初出: 大学ジャーナル Vol.87(2010 年 5 月)
小学生の10人に一人が何らかの発達障害を持っている。こんなショッキングな報告もなされる中、子どもの発達をもっと医学の立場から捉えるべきだとする小児神経科の小西行郎先生。医療からだけでなく、工学、心理学、社会学など学際的な視点からの「赤ちゃん研究」をめざす〝日本赤ちゃん学会〟の理事長でもあります。学校教育との連携をはじめ、胎児の研究にも取り組むかたわら産科・小児科の連携も精力的に計っておられます。小児神経科学の視点から子どもの発達についての長年のご研究による知見と、将来教育者をめざす高校生へのメッセージをいただきました。
生まれたばかりの赤ちゃんはしゃべることができません。そんな赤ちゃんは意思を主張したり周りとのコミュニケーションを、泣いたり笑ったり、見たものに手を出したりする運動によって行っています。
最近では、こうした運動はお母さんのお腹にいる胎児の間から行われていることがわかってきています。そしてそれが自分の身体の認知につながり、脳を作っているともいわれます※1。これは、ADHD(注意欠陥多動性障害)※2などの発達障害が超低出生体重児(未熟児)では健常児の5から8倍の割合で多く発生していると言われていることと関係するのではないか、と考えています。
未熟児とふつうに生まれる子との一番の違いは、子宮内生活の長さです。子宮の中で羊水に浮かんでいた赤ちゃんが、ある日突然外の世界に出てきて重力にさらされるわけですから、胎動も変わってきます。胎児は動くことによって自分の体や子宮に触れ、自分の体や自分以外のものを認知するのではないかという意見があります。そうだとすると子宮外に出た胎児は自由な運動がしにくくなり、自分の体を触ることも少なくなって自分の体を認知することが難しくなるのではないかと考えられます。さらに子宮内と違って明るさや騒音などの刺激も強くなります。したがって、感覚能力の発達も違ってくる可能性があります。だから未熟児に発達障害が多く発生するのではないかというのです。
とはいうものの、胎動はいろいろな因子の影響を受けると言われており、また未熟児がすべて発達障害をきたすということではありません。ただし胎児期から子どもの発達は始まっていて、発達障害は胎児期からきちんと見ていかないとわからないというのが最近の見解です。そしてもう一つ大切なのは、人間は動くことによって自分を知るということ。動くことによって他人と関わり他人を知るということです。
胎児は自発的に動いて、それが触覚によってフィードバックされることで自分や他人を認知して、自分の世界を作っているのです。それができない子どもが発達障害になるというのは、ある程度納得のいく説明です※4。こうした考えは、新生児において発達障害を持つ子どもは自発運動や原始反射に異常があるとの報告とも密接に関係しているように思います。



