大学ランキングからはわからない大学の実力
それでも大学ミスコンは続いている

教育ジャーナリスト 小林 哲夫さん

教育ジャーナリスト
小林 哲夫さん
~Profile~
1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994~)。
近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 橘木俊詔氏との共著)。

それでも大学ミスコンは続いている。

昨年11月、東京大駒場祭でミス&ミスターコンテストのイベントが行われた。キャンパスに設営された舞台では、ファイナリストと呼ばれるミス、ミスター候補者、男女あわせて10人が歌、踊り、芸などを披露していた。

観客層はまちまちだ。ファイナリストの家族、大学のクラスやサークル仲間、芸能関係 、特定のファンやマニアなど。ファイナリストの名前を記した鉢巻きをして、熱心にペンライトやうちわを振る人たちもいた。AKB48やジャニーズへの応援を彷彿とさせる。

この日のミスコンイベントでは何も起こらなかった。数年前、駒場祭で「ミスコン粉砕」を訴える学生がデモをしたり、ビラを撒いたりしていたが、そんな光景も見られなかった。

2010年代前半まで、大学ミスコンはそれなりに隆盛を誇っていた。しかし、2010年代半ばから大学ミスコンのあり方が問われ、上智大、東京女子大などは、性の多様化、ルッキズム批判に応えて、外見よりも中身を評価するコンテストに変えている。

2024年はどうだろうか。

ミスコンを開催した大学は次のとおり(判明分)。

東北学院大、筑波大、埼玉大、千葉大、東京大、東京都立大、青山学院大、亜細亜大、桜美林大、大妻女子大、学習院大、学習院女子大、慶應義塾大、国学院大、実践女子大、芝浦工業大、成蹊大、成城大、清泉女子大、中央大、日本大、武蔵大、明治学院大、明治薬科大、明星大、立教大、立正大、横浜国立大、関東学院大、新潟大、静岡大、愛知大、同志社大、立命館大、龍谷大、関西大、関西学院大、松山大、福岡大、佐賀大、長崎大

このうち、大学祭でミスコンのイベントは行われなかったのが、青山学院大、学習院大、 慶應義塾大、成蹊大、成城大、立教大、同志社大、立命館大、龍谷大、関西大、関西学院大などである。これは大学祭実行委員会が開催を認めなかったこと、つまり、大学お墨付きでないことを意味する。

青山学院大のミスコン主催者は、2020年まで大学公認サークルの青山学院大学学友会広告研究会だったが、21年から大学とは無関係の「学生有志」に変わった。現在、同大学のミスコン主催者はこう宣言している。「主催団体ミスミスター青山コンテスト実行委員会は青山学院大学とは一切関係ないものになります」(主催者のX)。

学生が大学の名を勝手に使って協賛企業を集めてやっている、というわけだ。

大学とミスコンは親和性がきわめて低い。2019年、慶應義塾大はこんな告知を出した。

「ミス慶応」等を標榜するコンテストについて

近年、学外において、「ミス慶応」あるいはそれに類する名称を掲げたコンテストが開催されていますが、それらを運営する団体は本学の公認学生団体ではなく、コンテスト自体も慶應義塾とは一切関わりがありません。しかしながら、それらのコンテストには本学の学生も参加しており、一部報道に見られるようなトラブルも発生しています。本学はこうした事態を深く憂慮しており、状況によって今後の対応を検討していきたいと考えます。

塾生諸君へ
この件に限らず、塾生諸君には、さまざまなトラブルに巻き込まれることのないよう十分に注意するよう望みます。何か困ったことがあれば、所属キャンパス学生生活担当窓口に遠慮なく相談してください。(2019年9月30日)

大学の多くはミスコンを快く思っていない。やめてほしい、というのがホンネだ。昨今、大学は教育目標にダイバーシティ(多様化)を掲げている。これは性の多様化も含まれ、外見で評価されるミスコンとは相反するからだ。

法政大は田中優子総長時代、こんな声明を出した。

「『ミスコン』とは人格を切り離したところで、都合よく規定された『女性像』に基づき、女性の評価を行うものである。これは極めて先見性に富む見解であり、本学学生が主体的にこれを提示し、『ミスコン』の開催を認めない姿勢を貫いてきたことは本学の誇るべき伝統と言えるのではないでしょうか。上記に鑑み、いかなる主催団体においても『ミス/ミスターコンテスト』等のイベントについては、本学施設を利用しての開催は一切容認されないものであることをご承知おきください」(2019年11月29日)。

