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OPINION

雑賀恵子の書評 -『シン・アナキズム 世直し思想家列伝』

文:雑賀恵子

雑賀恵子の書評

『シン・アナキズム 世直し思想家列伝』書影
『シン・アナキズム 世直し思想家列伝』重田園江 著(NHK出版、2025年)

アナキズムといえば、無政府主義。国家や政府などのあらゆる権力を否定して、個人の完全な自由と平等を目指す革命思想で、19世紀の社会主義運動の一大潮流であった。思想家としてはプルードン、バクーニン、クロポトキン。日本では幸徳秋水や大杉栄。高校の教科書で取り上げられるのは、こんなところであろうか。19世紀末から20世紀初頭にかけての要人暗殺やらの事件がアナキストによるものとして国家弾圧が加えられたりしたので、テロなどの過激な行動のイメージを持つ人もいるかもしれない。法律やルールが無視されて暴力や強盗が横行しているような大混乱をアナーキーな状態などということもある。一方、既存の常識をぶち破り、国家のルールや商業主義に対抗するパンクロックやストリートアートなどの表現者は、アナーキー(=反体制)と自ら声をあげたりする。

アナキズムは語源的には、古代ギリシア語の支配者や権力、第一原理を意味するアルケーに否定接頭辞アンがついたもの、つまり「非権力」「支配者がいない状態」だ。

アナキズムとはなんだ?

ディヴィッド・グレーバーを読んで、自分はアナキストだと自己覚醒したという著者が、五人の思想家の紹介を軸に据えて、現代社会の息苦しさから逃れる道を示すものとしてアナキズムという思想の真髄を、ヴィヴィッドかつポップに描き出したのが本書である。

その一人グレーバーとは、自己責任論を押し付け生産性重視・効率重視で突き進む新自由主義が、人びとの生活を支える本質的な労働(エッセンシャル・ワーク)を徹底的に削り、非本質的な労働(ブルシット・ジョブ=糞仕事)を増殖させることを突いた本で話題になった経済人類学者だ。高速道路の急速な建設や大都市の再開発という名目で、人びとが生き生きと暮らせる場所が奪われ潰されていく有様に反対運動を起こし、のちの都市計画研究に大きな影響を与えた著述家ジェイン・ジェイコブズ。人びとが土地に根ざして営んできた伝統的な農業を工業化し、環境破壊を行いながら土地も生活も収奪していくグローバル資本主義と闘う科学者であり、思想家であるヴァンダナ・シヴァ。現代の社会に切り込み、グローバリゼイションや民主主義を問いかける社会思想史の森政稔。歴史学や人類学の知見から家族や地域、宗教や社会に埋め込まれた経済というものを見つけ、多義的で豊かな営みである経済が産業革命によって市場経済のみに切り縮められ、市場原理が人間を支配する社会に変容していくさまを解き明かし、経済学、政治学、人類学などさまざまな分野に影響を及ぼしたカール・ポランニー。

かれらの思想や生き方に触れると、なんとなく元気が出てくる。いまの社会をがんじがらめにしている権力や第一原理が浮き彫りにされ、当たり前のように思っていたことがひっくり返されたりもする。わたしが空気を求めることを、共に生きるわたしたちの空気を求めるように動きを変えていきたいと願う。

そうか、アナキズムとは、こういうことだったのか。

評者プロフィール 雑賀 恵子

文筆家。京都薬科大学を経て、京都大学文学部卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程修了。大阪教育大学附属高等学校天王寺学舎出身。著書に『空腹について』(青土社)、『エコ・ロゴス 存在と食について』(人文書院)、『快楽の効用』(ちくま新書)がある。本誌では、2008年11月発行の79号から、ほぼ毎号、書評を寄稿。

大学ジャーナル Vol.167 掲載

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