは、近い未来、人類は生活圏を求めて宇宙へ出ていく運命にあると考えているからです。宇宙のほとんどを占めるプラズマやその仕組みを知るための物理学の原理原則を理解していなければ、応用もききませんし、宇宙を利用することはできません。
来世紀の初めには、宇宙農場、宇宙工場ができているでしょう。決してマンガの中の話ではありません。2年後には国際宇宙ステーションも完成予定です。人間は砂漠の端でもジャングルの中でも生きています。そんな適応性が高くてタフな生き物ですから、宇宙でも知恵を出して生きていけるはずです。
頭が大きくて手足がひょろりとした宇宙人がよく描かれていますが、私は実際に存在するようになると思っています。それはなんと、宇宙へ出た我々自身の姿なのです。地球では重力が働きますから、司令塔である脳に心臓がポンプの役目を果たして必死で血液を送っています。これが重力のない宇宙へ行くと、頭は血が回りやすくなって大きくなり、手足は重力の負担が減って筋肉がなくなり細くなって、まるで宇宙人のような見た目になるのです。もちろん無重力状態で宇宙生活をする場合に、ですが。もしどうしても重力が必要だということであれば、ドーナツ状の大きな人工都市を作って遠心力を働かせて重力場を作ればよいでしょう。宇宙での生活は慣れればきっと楽なものに違いありません。腰も痛くなりませんし、どんな方向へもスイスイ進めるのですから。どうですか。未来が想像できてきましたか。少し話が飛躍してしまいましたが、次号ではいま話題の地球環境問題と絡めて話をしたいと思います。
※1 シミュレーション科学については連載第2回 (vol.74) 参照。 https://daigaku-j.com/wp-admin/post.php?post=2577 にも掲載。
※2 磁界での協力の流れを仮想的に線に表したもの。