2020年前半以降、新型コロナウイルス感染拡大で、大学ミスコンはYouTubeやインスタグラムなどSNSでの配信がメインとなった。 そしてネットでの人気投票システムができあがり、一部の大学では投票時に課金がなされている。ここでは特定のファイナリストに数十万円をつぎ込んで、その大学のグランプリにさせる動きも見られた。AKB総選挙と同じ構造だ。好きな女子学生を応援する金持ちのミスコンおじさんは、大学ミスコン業界では「石油王」と呼ばれており、キャンパスに歪んだビジネスが持ち込まれている、と言えよう。

こんな状況にもかかわらず、大学でミスコン開催の是非をめぐる論争もあまり起こらないのは、少々さびしい。昨年、京都大でミスコン開催の動きに対する、一部学生の反対運動があった程度だ。

それでも大学ミスコンは続いている。ミスコンに出たい学生、ミスコンでキャンパスを盛り上げたい学生がいるからだ。しかし、きわめて内輪感の強いイベントであり、多くの学生に周知されていない。お金をめぐるさまざまな問題も抱えており、このままではミスコンに関わる学生たちは嫌気がさしてしま い、やがて廃れていくのではないか。そう見ることもできる。

大学ミスコンは、大学の今や将来、そして大学がかかえる問題点をいくつも示してくれる。東京大、青山学院大、慶應義塾大、中央大はOKで、京都大、上智大、早稲田大、法政大はNG――という状況から大学の理念や方針、学生の気質が見えてくる。同レベルの難関校、同じミッション系でも温度差が見られる。また、なぜミス東京大があって、ミスハーバード大がないのか。グローバルな視点から文化の差異、とりわけジャンダー平等の意識差がうきぼりにされ、おもしろい。

第7回 大学ランキングからはわからない大学の実力

教育ジャーナリスト 小林 哲夫さん

1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)。近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 橘木俊詔氏との共著)。

地方出身、浪人減少で大学の多様性ははかられるか

 2017年11月、早稲田大はダイバーシティ宣言を発表した。こんなフレーズがある。

「本学には、なお多くの課題があります。新たな Vision を実現するためには、性別、障がい、性的指向・性自認、国籍、エスニシティ、信条、年齢などにかかわらず、本学の構成員の誰もが、尊厳と多様な価値観や生き方を尊重され、各自の個性と能力を十分に発揮できる環境が必要です」

 7年経った現在、どうだろうか。「女性」「国籍」については、女子学生と女性教員、海外からの外国人留学生と外国人教員は順調に増えている。 グローバル化は進んだが、国内、地域別出身者はどうだろうか。早稲田大は全国から多くの学生が集まると言われているが、昨今はそうでもない。

 一般入試合格者において関東1都6県出身(出身高校所在地)の割合について、10年間の推移を見てみよう。76.9%(2015年)→77.5%(16年)→76.2%(17年)→76.9%(18年)→76.9%(19年)→76.5%(2020年)→79.9%(21年)→79.2%(22年)→78.6%(23年)→79.1%(24年)

 関東の高校生が8割に迫る勢いだ。

 2021年はコロナ禍中の入試で、遠隔地に住む高校生が東京への移動を控えたことで地方出身者がかなり減少したと思われる。残念ながら、コロナ禍明けでも地方出身者が戻ってきたとは言い難い。経済的な理由は大きいが、東京に出なくても家から通える大学に通いたい、と望む高校生が増えたようだ。早稲田大というブランド力が今やたいして発揮されていないともいえる。

 2024年、早稲田大一般入試合格者のうち関東以外の上位校は、東海高校80人(40位)、旭丘高校68人(52位)、西大和学園高校65人(55位)だった。なお、1984年の関東以外上位校は広島学院高校84人(15位)、浜松北高校71人(20位)、灘高校70人(24位)となっている。地方の高校は奮わない。

