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大学ランキングからはわからない大学の実力 第16回 芥川賞作家、直木賞作家が母校から誕生。大学にとって英雄だ

文:大学ジャーナル編集部

大学ランキングからはわからない大学の実力 第16回

Profile
1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年〜)。近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 橘木俊詔氏との共著)。

2026年度上半期の芥川賞に小砂川チトさん、直木賞には朝倉かすみさんが選ばれた。小砂川さんの母校、慶應義塾大学はこんな告知を出している。

「7月15日(水)第175回芥川賞が発表され、塾員(文学部卒・大学院社会学研究科修了)の小砂川チト君の「ゾンビ回収婦」が選ばれました。小砂川君は、2022年「家庭用安心坑夫」で第65回群像新人文学賞を受賞しデビュー。同作品は第167回芥川賞候補に、2023年「猿の戴冠式」は第170回芥川賞候補、第37回三島由紀夫賞候補、第46回野間文芸新人賞候補に選ばれました」(大学ウェブサイト2026年7月17日)。

https://www.keio.ac.jp/ja/news/20260717-akutagawa/

伝え方がたんたんとしている。

後述するが、多くの大学では関係者(在校生、卒業生、教職員)が芥川賞、直木賞を受賞すれば、「おめでとうございます」「誇りに思います」などと祝い、自慢のフレーズがつくものだが、慶應義塾大学はそこまでは書かない。だが、三田会会員は、「祝いましょう。自慢してください」と受け止めたのではないか。

興味深いのは、この告知からは慶應義塾大学の特徴が見てとれることだ。卒業生を「塾員」と記し、敬称は「君」を使う。これは慶應義塾大学独特のルール、習慣だ。他大学であれば間違いなく「さん」付けするところだが、慶應は敬称に対するこだわりをしっかり示してくれた。大学はこう説明する。

「慶應義塾で公式に「先生」と呼ばれるのは、創立者である福澤諭吉ただ一人です。式典や掲示などでは教員も学生も等しく「君」づけで呼ばれます」(大学ウェブサイト)。

https://www.tsushin.keio.ac.jp/about/feature.html

直木賞受賞の朝倉かすみさんは北海道出身。道内の武蔵女子短期大学を卒業している。朝倉さんが在学中は、短期大学だけだったが、現在は2024年開学の北海道武蔵女子大学が同じキャンパスにある。

大学はとても喜んだ。

「朝倉かすみさんは北海道武蔵女子短期大学の卒業生として、長年にわたり創作活動を続けられ、多くの読者に愛される作品を世に送り出してこられました。そのたゆまぬ努力が実を結び、日本を代表する文学賞である直木賞の受賞という大きな栄誉につながりました。北海道武蔵女子短期大学の卒業生がこのような素晴らしい活躍をされていることは、学生の皆さんにとっても大きな励みとなることでしょう。(略)朝倉かすみさんの第175回直木賞受賞を、学生・教職員一同、心よりお祝い申し上げます」(大学ウェブサイト2026年7月16日)。

北海道武蔵女子短期大学 卒業生・朝倉かすみさんが第175回直木賞を受賞されました。

これより一期前の2025年下半期の受賞者を見てみよう。

芥川賞を受賞した畠山丑雄さんは京都大学文学部を卒業している。湊長博総長はこう祝福した。

「このたびの栄えある受賞にあたり、京都大学を代表して、心からお祝い申し上げます。畠山さんは、本学文学部で読書や執筆に目覚め、在学中の2015(平成27)年に『地の底の記憶』により文藝賞を受賞されて以来、文芸界のトレンドをあまり気にすることなく書きたいものを書いてきたと仰っています。今回の受賞作『叫び』は歴史と時空を超えた壮大なスケールの物語ですが、トレンドに乗ることなく、自らトレンドを作ってこられたその姿は、まさに本学が伝統的に重んじる独創性の賜物であり、深い感銘を受けています」(京都大学ウェブサイト)。

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2026-01-20

大学が発信する大学関係者の芥川賞、直木賞受賞に関する告知においては無署名または広報課名義が多い。大学トップは少数派だ。京都大学総長はよほど嬉しかったのだろう。慶應義塾大学との違いが際立つ。

