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食権力の現代史ナチス「飢餓計画」とその水脈

文:大学ジャーナル編集部

初出: 大学ジャーナル Vol.165(2026 年 2 月)

23年10月パレスチナ・ガザ地区へのイスラエルの軍事侵攻が始まって以降、すさまじい攻撃によって、住居や商業施設ばかりではなく生活を支えるインフラ施設、病院や学校なども徹底的に破壊された。26年2月中旬時点では死者数だけでも7万2千人を超えて、「停戦」発効後も増え続けている。死者の大半は、女性、子供、高齢者だ。直接の爆撃や攻撃による死亡ばかりではない。破壊と封鎖のため物資が圧倒的に不足し、ガザ地区の住民のほとんどが飢饉に直面した。ガザ市民の大半が深刻な栄養失調、飢餓状態に苦しみ、数多くの生命が奪われている。

戦争には飢餓がつきものだ、と思うかもしれない。だが、なぜつきものなのかを考えてみよう。農地や農業資産、食料貯蔵所、加工所、供給所、水やエネルギー供給、輸送手段、それらが破壊されることによって、甚大な食料不足に陥る。また、支援物資搬入の妨害や分配の制限も行われる。

戦争だから飢餓が起こるのは仕方がないのではなくて、飢餓を戦争の武器にしているのだ。攻撃の対象を軍事施設や兵士のみならず、食の生産と供給を行う場所にも広げることによって、飢餓をもたらすようにしているのである。

本書の指摘によると「飢餓という武器」は、敵とみなす人々全体を対象として消滅させる。攻撃という印象が希薄なため加害者も被害者も当事者意識が薄い。しかも加害者は火薬と武器を節約できる。

したがって、戦争状態とはみられない場所でも、「飢餓という武器」は、実は世界の至るところで有効に使用されてきたし、現在でも使用されているのだ。直接的な破壊を行わなくとも、はっきりと目に映らない形で、飢餓状態を生み出す方法はいくらでもある。

本書の著者は「食料や食料生産に必須のものを一局に集中し、それらを根拠に人間や自然を統治したり、管理したりする諸力の束」を「食権力」と呼ぶ。食権力を用いて繰り広げられる暴力のありさまを、ナチスの政策を中心として詳細に描き出す。そして、1948年パレスチナを占領し支配して以来、イスラエルは食権力としての暴力をナチスから受け継ぎパレスチナに対して行使し続けてきたことを、浩瀚な資料を用いて実証的に明らかにする。

ナチスは、ユダヤ民族を消滅させることを目的として、さまざまなやり方で食権力を行使した。その凄惨な苦しみを受けた歴史を背負っていると主張するイスラエルが、ナチスと同じやり方でパレスチナ人を消滅させようとしている。そのアイロニーをどう受け止めるべきか。

世界システムの中で、グローバル資本や大企業が生み出す国家間格差や貧困もまた、食権力の行使による暴力と捉えることができる。そのことを本書は、食権力の「現代史」として開いてくれた。

キャプション

  • 藤原 辰史人文書院、2025年

プロフィール

文筆家。京都薬科大学を経て、京都大学文学部卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程修了。大阪教育大学附属高等学校天王寺学舎出身。著書に『空腹について』(青土社)、『エコ・ロゴス 存在と食について』(人文書院)、『快楽の効用』(ちくま新書)がある。本誌では、2008年11月発行の79号から、ほぼ毎号、書評を寄稿。

大学ジャーナル Vol.165 掲載

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