 地元志向の高まりというより、都心回避といえなくもない。

 「年齢」はどうだろうか。一般入試合格者における浪人の割合について、振り返ってみた。 32.0%(2015年)→31.1%(16年)→30.9%(17年)→32.4%(18年)→34.3%(19年)→31.7%(2020年)→27.0%(21年)→24.6%(22年)→24.5%(23年)→22.7%(24年)

 10年間で浪人が10ポイントも減っている。少子化にともない浪人の母数が減ったことによる。かつては「何が何でも早稲田に入りたい」という層が一定数いて浪人したが、いまではそこまで強いこだわりをもつ受験生はいなくなり、現役で合格した大学に進むというケースが増えたからだろう。

 また、中高一貫校の受験指導が徹底されたことも大きい。 2024年の早稲田大一般入試現役合格者の上位は聖光学院高校161人、渋谷教育学園幕張高校155人となっている(附属、系列校を除く)。

 早稲田大はここ数年、学校推薦型選抜、総合型選抜の受け入れ枠を広げてきた。こうした非一般入試が増えることで、現役での合格者、入学者はますます多くなるだろう。早稲田大のキャンパスには9割が20歳前後の学生であふれることになり、年齢の多様化とは逆方向に進んでしまう。

 地方出身者に避けられ関東出身が増加、現役増加で学生の年齢が20歳前後に集中―――は学生の均質化を促し、キャンパスの知的な活性化は望めないのではないか。早稲田大は危機感を持っていい。

 どうしたらいいか。

 地方出身者には特別な奨学金、学生寮(食事付き)を完備する。地方枠を設ける、などを考えてもいい。さまざまな経験を持つ高年齢層を受け入れるためには、学校推薦型選抜、総合型選抜の門戸を広く開放すべきだろう。いずれにも現役に限定(「○○年卒業見込み」という資格)されていない選抜方法があり、既卒者も受けられる。ただ、前年卒つまり1浪までという制限がある。これらを取り払って、すこし年を重ねているがおもしろい人材をたくさん受け入れていい。

 もちろん、これらは早稲田大だけの話ではない。

 おもな私立大学での入学者総数における現役比率(2023年)をみると、専修大89.9%、東海大87.3%、日本大86.8%、法政大86.1%、立教大89.2%、南山大94.4%、立命館大88.1%、関西大91.2%、近畿大89.0%、関西学院大89.9%、福岡大90.9%となっている。 

これらは附属校、系列校、提携校から推薦で現役入学した者が多いからだろう。少子化対策として、定員割れに悩む学校の附属校化、系列校化、そして提携校を多く作ることは募集戦略として間違っていない。成績優秀な学生をしっかり確保できるからだ。  だが、中学高校と同じ環境で育った者が多く集まって均質な集団が形成されないか。ますます多様性からかけ離れないか。心配である。

(出典は早稲田大一般入試合格者、関東1都6県出身(出身高校所在地)の割合は同大学案内2016年版~2023年版。早稲田大一般入試合格者および現役合格者は大学通信。入学者総数における現役比率(2023年)は「大学ランキング 2025」から)

大学ランキングからはわからない大学の実力 第6回

司法試験予備試験という劇薬、天才発掘とその功罪

教育ジャーナリスト 小林 哲夫さん

~Profile~
1960年神奈川県生まれ。 教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)。近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 橘木俊詔氏との共著)。