直木賞受賞の嶋津輝さんは日本大学法学部出身だ。

「2026年1月14日(水)に開催された第174回直木三十五賞の選考委員会において嶋津輝氏(法学部卒)の「カフェーの帰り道」が授賞作に決まりました。本学卒業生の直木賞受賞は第94回(1986年)に林真理子氏(本学理事長、芸術学部卒)が受賞して以来、約40年ぶりの快挙となります」(日本大学ウェブサイト)。

https://www.nihon-u.ac.jp/information/20260115-4694.html

まだ、林真理子さんが理事長だったころの慶事である。ならば、直木賞の大先輩である林さんが小説家として、嶋津さんの受賞作品がいかにすばらしいかを論じてもよかったのではないか。大学広報は林理事長にそれぐらいのことは働きかけてほしかった。

ここからもう二期前=2024年下半期を見てみよう。

芥川賞を受賞した鈴木結生さんは西南学院大学の大学院生だった。同大学がプレスリリースでこう記している。

「本学では、学生が主体的に文学や読書に親しむための取り組みとして『読書会プロジェクト』を実施しており、広い視野で文学を楽しみ、表現力や思考力を養う教育環境を整えている。本学にとっても、今回の鈴木結生さんの芥川賞受賞の朗報は、非常に喜ばしいものである」(西南学院大学ウェブサイト)。

【西南学院大学】本学大学院在学生 鈴木結生さん 第172回芥川賞受賞

西南学院大学は2010年代、卒業生が相次いで芥川賞、直木賞をとった。2012年に葉室麟さん、2015年に東山彰良さんが直木賞、2017年には沼田真佑さんが芥川賞を受賞している。

さらに、ここから二期前=2023年下半期はこんな感じだ。直木賞を受賞した河﨑秋子さんの出身校、北海学園大学は彼女の作品、キャリアを伝えている。

「丹念な資料収集に基づいて北海道の自然・歴史に独特な角度で切り込んできた河﨑さんですが、受賞作『ともぐい』にみられる熊をはじめ野生動物と猟師の対峙はまさに河﨑さんの真骨頂!(略)大学卒業後、ニュージーランドで緬羊飼育技術を1年間学んだ後、実家で酪農に従業しつつ緬羊を飼育・出荷。チーズも製造」(北海学園大学ウェブサイト2024年1月18日)。

2023年上半期、直木賞作家となった垣根涼介さんは筑波大学で学んだ。

「垣根氏は1989年に本学の第二学群人間学類を卒業されています。おめでとうございます!」(筑波大学ウェブサイト2023年7月20日)。

https://www.tsukuba.ac.jp/news/20230720143058.html

あっさりした紹介だが、「!」は喜びを表している。また、学類のアピールは忘れない。

同時期、直木賞をとった永井紗耶子さんは慶應義塾大学出身だ。

「塾員(文学部卒)の永井紗耶子君の「木挽町のあだ討ち」が選ばれました。永井君の同作品は今年5月の第36回山本周五郎賞も受賞しています」(大学ウェブサイト2023年7月20日)。

https://www.keio.ac.jp/ja/news/20230720-1/

やはり、慶應義塾大学である。こだわりを示す通常運転ぶりはさすがだ。

芥川賞作家、直木賞作家がわが大学から生まれた。

大学にとってヒーロー、ヒロインである。学生、卒業生は盛り上がり、帰属意識は強まる。大学は広報のツールとして活用しない手はない。できれば、そこから一歩踏み出して、毎年1回は客員、臨時、特任教授として教壇に立ってもらってもいい。学生、教職員はたいそう喜ぶだろう。

また、大学が地域住民に向けて無料の公開講座を開いて、芥川賞作家、直木賞作家に講演してもらう。両受賞作家への見返りとして、大学は彼らの受賞作品を大量に購入し、オープンキャンパスで配布する。そうすれば、芥川賞作家、直木賞作家は講演の1つや2つ、引き受けるだろう。

大学は地域貢献、社会還元の一環として、芥川賞作家、直木賞作家をフルに活用してもいいのではないか。

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