大学ジャーナル UNIVERSITY JOURNAL

早稲田大学文化構想学部が新英語学位プログラム「国際日本文化論プログラム」を設置

初出: 大学ジャーナル Vol.120(2016 年 6 月)

早稲田大学の文化構想学部は2017年度、初の英語学位プログラムとなる国際日本文化論プログラム(Global Studies in Japanese Cultures Program)を多元文化論系に新設します。日本文学を中心に日本文化についてすべて英語で学ぶプログラムで、国内の高校卒業者(日本学生)と海外の高校出身者(海外学生)(定員いずれも上限15名)が、ともに学びます。日本人にとって日本文化を英語で学ぶ意味とは、海外からの学生とともに学ぶ意義とは?ご自身も比較文学の立場から日本文化研究に取り組まれている安藤文人先生に、新プログラムの狙いや特徴、求める学生像、および早稲田大学文化構想学部・文学部のグローバル化への展望についてもお話いただきました。

なぜ、日本文化を英語で研究・発信するのか

国際日本文化論プログラムの一つの目的は、日本文化研究を英語で発信できる人材の育成です。これまで、国内の日本文化研究はほとんど日本語で進められ、発信の多くも日本語によるものでした。「本家本元」の研究ですから、当然、質は世界でもトップクラス。特に早稲田大学の場合は、坪内逍遙以来の伝統があり、文学研究では日本の一、二を争うとされています。一方、世界では今、学術研究は分野や地域を超え英語でアプローチし、英語で発信するのが大勢です。本学のみならず、日本の研究者が日本語にこだわり続けると、世界の日本文化研究の中での存在感は薄れ、日本文化を世界にアピールする機会もまた、失われていく恐れがあります。日本人といえども、英語による日本文化研究に積極的に加わり、発信していかなければなりません。「わびさびは日本人にしかわからない」、と言い切ってしまえば話はそこで終わり。「わびさび」を世界の人々にわかるように説明する能力が求められますし、また説明を試みる中で、新たな角度から「わびさび」を捉えなおすこともできます。単に日本語での研究を英語に訳す、ということではありません。英語による日本文化研究は、同じ英語でなされている他の地域の文化研究と共通の理論で比較・分析することを可能にもします。例えば文学研究では、近年、これまでの比較文学を一歩進めたWorld Literature(世界文学)という考え方が注目を集めています。「国民文学」として個別に研究されてきた様々な地域・時代の文学を、世界的なコンテキストの中で共通の理論的枠組を用いながら研究していく方法です。その中でもっぱら用いられるのは英語です。もちろん私たちには、日本文化研究において、日本人ならではのアドバンテージがあります。国内には膨大な一次資料がありますし、日本語話者としてテクストを精緻に読み解くこともできます。今後は、その成果を世界の研究者に発信、共有しながら、新たなアプローチを切り拓くことが求められます。

英語文脈から新しい日本文化研究が生まれる。外国からの学生にも取り組みやすく

このプログラムのもう一つの目的は、日本人による新しい日本文化研究の創出です。英語で表現を工夫することは、日本語では覆い隠されている側面に光を当て、それまで見えていなかった新しいテーマを浮かび上がらせてくれます。例えば、「明治維新」は一般的にはMeiji Restorationと訳しますが、これでは「明治の(王政)復古」、かつてあったものの復活というニュアンスが強く、維新、つまり改革というニュアンスは伝えきれません。ではどう訳せばいいのか。市民革命、Civil Warとしてはいけないのか、だとするとそれはなぜか。このように、英語の文脈で考えることで新しい問題意識が次々に生まれ、それを考えることが新たな知見につながってくるのです。このプログラムには他に、日本文化研究に興味を持ちながらも、日本語の壁に阻まれてそれを断念するといった外国人に対して、そのきっかけを与えるという目的もあります。日本文化だから日本語で、と杓子定規に考えるのではなく、まずは言語のハードルを低くして仲間に加わってもらう。そこから徐々に日本語も覚えてもらえるかもしれません。実際、外国文学を研究する私たちの多くも、きっかけは日本語に翻訳されたものだったはず。日本文化研究のすそ野を世界に広げるには、日本語の授業にこだわってばかりではいけないと思います。

いかに文化の色メガネを外すか

このような目的や狙い以上に重要なのが、日本文化についてわかったつもりではいるものの、英語はそれほど堪能ではない学生と、日本文化についてはあまり詳しくはないが英語には堪能な学生が、混ざり合って学ぶことだと私は考えています。「文化は色メガネ」であるとよく言われるように、私たちは自分の育ってきた文化を通してしか世界を見ることができません。しかし文化を研究する者は、色メガネを外すことはできなくても、自分がそれをかけていることを常に自覚しておく必要がある。また、私たちはしばしば、「日本らしい」「日本らしくない」という判断をしがちですが、それ自体が一つの偏見かもしれませんから、日本に固有と思われていることについても、まず一度は疑ってみることが必要です。その上で、「この考えは他の文化を背景に持つ人と共有できるか」と常に自問自答する。あるいは、海外の人たちの突拍子もない意見についても、頭から否定するのではなく、なぜそういう考えができるのかについて深く考える。場合によっては、いかに自分が日本文化について知らないか!ということを自覚することも大切です。私は日本文化を世界の人に本当に理解してもらうには、必ずこうした段階を経なければならないとさえ思います。このような文化の捉え直しをした人こそが、世界に向けて発信していくべきだと考えています。もちろん、このことはそれほどたやすいことではありません。だからこそ、異なる色メガネをかけた人と交流する、できればともに学ぶことが極めて重要なのです。将来研究者になる、ならないにかかわらず、このプログラムを通じて育てたいのはそんな人たちなのです。

グローバル化へ向けて加速文化構想学部・文学部、大学全体の取組

2017年度には、文化構想学部・文学部で従来の3教科型に加え、英語4技能テスト利用型※1も始まります。英語力を活かして入学してくる学生の中には、本プログラムに関心を持つ人も少なくないはず。学部間や論系間の垣根が低いのが文化構想学部・文学部の特徴の一つですから、プログラム外の学生も積極的にこのプログラムを受講してもらいたいと思っています。創立150周年へ向けた長期計画である「Waseda Vision150」では、2032年までに全学の授業の半分を、英語をはじめ日本語以外の言語で行うとしています。簡単なことではありませんが、私は今回のような取組が触媒となり、英語による授業に対する学生のニーズが高まれば、それはけして不可能な目標ではないし、学生が、使用言語ではなく内容で授業を選ぶようになる日も近いと期待しています。英語による授業が増えれば、世界中から優秀な研究者を招聘することもできますし、それによって英語による論文数も増加し、早稲田大学から世界に向けた発信力も高まります。このことはまさに、今回のプログラムの開設趣旨につながることでもあるのです。

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  • 国際日本学と角田柳作

プロフィール

早稲田大学第一文学部卒業、早稲田大学修士(文学)。専門はナラティブ理論、比較文学。角田柳作記念国際日本学研究所の一員としても活動する。主な著書・論文に『院単 大学院入試のための必須英単語1800』(ナツメ社、2006年)など。岐阜県立岐阜高等学校出身。早稲田大学文化構想学部教授安藤 文人先生

大学ジャーナル Vol.120 掲載

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