 おもしろいランキングを作ってみた。
 2023年度、司法試験予備試験合格率上位校である。
①奈良大、ロンドン大100%、③東京医科歯科大、静岡県立大33.3% ④東京大15.5% ⑤京都大10.5% ⑥一橋大7.3% ⑦千葉大7.14% ⑧大阪大、静岡大6.25% ⑩慶應義塾大6.2%(奈良大、ロンドン大は受験者1人、合格者1人。東京医科歯科大は受験者6人、合格者2人)。
司法試験の受験資格を得るためには、原則として法科大学院に在学しているか、またはそこを修了していなければならない。しかし、時間の制約や経済的な理由などで法科大学院を経ない者でも、司法試験を受けられる。司法試験予備試験(以下、予備試験)に合格すれば、司法試験の受験資格を得られるという制度だ。
では、肝心の司法試験はどうか。最新データをみてみよう。
2023年、司法試験合格率は45.3%だった。(受験3928人、合格1781人)。 
これを出身ルート別にみると、①予備試験合格者92.6%(受験353人、合格327人)。②法科大学院学生(在学中)59.5%、③法科大学院修了者32.6%となっている。ちなみに司法試験合格率上位の法科大学院は①京都大68.4%、②一橋大67.2%、③慶應義塾大60.0%、④東京大59.1%、⑤神戸大48.6%となっている。合格者を出せなかった法科大学院は13校あった。これでは、司法試験合格実績からみれば、予備試験合格者は法科大学院修了者よりもはるかに優秀という見方が成り立ってしまい、残念だ。
予備試験の内容は、法科大学院修了者と同等の学識を有するかどうかを判定するものだ。それゆえ、法律の知識、運用方法をかなり身につけていなければ受からない。実際、かなりの狭き門で、2023年の合格率は19.0%だった(受験2562人、合格者数487人)。 だが昨今、頭脳に自信がある者が多くチャレンジしている。
 冒頭で紹介した予備試験合格率上位校をあらためてみてほしい。予備試験合格者の9割以上は司法試験に合格しており、近々、奈良大、東京医科歯科大、静岡県立大など法学部、法科大学院のない大学出身者から法曹の道に進む者が出てくるだろう。
 いったい、彼らはいつ、どのように勉強したのだろうか。東京医科歯科大合格者2人は2年生と4年生である。医学部生が医師国家試験受験前に法曹へのもっとも近道である予備試験に合格している。近い将来、2人は法曹、医師の両方の資格を持つことになる。 予備試験合格者の出身校には青山学院大、成蹊大、新潟大、静岡大、熊本大などがある。これらは法科大学院があったものの募集停止したところだ。一方で東京外国語大、三重大のような法科大学院と無縁な大学の出身者もいる。
 予備試験合格者を年齢別、属性別、大学の学年別にみると驚くべきことがわかる。最低年齢16歳、高校在学中1人。高校1年生または2年生だ。大学学年別では東京大1年7人、慶應義塾大5人、明治大2人、京都大1人だった。
高校2年生がどういう勉強をすれば予備試験に受かるのか。
前例があった。2021年に灘高校の2年生が予備試験に受かり、22年に3年生になると司法試験に合格してしまう。彼は翌年、東京大法学部へ推薦入学で進んだ。灘高校関係者によれば「ギフテッドと言っていい、ずば抜けた天才でした」。
もう1つ前例があった。2010年代、慶應義塾高校3年生が予備試験に受かり、慶應義塾大法学部に入学してから7月上旬に行われる司法試験に挑み合格している。しかも年代を違えて2人いて、いずれも19歳での合格だ。これは受験勉強をする必要がない、附属・系列高校出身のなせるわざと言えよう。
 では、入学したばかりの大学1年生はなぜ予備試験に合格できるのか。予備試験は7月下旬に行われる。前述のように、慶應義塾大なら「高大接続」を活用できればいいが、東京大は2月下旬の入試が終わってから、予備試験まで4カ月弱しかない。こんな短期間の勉強で受かるのはギフテッドなのだろう。
 これでは法科大学院の立場がない。2004年、法科大学院制度がスタートしたとき、グローバル化、ハイテク化を見据えさまざまな出来事に対応できる多様な法曹人材の育成が掲げられた。当初74校が設立されたが、2024年までに40校が募集停止となる。残り34校は関東、関西が中心で、北陸、甲信越、四国、山陰はゼロ、九州と沖縄は1校だけだ。そういう意味では予備試験合格者に新潟大、静岡大、西南学院大、熊本大の出身者がおり、結果的に地域格差が是正されているのは悪い話ではない。
 また少子化が進むなか、若く天才肌の人材が予備試験、司法試験を目ざすのも、法曹界にすれば嬉しい話だ。もっともゲーム感覚、資格マニア的に司法試験に挑まれるのはかなわない、法曹界にマイナス、という批判もある。
 お金も時間もかからない予備試験の受験者は増えている。劇薬的魅力と言えようか。法科大学院ルートより予備試験ルートのほうが法曹全体に活性化をもたらすことになれば、法科大学院教育の意義がぼやけてしまう。悩ましい。(データは法務省による)