みなさんは物理学好きですか?公式が多くて何に役立つのかわからない…といった声が聞こえてきそうですが、本来、物理はさまざまなところ物事の仕組みを明らかにする学問ですから、面白くないはずがありません。みなさんが持っている携帯電話やパソコン、最新の医療機器など、生活を取り巻く多くのものに物理が応用されていますし、宇宙の仕組みを探るのも物理です。身近なところから遠くまで物理の世界は広がっているのです。イギリスでは物理の面白さを高校生に知ってもらおうと、最新の成果などを題材にした「アドバンシング物理」というカリキュラムがあります。今回から始まるこの連載では、物理を身近に感じてもらうとともに、教科書の背後にある物理の面白さをご紹介していきたいと思います。

坂東 昌子先生
~Profile~
愛知大学名誉教授 NPO法人 あいんしゅたいん理事長
1965年同大学大学院理学研究科博士課程修了(博士号取得)。京都大学理学部助手、講師を経て、87年より愛知大学教養学部教授。専門は素粒子論、非線形物理。京都大学に保育所設立を実現させるなど、女性研究者の支援でも活躍。京都大学の湯川秀樹研究室で素粒子論を専攻。ノーベル賞を受賞した小林・益川博士とは助手時代は同じ研究室。2007年日本物理学会長・同キャリア支援センター初代センター長 を経て、2009年3月若手研究者支援のためのNPO法人「知的人材ネットワークあいんしゅたいん」を設立。現在に至る。
「4次元を越える物理と素粒子」「理系の女の生き方ガイド」など著書多数。大阪府立大手前高等学校出身。
集団が起こす現象 – 「相転移」
世界を構成している物質は、百種類ほどの原子(元素)の組み合わせであることはみなさん知っていますね。物理はものの仕組みを明らかにするために原子から素粒子と小さな世界の様子を探る一方、それが集まった集団で起こる振る舞いにも目を向けてきました。
多数の同じものの集まりのことを「多体系」といいます。私たちの周りには、原始の多体系や人間の多体系など、さまざまな多体系があります。その中では、構成するここが相互作用をしたりコミュニケーションを取ったりすることで、集団全体の状態変化が起こることがあります。この現象を物理では「相転移」と呼んでいます。
原子磁石になって自発磁化現象(「相転移」)を体現してみよう。
鉄やニッケルなど、磁石によく引き寄せられる物質(強磁性)も、温度が高い状態だと、ここの原子が好き勝手に動いていて、磁石に引き寄せられません(常磁性)。しかし温度を下げていくと、臨界温度(キュリー温度)でそれぞれの原子間に働く相互作用の影響の方が大きくなり、近くの原子同士の自局の向きがそろい、それが全体に広がって磁石になります(自発磁化)。ばらばらの方向を向いているよりも。周囲と状態を合わせた方が安定するため、なるべくそろえようとするのです。臨界温度になると自発磁化が現れる現象も「相転移」現象の一つです。
今回はこの自発磁化をみなさん一人ひとりが一つの磁石になって実験する方法をご紹介します。
自発磁化の相転移現象の実験
準備するもの: 人数分の表と裏が色の違う紙(それぞれの色が磁石の向き <S極かN極か> を表します)。
※空席は作らないように座りましょう。
手順:
① まず紙を両手で持ち、好きな色を前方に向ける。
② 自分の周りの人の紙の色を見る。
③ 号令に合わせて、以下のルールで紙の色を変える。
ルール: 自分の前後左右を見て、多数決で決める。
・ 前後左右で多い方の色に合わせる。
・ 同数の場合はどちらでもよい。
大学生にこの実験をしてみたところ、700人近い人数で、7~8回でほぼ全員の色が揃いました。
同じ色になったということは磁石の向きが揃ったということです。
別のルールを考えても構いませんし、先生に授業で取り上げてもらうなどして、ぜひみんなでやってみてください。